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忠告


 怒りに満ちたサザの瞳の奥に闇が生まれた。青年はその様子を見つめながらフッと笑った。その態度が余計気に入らないと、サザは感情を爆発させようとしている。ここが何処かを忘れているようだ。青年の力で、異空間へと飛ばされているのだが、ただのトイレにしては時間がかかりすぎている。


 「そんな事よりもいいのか、サザ。理由をつけて私を呼び出したのだろう? 待ち人が怪しむぞ」

 「……そうだね」


 サザの脳裏にジュビアの顔が浮かんだ。すると、なんだか怒りが少しずつ落ち着いてくる。ほんのりと微笑むジュビアの笑顔。「サザ」と呼ぶジュビアの声が耳元にスッと入り込んでいく。スウと、息を吸うと、少しだけだけど冷静さを取り戻していくような感じがした。


 そんなサザを見つめながら、悲しそうに微笑む青年の姿に気付く事はない。サザに余裕などないのだから、余計に気づけないのだ。


 「ジュビアは気づいていないようだが、サイレは色々と勘づいている。あの女には気をつけた方がいいな。私が忠告しなくても、サザ……賢いお前なら分かっているはずだ」


 真剣な言葉の中にはほんの少しの優しさが見え隠れする。青年はサザには気づかれないように声色を変えて話を続けた。


 「私は少し眠る。お前も彼女達の元へ戻れ」

 「言われなくてもそうするよ」


 サザの言葉を聞く前に青年は空間を戻していたみたいだ。周りに人はいない、自分が吐いた言葉が誰にも聞こえていないのを確認すると、安心したサザはギュッと首元に隠していた徳漱石のネックレスを握り、呼吸を整えていく。


 握る手の中で、ポウッと淡い光が零れながら、マイナスな感情をネックレスが吸収していく。徳漱石にはジュビア達が知っている能力以外にも、何か効果があるようだ。サザは青年がリンを仲介に手渡したネックレスを身につける事で、感情が爆発しないように抑えている。簡単に言えば「発作」を抑える為のもの。


 サザ本人は「魔力」などない。しかし彼の身体を見つけた青年はサザが逃げれないように「呪縛」として「魔力」で本来の力を抑え込んでしまった。


 数分が経つと、いつものサザの表情に戻っている。先ほどまで顔色も悪かったのに、何もなかったようにケロッとしている。


 「戻らなきゃ、ね」


 タタッと駆けだしたサザの背中を見つめながら、青年の残り香がふんわりと匂う。ふと、声が響いた。勿論「サザ」以外の人間には聞こえる事はない。この場所から遠のいたサザの耳にも入っていないだろう。


 「……私の身体を大切に扱えよ? サザ」


 ザザッと空間の中にノイズが走る。数秒の事だった。その言葉を最後に青年は姿を隠し、空間の歪みは何もなかったように消えていった。

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