もう一人の青年
頭の痛みから逃げようとするけれど、簡単に逃れる事は出来なかった。その時アイツの手が僕のおでこに重なる。するとじんわりと温かくなってあっと言う間に痛みは消え去った。行け、と合図をすると、初めからいなかったように消えていく。何を言いたかったのか正直分からない。だけど僕の知らない僕の姿を知っているのはなんとなく理解出来ている自分がいる。
キィ──
僕の合図を待たずにドアが開いた。そこには様子を伺うように立っているミゲルがいる。あれからジュビアと僕達は深い森林を抜け、次の町へと進んでいる。その道中に小さな山小屋があって、ここから先は魔物達の巣窟だからと老婆に言われ、ここを拠点として動いている。ジュビアはあの時以来、人が変わってしまったように感じている。それは僕だけじゃなく、皆がそう感じているんだ。
まだ子供だけど、空気くらいは読めるようになっていた。色々な場所を渡り歩いていると、出会った事もない人達に会う。そして僕の唯一の心の拠り所の刈啞がいる。大剣なんて扱えるのかと感じた。何せ僕の体よりも大きいのだから当たり前だ。そして重みもあるように見えた。見えたのに、いざ自分の手で扱ってみると、馴染んでいた事に驚きを隠せなかった。アイツは邪魔をする、でも僕の相棒は受け止めてくれる。慣れてくると声が聞こえてくるようになった。時々だけど心の声で対話を楽しんでいる。刈啞と話している時は、どうしてだかアイツの邪魔が入らないから居心地がいいんだ。
そんな事を考えてしまっている僕に対して、ミゲルは痺れを切れたように言った。
『サザ、私が部屋にいる事に気付いているの? ジュビアも貴方も何か変よ。その武器を持つようになってから尚更……それに』
「ミゲルごめん。早く気付くべきだったよね。ジュビアに何かあった?」
『たどたどしいけどジュビアは平気よ。私の親友だからね。それよりもサザ貴方に疑問があるの。いいかしら?』
「……いいよ」
ミゲルは椅子に腰かけ、ゆっくりと口を開いていく。感情的な彼女はそこにいない、いるのは物事を冷静に判断し、未来を見ている『占い師』のミゲルだ。
『ジュビアが何かを隠しているのは分かるわ。でもあえて聞かない方がいいと思っているのよ。それは貴方にも同じだと考えている。だけど、どうしても一つだけ見て見ぬ振りが出来ない事があるのよ。自分でも気づいているわよね?』
「それはどういう事?」
本当は気づいている。ミゲルが何を言いたいのかを。問題は僕の心の奥底や抱える問題じゃなくて目に見える物事の変化なのだろうとしか思えない、考えられない。
ゆっくり深呼吸すると、彼女は覚悟を決めて僕に伝える。
『貴方はまだ五歳のはずなのに、どうしてここ数か月で青年の姿に成長しているの? 成長速度が異常すぎる。サザ……貴方』
僕の聞きたくない言葉が待っている。
『人間ではないの?』