ヒント
「お前のせいだ」
眠りから覚める事のないジュビアの面倒を自分が見ると言い、彼女と二人きりの空間にいた。誰にも聞こえないように、と声を抑えたがつい大きく言っている事に気付いた。
だけどそんな事、今はどうでもいい。ただ彼女が『ジュビア』が起きてくれたら、いつものあの眩しい笑顔で微笑んでくれたらそれだけで幸せなのだから──
『そんな声を出すと、女達に気付かれてしまうぞ?』
ククッとレイザがサザの前に現れ、忠告をした。その姿を見ていると余計に腹が立ってしまうサザがいるのだ。しかしそんな事、レイザからしたら楽しみの一環でしかない。
『本当お前の行動は、いつ観察しても面白いものだな、サザ』
「……」
少し前ならレイザがサザに具現化の能力を使い自分の体を実体化していたのだが、最近は分離して別人として『もう一人のサザ』として表に出てくる事が多くなった。
焦りもあるのだろう。今まで抑える事の出来ていた事が少しずつ制御不能になっていっているのだから──
これは侵食なのだ。
「……なんで」
『周囲を気にする必要はない。ここには結界を張っている。女達からはダミーのお前しか映っていない。安心しろ。発狂するなり、暴れるなり、狂うなり好きにしたらいい』
引き金を引く為にサザを煽るレイザ。どうしてここまで地雷を踏むのか分からない子供のサザは、痛々し気な表情で口を開ける。
「僕はただジュビアと一緒にいたいだけなのに、どうしてこんな事になるの?」
『それはお前の選んだ事だ』
「そんなの望んでいないよ!」
感情的なサザと愉快な仮面をつけて遊ぶレイザは対照的だ。ピリピリとした空気感が肌を突く。まだ子供のサザからしたら耐えがたい現実なのだろう。
『現在のお前はそうかもしれないがな』
含みを持つ言葉を投げかけると、無言になってしまう。こういう時、どんな反論をすればいいのか分からずに思考がショートしてしまったのだ。
それも仕方ない事かもしれないが、レイザからしたらただ単に甘えているだけにしか見えない。
未熟と言う言葉が一番だろう。自分が産まれてきた意味も、本当の自分も、役割も、何一つとして気づいていないのだから。
いや──気づこうとしていないだけなのかもしれない。
『今は力を消耗しているだけだろう。二日ぐらいすればお前の望んでいるジュビアは目覚めるだろうな』
ニヤリと笑いながらサザに少しのヒントを落とす。どちらとも捉えれる言葉にサザが気づくのかは別だろうが……