待ち人は美しい人だった①
妄想は時間をつぶしてくれるめんどうな事でも嫌な事でも妄想すれば万事解決ってもんよ。あたしは小言マシーンのミゲルの言葉を聞いているふりをしながら耐えがたい時間をようやくクリアした。全部聞ける訳ないでしょ。そんなあたしの思っている事に気付いているかもしれないけど、そんなのどうでもいいの。
あたしがよければ全てよし! って事よ。はたから見たら自分勝手に思うかもしれないけど、少しくらいいいじゃない? そんなんじゃ生きていけないわよ、そんな器用じゃないからね。
一つため息を吐くと、いつの間にか自分の店の前にいる事に気付く。まるでワープしてきたような変な感じ。時間の錯覚が普通じゃないと考えちゃうわよね。なんでもかんでも楽しくじゃないと面白くない。楽しむ事があたしのメインだから踊り子はやめれないのよね。
なりたくて鑑定士なんかになっている訳じゃないもの──
ミゲルは掴んでいた手を放し、目で合図をする。王妃が待っているからいつもの暴言が聞こえたらマズイってとこかしら。そうなるのは必然的だけど、なんだか嫌いだわ。立場で態度を変えるとかあんまり好きじゃないのよね。王でも王妃でも少し立場が違うだけで生きてる事は一緒だもの。以前ミゲルにそのまま伝えるとちゃんとしなさいと助言されたのを思い出した。
遊びに来ている訳じゃないものね。用事がないとお忍びで店に来ないわよ。王が動くなら一歩下がって納得するけど、今回は王妃か、行動の違和感を感じながら、ゆっくりと店のドアを開いていく。
ギィとドアが軋み声をあげながら、あたしの鼓動も加速していく。王妃はめったに人前に出てこない人だから緊張しているのかもしれない。ゴクリとつばを飲み込みながら中に入っていった。
「お待たせしてしまい申し訳ございません王妃様」
椅子に座っている王妃は反対側を向いて座っている。後ろ姿から観察すると綺麗な金髪の髪とスリムな体系。普通じゃないオーラーが半端ない。町民の恰好をしているのだけど、全然隠しきれていないから不思議。やっぱり雲の上の人なんだなぁ、と圧倒されていた。
クルリとあたしの方に振り向くと大きな青色の瞳が輝いている。じっと見つめられると石化してしまいそうな美しい瞳。取り込まれてしまいそう。
「いいのですよ、待つのも楽しいですから」
そう言って微笑む姿を見て見惚れている自分がいる。って待ちなさいよ。あたしはノーマルなの。女性に興味なんてないんだから。
耳元でそっと囁いてくるのはミゲル。
「見惚れてた?」
図星をつかれたけど、この空気の中でいつもらしい自分を出す事が出来ないあたしは目でうるさいと訴える。するとくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「そんな硬くならないでジュビアさん、貴女はいつも通りでいいんですよ」
立場を作るのは好きじゃない。だけどどうしてかこの人を前にしているとどうも調子狂う。でもでも、王妃様がそうおっしゃるなら、自分らしさを発揮しないといけないわよね、あたしらしくないし。
スゥと空気を吸い、両頬に力を入れる。
「じゃ無礼講ってことで」
「ちょっと! ジュビア」
「心配しなくていいのですよ、私がいいと言ったのですから」
「はい……」
王妃様の言葉で続きの言葉を失くしたミゲルは口をパクパクしながら様子を見ている。あたしはスッと王妃様の目の前に近づいていき、一言いった。
「王妃様じゃ呼びにくいのよね、名前は何て言うのかしら?」
「くすくす。私の名前はサイレですわ、よろしくね」
「ええ。よろしく」
こんなたわいもない言葉が友達になるきっかけだと思うの。だから大切で守りたい瞬間だった。




