なのに何故か心は踊ってる──
魚鮫と聞いて思い浮かぶのはあの弓矢。あたしはもしかしてと思いながらも、武器が人間のようになるなんてと疑心暗鬼になっていたの。あり得ないわよね、この状況。急にイケメンが出てくるし、急に訳の分からない事になっているし。
なのに何故か心は踊ってる──
「俺が人間化するのは当然だろう。ここを何処だと思っているんだ?」
「へ?」
「周囲の状況を確認する事だな」
あたしは魚鮫の言われた通り周囲を確認する。辺りは水に覆われている異空間のようだ。不思議な事にあたし達は水の中で息をしているし、話をしてる。急に苦しくなりそうで、首を抑えると、ハハッと笑い声が飛んでくる。
「ここは弓矢魚鮫の中だ。お前は弓矢の中に入っている」
「は? 意味分かんない」
「俺が招待してやった。有難く思え」
さっきから感じていたんだけど、この俺様な態度どうにかならない訳? こっちは訳が分からずこんな所に呼ばれて、パニックになりそうなんですけど……
「人間ってのは面白いな。水の中にいると思って錯覚してもがくんだから、笑える」
「あのね……」
「おお、怖い。余計な事は言わない方がよさそうだな。とりあえず普通にしとけ。息も出来るし、話も出来るから。普通に」
ニヤニヤしている顔を見て、キレない人なんていませんから。あたしの知り合いにはそんな優しい人いません。あ、でもサザは優しいわ、あの子なら素直に聞くものね。
「俺は武器に宿る者だ。お前が弓矢を扱えないのは理解しているが……俺がいれば普通に戦えるし、お前の潜在能力を引き出す事も出来る」
武器に宿る者だとぉ? 自分は特別な存在オーラー出すのやめてくれないかしら。あたしからしたらサザが特別な存在なのよ。いくらイケメンでもサザの可愛さに勝つ事なんてあり得ないんだから。
この時のあたしは気づいていない。自分の心の声が魚鮫に筒抜けなんて……
「ククッ、面白い女。後言っておく。俺とお前は繋がっているから心の声がダダ漏れだぜ? ジュビアさんよ」
「は?」
「お前の思考回路が読めるわ読めるわ。本当面白いのなお前」
「あのね、さっきからお前ってうるさいんですけど。最初は『ジュビア』って呼んでた癖にどうしてランク下げんのよ。あたしは最高の女『ジュビア様』よ?」
「あーはいはい」
「流すな、そこ流す所じゃないから」
何故か魚鮫の手のひらの上で転がされているような感じがして。自分が負けている、そう思った。勝ち負けにはこだわっていないけど、なんだかこの男の想い通りに動きたくない。
「ま、雑談はこの辺にして、さっさと実演に移るぞ」
さっきまでヘラヘラしていたのに、急に真剣な表情になる魚鮫。彼が右手を上げると、水の道が出来て、一つの部屋のような空間が現れた。
「さっさと来い。置いていくぞ」