ジュビアらしいわ
包まれていた結界は二人が体を離した瞬間に解き放たれていく。何度も近づこうと試みたサイレとミゲルはどうにか二人に近づく事を許されたのだ。サイレは考えていた。あの時感じたサザの違和感は確実なものだと……普通の人間が勇者認定試験に合格するのなんてあり得ないのだから。
勇者として現れた存在の者と最初から能力を使っていたと聞いているのだ。普通ではありえない世界の崩壊と再生を簡単に作り替えてしまう力を。
「ジュビア、サザ」
サイレが考え込んでいる中でミゲルは大声をあげ、二人に駆け寄る。余程焦っていたのだろう。何故結界が貼られていたのか理解出来ないといった感じのミゲルを見て、ため息を吐いた。
「占い師でもあり預言者でもある貴女なら、気づかない訳がないのですが……」
ポツリと呟いた言葉がミゲルの耳に届く事はない。独り言のような呟きは空気の流れによりかき消され、消滅していく。その余韻だけを残し、ミゲルの後に続いた。笑顔を忘れずに、自分の中の不信感を一端片隅に置く事にした。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、二人ともどうしたの? そんな必死な顔して……もしかして便秘?」
何事が起きていたのか分からないあたしはミゲルとジュビアに向けてそう言い放つ。するとサザがプッと笑い出した。最初は堪えるような笑いだったけど、いつの間にかゲラゲラと爆笑をしている。
「何よ、サザまで。意味分かんない」
「……あんたって奴は」
いつもの調子のあたしを見て、気が抜けたのかしら。ミゲルは大きなため息を吐きながら肩を落としている。サイレは固まっているように見える。あたしとサザは床に座り込んでいたので、埃がつくと二人に諭され、訳も分からず立った。
──ぱんぱん
言われた通り、埃が自分の体重により服についている。何よコレ。あたしもしかして太った? いやいや埃が悪いのよ。あたしもサザも癒しの時間を堪能していただけだもの。最初はサザが全然帰って来ないから心配していたけど、今は笑顔に包まれている彼がいるから、安心しているもの。
「ねぇ、これからどうする?」
唐突な質問を繰り出してしまうあたしの口は暴走している。
「……あのねぇ~」
「そうですね。私とミゲルはある程度の偵察を終えましたし、ジュビアのお仕事も終わりましたからね。とりあえずサザの武器を厳選しませんと」
ミゲルの言葉を遮ったのはサイレだ。一人だけ取り残された感がするミゲルは呆れたような、何か言いたげな目でこちらを見ている。
(とりあえず面倒だからシカトしとこう)
触らぬ神に祟りなし、これまた然り。
「踊り子として有名なあたしがステージに立ったおかげで大金を稼ぐ事が出来たのよ。感謝しなさい」
両手を腰に置き、えっへんとイキがってみると、ミゲルからパンチが飛んできたのは言うまでもない……