もう離さない
なつかしさの中で漂いながら目を開ける。ここは何処かしらとクビを傾げたあたしは自分が海の上で寝ている事に気付いた。チラリと横目で確認するとすぐ下に海が流れているのだ。最初は湖なのかしらとも考えたけれど、ゆっくり起き上がると一面に幻想的な海の世界が広がっていたの。
「ここは何処なの……?」
あたしの周りに人なんていないのにそう問いかけてしまう自分がいる。普通なら体重をかけると落ちてしまいそうなのに、何かに守られているように浮かんでいる。よく見ると自分の体の周りに淡い色の膜が貼られている。
手を当てて確認してみるけど、外に出られる気配は何一つない。鳥かごの中に囚われてしまっているような感覚の中でもサザの事を思い出す。
「相手は子供なのに……どうして」
こんな時にでも彼の笑顔を思い出す自分がいる。彼はまだ幼いのに、時々だけど大人のような表情をする。サザの横に白髪の青年が重なって見える時がある、最近特にその回数が増えてきた。サザを見ているのに、別人に思えて複雑になるの。
ザワザワと胸のあたりに暗闇が創られていく。その感情を最初から持っていなかったはずの『名前のない感情』自分でも、この感情が何なのか未だに分からない。
『やあ、ジュビア』
「え」
『……』
何処からともなく聞こえてきたと思えた声の主はいつの間にか私の膜を破り、お姫様抱っこをしていた。顔を確認しようとするけど、暗くてよく見えない……はずなのに、白く輝く髪の毛だけは確認出来た。どうしてだろう、こんな中で光っているなんて、目の錯覚なのかと思ったくらい。
『君は覚えているかな? 俺の事を』
「知ら……ない」
『……まだか』
「え」
なんでもないさと声のトーンが少し暗くなった気がした。その代わり、あたしを抱きしめる手がより一層強くなっていく。まるで『もう離さない』と言っているように。
「貴方は誰なの? ここは何処?」
『君は昔から……』
悲しそうに微笑んでいる、そんな気がする。気のせいかもしれないけれど、まるで涙を流しているように声を震わしている。振り絞った声は男性には届かないみたい。あたしからの質問に答えてはくれないようだ。何も把握出来ていないから余計に不安になってくるのに、男性はあたしの気持ちなんて置いていく。
遠くを見ているあたしと彼。
海に浮かぶ影を見て驚くあたし。
大きな手に包まれているのに、影は子供に抱きしめられているような影になっている。あたしは咄嗟に声を出して、彼の手を握ったの。
「サ……ザ……?」