提案
「ジュビア!!」
ボンヤリとしている頭が少しずつ現実世界へと戻っていく。あたしはいつの間にかウオザメを抱きしめながら床に膝をついていたみたい。そんなあたしを心配して駆け寄ってくる声が響いている。
ユサユサと身体を揺らされているのが分かる。しかしまだあの空間の余韻に浸っているあたしはなかなか目の前の情景を見つめる事が出来なかったの。
(あれ……声が聞こえるわ。これはミゲルの声……かしら? また違う足音が聞こえてくる)
そんなあたしの意識を元に戻すようにウオザメが言葉を落とす。
『俺の空間にいたんだからその反動はあると思ったが……今のジュビアには耐え切れないんだな。今回は特別だ』
耳元で風になっているウオザメが囁く。なによ……勝手にあんな空間に飛ばしておいて、こんな反動があるとかありえないでしょ。
(体が……動かない)
自分の右手を動かそうとするけどなかなか上にあがらない。勿論立ち上がる事も出来ない。まるで自分の体じゃないみたいで、メンタルの強いあたしでも怖くなっちゃうわよ……どうせウオザメが助けてくれる訳でも、変わってくれる訳でもないんだし。
『俺がその反動を背負ってやる。あの空間は俺の世界でもある。ジュビア、お前が経験しているこの状況も相殺出来る』
その声はなんだか楽しそうで腹が立ってくる。まるでウオザメに囚われているお姫様みたい。まぁ? あたしがそんなキャラじゃないのか分かっているんだけど。こんな事になっている時だからこそ、少しは気弱な女になってもいいじゃない? どうせ他の人に心の声が聞こえる訳じゃないんだし。
『俺にはダダ漏れだけどな』
うるさいわね。アンタは人間じゃないでしょう? カウントする訳ないじゃない。そんな感じで精神的に威圧なんてかけてみるけど、そんなのウオザメからしたら子供のような態度にしか感じれないみたい。
『素直じゃねーな。こういう時は素直に『お願いします』って頼むもんだぜ? まぁジュビア、お前は俺が選んだ人間でもある。だから助けてやる』
普段のあたしならその要求を拒絶している。高圧的に支配されているような状況に耐えれないから。でも今回は違う。今まで当たり前に動かせていた日常とはかけ離れているんだもの。
グッと唇を噛みしめながら、ウオザメの提案に乗るしかないと実感する。あたしは言いたくもない言葉を言いたくもない存在に告げるの。
「お願いします」
傍からみたら一人でブツブツ言っているヤバイ奴よね。でもそう思われてでもよかった。早く日常に戻りたくて、皆に抱き着きたくて……
サザに会いたくて仕方ないから。