抱きしめ合うって安心するのね
「……どれだけ心配したか」
いつもの元気なジュビアはいない。サザの体調を気遣う余裕がないのもあるだろう。身震いをしながらも、サザを抱きしめる手に力を込めた。
ヒョコンと彼女の肩から顔を覗かしているサザは驚きを隠せないといった様子だった。行き場のない手は少し躊躇いながらも、ジュビアの服をしがみつく形になった。まるで自分の不安がジュビアに電線したような感覚の中で、このもやもやした感情の意味を知る事もない。『今』のサザは複数の感情が混ざり合って混乱をしているから、冷静になれば見えるものも、見えない状態だったのだ。
レイザはそんな二人の様子を見つめながら、彼女達に見る事が出来ない『闇の手』で二人を包み込んだ。
「俺より年上の癖に……ガキみてぇだな。お二人さんよ」
レイザの方が長く生きているはずなのに、全てのカラクリを知り尽くしているように呟き、笑った。だからこそ面白い、自分達の正体に気付く事が出来ていない二人を憐れむようでもあり、守るように抱きしめた。
黒い闇は光を包み込みながら呼吸を始めた。この瞬間がジュビアとサザの本当の意味の「はじまり」だったのかもしれない。
少し不安にあたってしまった二人に魔法の呪文を唱える『レイザ』がいる。何の気まぐれか、それとも未来に期待しているのか、その心は『レイザ』のみが知る気持ち。
「俺にも見せてくれよな。同志」
「「ふう……」」
同じタイミングで二人は息を吐いた。乱れた心を呼吸を整えるように、安心したかのように目を瞑り、涙を流している。そんなジュビアとサザを見て、ミゲルとサイレは近寄ろうとした。しかしある一定の距離から近づく事が出来ない。
「どうなってるの?」
「分かりません。何か見えない『結界』にはじかれているようですね」
「どうして結界が!?」
目には見えないけど、感じる事は出来ます、そうサイレが言い切ると、ミゲルは困惑したような表情で崩れ落ちた。
二人の様子を見ている事しか出来ないのだから──そして……
「どうしてだろうね、サザ」
「うん?」
「こうやって抱きしめ合っていると落ち着くわ」
「僕もだよ……ジュビア」
ゆったりと話ながら、この温もりをもっと取り込もうとしているジュビアは、別人のように微笑んだ。柔らかい表情、穏やかな口調。誰も知る事のなかった『もう一人のジュビア』の姿そのものだった。
「もう少し……このままで」
「……うん」
レイザからは安心の目線、サイレからは観察対象を見ているような視線、ミゲルからは『怒り』の感情からくる波が見え隠れしている。