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赤い男


 『預言者よ、お前の思い通りになると思うのか?』

 『サイレ次第としか言えないわね』

 『俺はこの女を喰う事は出来る。この女は俺を生かすのに相応しい肉体を持っているからな。それを手放してまで肩を持つ気はない』

 『……』


 大竜はサイレの姿でそう告げる。髪色が変化し真っ黒になっている。着ていた戦闘服も黒い霧が肉体を包み込み大竜の着物へと移り変わる。サイレの体なのに別人にしか見えない。髪色や着物以外はサイレそのものだから余計だ。


 『お前も気づいているだろう? どうも奴は俺に加担したいらしいな』

 『……』


 何も言えない。言葉を選んでも少しでも間違いを起こしてしまうとミゲルに因果の反動が来てしまう。本来ならサイレが背負うものをミゲルが背負ってしまえば、その先は大竜の思い通りになってしまう。その思惑があるからこそ言葉が欲しいのだろう。預言者の言葉は全てを逆転させてしまう力があるのだ。


 昔はその力を利用し、世界を崩壊させた者もいた程に──


 先祖のしたカルマに縛られているミゲルにとっては禁忌そのもの。だからこそ今は耐え忍ぶ時なのだろう。感情的にならないように息を整えると、瞼を閉じた。


 あたしに出来る事は限られているだからこそ──



 キィィィンと波動を合わせていく。

 波動は音と変化し彼女の元へと向かうのだ。



 「熱い……胸が」

 

 先ほどまでサザと食事を取っていたジュビアに異変が起こる。カタンとスプーンを落とし、倒れていく。ハァハァと苦しそうなジュビア、しかしそこにはサザの姿はない。


 ドクンドクンともう一つの心臓が脈を打ち出した。そして二つの心臓が交互にリズムとなり曲を奏でていく。背中に見えるのは天使の羽根。心臓からは全身を支配していく音と共に光る宝石の姿が露わになる。


 『お前のナイト様は不在のようだな。ジュビアよ、羽ばたくのだ』

 「ぐぅぅぅッ」

 『そんな痛み『人間』の器だから感じるまやかしでしかない。本来のお前なら簡単に跳ねのける事が出来たのに、堕ちたな』

 「あ……なたは」

 

 苦しみながらも声の主の正体を掴もうとするジュビア。


 『俺様(・・)が少し助けてやろう、今のお前には難しいからな』


 スラリと抜いた剣を見つめながら刃先が光る。赤色に映る男は持ち換えるとジュビアの心臓を貫いた。ドクリと念に近いような赤い色の光が彼女の光に溶け込んでいく。荒かった呼吸もどうしてだか徐々にではあるが落ち着いてきている。自分が刺されたのに、生きている。


 『お前の心臓(おと)はまだ安定していない。俺様が支配した幻想海(ルグレ)を注いでやった。中和にはなるだろう』

 

 体に重みを感じながらも、痛みのあった胸を庇いながら立ち上がろうとするジュビア。そんなジュビアを見て、フッと笑う男の影がある。


 『お前の仲間がお前を呼んでいる。お前のもう一つの輝きが導くだろう』


 赤い炎がジュビアの頬を撫でる。そして宝石の一部として象ったピアスに息をかける。


 『外からも中からもお前を守ってくれている徳漱石(しんぞう)を大切にしろよ。後は少しまじないをかけておいた。動くも動かないもお前次第だ『ジュビア』』


 トクントクン


 「あたし……は」


 トクトクトクトク


 赤い男の姿はいつしか消え、取り残されたのは二つの大きな音だった。



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