ウラハラ
サザは青年から逃げるように足早にサイレの元へと行く。自分の中にいる悪魔「レイザ」に翻弄されてしまったとは言え、トイレにしては時間がかかりすぎているからだ。どんな言い訳をしようかと考えながらも、毒に当たった今の状態を簡潔に説明する事にした。
本当の事を『今』言う訳にはいかない。その行動は青年の思惑通りになってしまうのだ。自分の未来の為に、本当の意味の『自由』を手にする為に少しの嘘はいいと思っていた。
「サザ。遅かったですね? どうしたのですか?」
青い顔をして戻ってきたサザの異変を感じながら、思ったままの言葉を形にするサイレ。体調が悪かったのか、それとも、と考えながら笑顔を作っている彼女の思考を遮るように言った。
「体調悪くなっちゃって、ごめんなさい」
サイレは演技なのかもしれないと思ったりもしたが、目を見つめると嘘を吐いているようには見えなかった。純粋な眼からは悪意も罪悪感も感じれない。あるのは『純粋』さ、ただそれだけだった。
自分が少しでもサザを疑ってしまっていた自分を恥じるように、しゃがみサザと目線の高さを合わせて、頭を撫でる。それはまるで母親が子供をあやすように、甘くて暖かいものだった。
「サイレ?」
「ふふっ。調子悪いのなら、きちんと言ってくれないと分かりませんよ?」
「うん……そうだね」
「サザは我慢強い子なのですね。甘やかしたくなってしまいます」
不安に飲まれていたサザは安心したように微笑むと、コクリと頷いた。表情が少し明るくなったサザを見て、安心したように撫でている手をソッと元に戻そうとしたその時だった。
「サイレ。貴女、何しているの?」
「!! ジュビア」
サザの事を気にかけていたサイレは後ろに突っ立っていたジュビア達に気付けなかったようだ。どうしてだろうか、自分は何も悪い事などしていないのに、ジュビアの声質を聞くと、罪悪感を感じてしまう。ジュビアがサザにべったりなのは理解しているのだが、不安になっているサザを癒すのも必要だと感じていた彼女は、ふうとため息を吐き、後ろから聞こえる怒りの声の主へと振り向いた。
「サザが体調を崩していたのであやしてただけですわ」
「えっ。体調が悪いの? サザ」
ジュビアはサイレの身体をどかすと、ギュッとサザを抱きしめた。
「何があったの? サイレにいじめられた?」
「違うよ。ただ本当に体調が悪くて……」
体調が悪いのは本当の事だから演技には見えない。言い訳の一つとして選択したのだが、事実吐き気がすごいのだから、実質嘘ではない。ただそうなった『理由』を隠す為に並べた言葉と行動でもあったのだ。