仕事より踊っている方が楽しいに決まってるわよ!④
痛い痛い、手がちぎれそう。ミゲルの力って本当危ない。何で占い師してるのか分からないくらいに危険。こんなに力があるのなら格闘家とかになれそうなのに、跡継ぎってつらいわよね。好きな事も出来やしない。
そんな事を考えていると自分もあてはまる事に気付いたあたしは小さくため息を吐いた。運命なんて逆らって当然、あたしはあたしのやりたい事をして生きるの。それが理想であり夢であるから、現実へと塗り替えていくのよ、絶対に!
「まーた余計な事考えてるでしょ?」
あたしの考えなんてお見通しよ、と心の声が聞こえてきた気がする。本当は占い師なんかじゃなくてエスパー? まぁ予言が出来るから先の行動が読めるのは当たり前か。その能力があたしのものになっていたら誰にも邪魔をされない環境を作る為に努力をするわ。
鑑定士としての仕事はまだ先なのに、どうして王妃が店に来ているのかしら? 国王なら呼び出すだろうし、王妃が動くなんて珍しい事だもの。それもあんな狭い店に待たせてるとかミゲルの神経疑うわ。
(逃げ出したあたしにも責任あるんだけどね)
バレないようにペロリと舌を出して、ミゲルの背中めがける。背中に目なんてついてないし、わかんないでしょ。こういう時ってさ、予言出来る事を忘れて行動しちゃうから、いつも説教くらっちゃうんだけど、何の証拠もないから「気のせいじゃない?」とかで逃げれる。
(あたし天才じゃん)
そうよ、あたしはあの大鑑定士ロウルの孫なのよ、完璧に決まっているじゃない。ただ意欲がないだけで大金が動くとなれば話は変わるもの。
まぁ踊り子をやめる事はありえないけどね──
踊り子は潜入に最適だし、いい事ずくしなのよね。最初はお客も少なくてサザしか観客いなかったけど、現在は違う。三年踊り続けていまでは踊り子一本でもやっていけるくらい。他の町にも踊り子ジュビア・ローンズと名前が知れ渡ってるくらい有名になっちゃったし、もうモテすぎて大変なのよね。少し前に店の前にファンが来るし、驚いたわ、ほんと。
それをよく思っていないのはミゲルと鑑定士仲間達。やる気がないならやめればなんて嫌味言われたりするけど、じゃああんたがあたしの仕事代わりにやってよ、と言うと逃げてく。そりゃ無理でしょうね、国が絡むと適当な事出来ないし、最低限の力がないと認めてくれないもの。
生まれつきSランクの鑑定士として認められてきたあたしとは違うからね。何も言わずに指でもくわえていればいいのに、余計な事言うなら目をつけられるのよ。
噂って怖くてさ、その鑑定士があたしに暴言吐いている所を町民が見ていたらしくて、即刻国王の耳に入ってそいつ鑑定士の資格をはく奪されちゃったな、そう言えば。
「怖っ……」
「何が?」
「あうう、ミゲルの事じゃないからね? 決して」
「そこまで否定されると逆に怪しいんだけど。ま、本当の事だから私はあんたみたいに否定しないわよ」
「よっ! 太っ腹」
「うるさい」
てっきり怒られるんじゃないかと思ったけど、あてが外れた。冗談を言っても大丈夫って事は何を考えていたのか分かっているって事ね、言わないだけで。
少し気が楽になったかも。ミゲルは気づかないように話をそらしてくれたり嫌な事を思い出そうとしちゃう自分の道筋を書き換えてくれる大切な友人の一人。一人って言っても、こんな状態だからミゲルだけなんだけどね。
生きている限り、友人なのよ人間は! そう思うのは変かしら?




