魚鮫
「声をかけられると思っていました。魚鮫の事ですよね」
「ええ」
不安そうなあたしの顔を見つめてくると思ったら、柔らかに笑顔を見せる。他人事だからと言ってそんな態度ってどうなのよ、と内心思ってしまうけど、簡単に言葉にする事が出来ない。自分には扱えないと言いに来たのだ。だからここは我慢するしかないと思ってたわ。
「あたしは弓矢を扱った事はないの。だからこの武器は──」
続きを言おうとするあたしの唇を抑えて、微笑みながら言った。
「ジュビア様には聞こえませんか? 魚鮫の鼓動が」
「彼……?」
「貴女になら感じ取れるはずです。ジュビア様を選んだのは魚鮫なのですからね」
あたしは首を傾げながらも、意識を集中して彼女の言葉の意味を探る事にする。するとどうだろうか。離れた場所にいた魚鮫がいつの間にかあたしの手の中にある。
「どういう事?」
何の気配も感じなかった。勿論話をする為に彼女に声をかけたので、魚鮫に触ってもいない。ましてや手にするなんて……ありえない。
「私から話をするより本人から聞いた方がいいと思うのです。そうですよね? 魚鮫」
さっきから何が起こっているの? 彼女は何を言っているのか理解出来ない。あたしだけが置いてけぼりにされている感じがして、少し嫌な感覚に陥りそうになった。そんなあたしの不安を包み込むように眩い光が魚鮫から零れ落ちてくる。
「眩しい……ッ」
光に耐えれなくなったあたしは目を瞑って逃れようとした。
「いつまで目を瞑っているんだ。さっさと開けろよ。そして俺を見ろ」
「……え」
誰かの声がする。今まで聞いた覚えのない声。男性の低い音が耳を掠めながら、ビクリと言われた通りにゆっくりと瞼を開いていく。
バチッ──
黒い肌、青い髪色、身長は180センチくらいあるかもしれない。目鼻立ちのいい顔をしている。こんなイケメン今まで何処にいたの? って感じ。
「俺はこんな間抜けを選んだ覚えはないんだがな」
「なっ」
「ははっ、怒った怒った。その顔の方がお前らしいぜ、ジュビア」
「何であたしの名前を……」
そう聞くと質問に答えるように耳元に揺られているピアスに手をあてる。一瞬耳に男の手が当たった。水のようにひんやりして、気持ちいい。
「そのピアスが俺達を繋ぐ証だ」
「ピアス?」
「そうだ」
昔お爺ちゃんがあたしの誕生日にプレゼントとして贈ってくれた大切な想い出の品。涙のような雫型で綺麗で何度も見惚れた。きっとお前の役に立つと言われただけで気にしていなかったのを急に思い出した。
「思い出したみたいだな、それならいい。忘れられたままじゃ気に入らないからな」
「……貴方は?」
男の顔を見つめながら、聞いてみる。心臓がドキドキして何故だか興奮しているあたしがいる。そんな自分の制御の仕方が分からなくなりそうで少し怖くもあった。
「俺の名前は魚鮫。お前の相方だよ、ジュビア」
それがあたしと魚鮫との出会いだったの。




