サイレ目線 「匂い」
私はジュビアとミゲルの悲惨な姿を遠くで見つめながら、サザと見物する事にしました。正直、少し襲おうとしただけなのに、あそこまで暴走するなんて、ミゲルはなんて面白いのでしょうか。ふふふ、と笑みが零れてしまいます、そんな私に気付いたサザは言いました。
「サイレ、何をしたの?」
「ふふっ、気になります?」
「……少し」
サザにはまだ早いかもしてませんね。大人には沢山の秘密があるのですから。
「サザ、聞きたい事があるのです」
「何?」
以前から気になっていました。勇者認定試験に合格し、国から選ばれたサザの事が……彼は時々大人の表情をするのです。本人に自覚はないようですが、その時に微かに匂う「魔力」の香りがするのです。その理由は分かりませんが、何かが隠れているような感じがするのです。そして本来「勇者認定」された人は魔力など持ちません。私もサザの動向を確認しながら、確証を掴むまではお父様には秘密にしてあります。魔力を持った勇者なんて聞いた事ありませんからね。
「貴方からは時々「魔力」の匂いがします。貴方にはもう一つの顔があるように感じるのですが」
「僕から「魔力」の匂いがする? 僕は人間だよ?」
うーん、やはり教えてはくれないみたいですね。私は彼に気付かれないように『徳漱石』を使って、自分の力を開放してみたのです。彼の中に隠れている存在が本当にいるのか、いないのか。証拠が欲しくて、スキルを発動しました。
以前も確認した事があったのですが、その時はサザから「魔力」を感知しませんでした。だから安心していたのですが、ジュビアといる時、少し大人びたサザを見る時に限って、反応があったのです。勇者には程遠い、別の力を。
「そうですね、人間ですわ。ふふふ、冗談です。私にもお茶目な部分もあるのですよ?」
「サイレって何を考えているのか分からないね」
「それはサザもでしょう?」
私は作った笑顔で彼を挑発します。子供の彼が気づく可能性は低いですが、少し眉毛がピクリと動きましたね。
嫌悪の感情が読み取れます、私を警戒しているのが分かります。ですが、私はあえて、彼を泳がす事にしました。「魔力」の匂いや感知した事は偽りではありませんが、彼がその力を私達に見せた時に、続きの話をしましょう。
それまでは貴方は「サザ」として、私達と共に行動をするのです。「魔力」があっても勇者に認定された事実は消えませんから。勿論、この事はジュビア達に言うつもりはありません。きっとジュビアが一番驚きますし、悲しみますから。
ジュビアがスキルを発動してしまうと、ほんの少しの匂いを漂わせただけでもバレてしまう可能性が高いので、気をつけましょうね、サザくん。
「ふふふ、本当に楽しいです。貴方達と出会って……」
含みを持った私の言葉は彼の心に少しの引っかかりになるでしょう。