そうやって誤魔化すのね……
ぴとっと密着している状態のこの状況!! 正直心臓に悪いでしょ。あたしにはサザがいるのよ、ジュビア。そう言い聞かせてみるけど、久しぶりにこんなイケメンと甘いひと時を過ごしている事に心臓の音がドクンドクンと脈打っている。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
心の声を読む事が出来るウオザメはケラケラとからかいながらも、きちんと指導をしてくれる。
「俺の顔に見とれる暇があるなら、身体で感じろよ」
なっっっんだとぉ?
卑猥に聞こえるのはあたしが歪んだ思考を持っているからでしょうか。いいや違う、あたしの反応を楽しんでワザと言っているんだわ、コイツ。
「うるさいわね、さっさと続けなさいよ」
「そういう女、嫌いじゃないぜ?」
ニヤニヤしている顔をぶん殴ってしまいたくなる。こっちは真面目に覚えようとしているのに、どうしてここまで人を茶化すの? 意味分かんないけど。あたしの事を面白い女とか言うし、まるでモルモットのように手の上で転がされている感じがして、ムカつく。
「からかうのはここまでにするか。お前の声うるさいし」
「だーかーらー『お前』じゃなくて『ジュビア』よ」
「はいはい」
左手で弓を支えながら右手でゲンを引いていく。ゆっくりとゆっくりと。弓矢なんて扱った事なんてないけど、教えてもらいながらどうにか弓の弾き方はコツがつかめた感じがする。
「簡単に言うと引っ張って右手を離すだけだ」
「そんな簡単に言われても困るんですけど……」
「……後はお前が望む方向へ行く。神経と精神を集中させる事でコントロールする事が出来るようになる。きちんと扱う為にはもう少し精神的に大人になるべきだな」
「なっ」
「まぁ体は大人だけどな。内面がなー」
「グハッ」
ジロジロとみられると少し緊張してしまう。でもウオザメの言っている事は理解したわ。あたしの心次第で矢が飛んでいくのね。精神力でコントロールする武器か。珍しい逸品だわ。
「ねぇ、聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
あたしの背中にいるウオザメに振り向くと、目をまんまるくしてこちらを凝視した。真剣な表情で彼を見つめているせいか、さっきのような余裕が見えてこない。少し困ったように、頭をポリポリとかきながらも、耳を傾けてくれる。
「なんだ?」
いつものあたしならこんな態度とられるとからかってしまうのだけど、今はそういう時じゃないと思うの。精神で武器を扱う事が出来るのがウオザメなら、あたしは今その中に入っているんだもの。安定していないといけない感じがしたから、真っすぐ真面目な瞳で見ている。
「精神力でコントロール出来るのなら、他の人も扱えるんじゃないの?」
「それは無理だな」
「どうして?」
質問を下げる気のないあたしの頭をポンポンと撫でると「今は知るべき時じゃない」と言われた。
「最初は扱うのに忍耐力がいる。だから俺がサポートに回るからお前の負担は減るだろうな。慣れてきたらお前が自由に扱えるようになる。その時は……」
「その時は?」
都合の悪い質問は微笑みで返すのね、この男。まぁそうやって誤魔化しているという事は現段階では知るべきじゃないって事だけは理解出来たわ。
これも縁のひとつ──
そうやって言い聞かせる事にするわ。ただその時とやらが来たら今度は逃がさないからね。
子供が駄々を捏ねるような気持ちを抱きながらも、いかんいかんと振り払うあたしがいる。