青年
最初からいなかったように消えていったリンの声。不吉な余韻を漂わしながら、あたし達を包み込んでいく。彼女が何者か分からない正体に気付いているのは「サザ」だけだろう。リンの言葉はまるで「予言」のようだ。リンとカイだけが知っている物語なのかもしれない。
サザの隣にはサイレがいた。サイレはサザに遠まわしだが忠告をすると、後はあたしとミゲルの様子を楽しそうに見ている。サザはそんな彼女を横目でチラリと見る。余程サイレに言われた事が嫌だったのだろう。グッと唇を噛みしめるサザはあたし達の知らないサザ。まるで誰かがサザの身体を操っているように、不吉な音を鳴らしている。
「サイレ、僕トイレ行ってくる」
「あら。分かりましたわ。サザ」
自分がどんな顔をしているのかサザは理解していた。子供の純粋な自分を演じる事が出来ずに、そう言い残し逃げるように走り去る。揺らぐサザの感情はプツリと糸が切れたように崩れていく。
トイレに駆け込むと、誰もいない事を確認し「出てきなよ」と誰もいない空間の中で呟く。すると綺麗だった空間が歪んでいるサザの感情のように黒くなっていった。
「サザ、私を呼び出して何のつもりだ?」
先ほどまでサザ一人しかいなかったのに、いつの間にか「白髪」の青年が彼の前に立っている。全てを見透かしたように、ケラケラ笑いながら、トンと異空間の中で壁に背中を預けた。
「……どこまで邪魔する気なの?」
敵意をはっきりと示す視線と冷静に見つめる視線が絡み合う。青年はサザの言葉を軽く流し、また笑った。
「気に入らない事があると私に当たるのか、お前は」
「全部、あんたが原因だろ!! そのせいでサイレは気づき始めてる」
「……ほう。そんなに都合が悪いのか? 気づかれる事が」
「当たり前だろ!!」
サザはいつも優しくて、可愛くてあたしの心の癒しなはずなのに、そこにいるサザは全くの正反対。口調も変わっているし、どうしてだか焦っている。青年はふう、とため息を吐き腕を組む。その姿には余裕があるようで、子供を茶化すように会話を進めていく。
「サイレは何も言わないようだが? それならいいじゃないか」
「よくない。サイレはあんたの「魔力」に気付いた。それが問題なんだ」
「問題も何も。私を押さえつけられないお前が非力なだけではないか」
「……」
図星を言われ、サザは唇を噛みしめ、睨む。その瞳からは「憎悪」が感じられた。
「これだから子供は嫌いだな。気に入らないとすぐ感情的になる。まぁ? 女もよく似ているようなものだがな」
「だったら消えてくれない? 僕達の世界にあんた達は必要ない。僕達を監視しているあの二人もどうせあんたの差し金だろ?」
「ああ。リンとカイの事か。まぁ、気にするな」
淡々と言葉を吐く青年は大した事のないように吐き捨てる。
「悪いが私は手放す気はない。お前が諦めればいいだけだ。そうだろう?」
互いが互いをけん制し合う。そこには互いの理想と思惑が見え隠れしているように感じる。サザはぶつけたい感情を衝動を抑えながらも、子供ながらに冷静になろうと努める。しかし青年はサザのそんな姿が面白くて、ついつい笑っている。バカにしたようにと言うより、客観的に観察対象として楽しんでいるようだった。




