仕事より踊っている方が楽しいに決まってるわよ!②
一人でニヤニヤ妄想しながらサザを抱きしめているあたしってかなり危ない人だよね。だけど踊り以外でサザと戯れるのが唯一の癒しだから仕方ないじゃない。ついつい彼の頬を引っ張りたい衝動に駆られたけど、それは我慢しておこう。これ以上変人になりたくないし、さっきから視線が痛く感じるから自粛しなきゃ。
そんな事を一人でグルグルと考えているとツカツカと近づいてくる人影がサザの後ろに到達した。誰かしら、そう思いながら見上げると硬直してしまった。ここから逃げなければいけない。また仕事から逃げている事がバレる。ゆっくりと抱きしめている両手を緩めつつ、逃げ出すタイミングを計ろうとすると、サザが逃がさないようにと、抱きしめてくる。
「サザ?」
「ミゲルおばさんに逃がすなって言われてるんだ、だから逃げちゃダメだよ?」
「ええっ」
「僕ね、お小遣いもらったの、だから言う事聞かないといけないんだ」
買収したのね、ミゲル。ありえない、こんな子供を使うなんて卑怯よ。いくらあたしが鑑定士の仕事をしないからってこんな手を打つなんて大人としてどうなの。
(……って仕事を放棄してるあたしが言えないか)
ジットリと背中から汗が吹き出しそう。いつもならうまく丸め込んでいるのに、今日に限ってミゲルに一枚とられた。あたしがサザを特別扱いしている所に目をつけたのか……次からもっと上手く逃げれるようにしなきゃあたしの楽しみが減ってしまう。ゆっくりと目線を後ろの人物に向けると、ニコニコと怖い笑顔であたし達を見つめているミゲルの姿がある。
ミゲルが笑顔の時はやばい時だ。機嫌が最悪に悪い証拠。嫌な事が立て続けであったみたいで過呼吸になりそうな自分がいる。
「はぁーい、ミゲル……こんな所で会うなんて偶然ね」
「そうねぇ、今日は天気がいいから散歩をしてたらサボり魔に遭遇出来たわ。サザのおかげね、ありがとう」
「ミゲルおばさん、お小遣いありがとう」
「お小遣い? なんの事かしら」
純粋な子供は大人と違って嘘がつけない。得にサザはそれにあてはまる。サザの言葉から逃げるように軽くかわすミゲル。そうやって都合の悪い事は知らんぷりするのが鉄板ってわけね。今思えば二人が会話をしている瞬間が絶好のタイミングだった事に後で気づく。意識が他にいってる瞬間に逃げ出すべきだったと後悔したわ。
「逃げ出しても無駄よ、ジュビア」
「うっ」
「どうせ今のうちに逃げてやろうとか考えてたんでしょ。私の背中に目がついているから無駄よ」
ミゲルは占い師、店が隣同士なのもあって仕事依頼をしてくれる。そして自由奔放なあたしを唯一飼いならす事が出来る人物でもあるの。未来が予測出来るって凄く素敵な能力だけど、あたしからしたら厄介でしかない。逃げ出そうとしても最後は捕まるのだから。でもね、いくら未来が見えていたとしてもあたしの行動で未来は変化していくものだから奇跡を信じているの。
子供みたいな事いっているかもしれないけど、夢があっていいでしょう? そんな事を考えている自分に対して笑ってしまいそうになるけど、今の現状それはよくない。なのにサザの純粋な言葉も愛らしくてついつい表情が緩んでしまいそうになる。そんなあたしの様子に気がついたようでミゲルは、鬼のように目つきを吊り上げ、ヅカヅカと近づいてきた。
「何か言いたい事でもあるのかしら? 言ってみなさい? ジュビア」
「えっ……何もないわよ?」
「ふうん」
いける訳がないでしょ、無理無理。一人で何妄想してるの、なんて怒号が降り注いでしまいそうなんですもの。口が裂けても言う訳ないじゃない。一度否定するとなかなか口を割らないあたしをよく知っているミゲルはため息を吐きながら、呆れたように呟いた。
「頑固者」
「え? 何か言った?」
「なんでもないわよ、それより仕事の依頼が入っているんだけど、どうする気?」
仕事……そうだよね、ここ三か月踊り子の方で収入を得ていたから鑑定士をしている事を忘れていたわ。素直に言うと逃げてただけなんだけど、どうどでも言えばまるく収まるものなのよ、多分。そんな申告な内容じゃないだろうから断るのも手だわね。
自分の中で変な言い訳をして納得しようとしている自分がいる。見通してミゲルは「受けるわよね?」なんて釘を刺してくる。ぐうっ……これじゃあ断れるものも断れやしない。拒否してしまったら後がどうなるかを考えると恐ろしくなってしまう。
占い師のミゲルにはもう一つの能力がある、それは未来を変える力。簡単に使うものではないけれど、使わない保証もない。大事な能力だから使う事は殆どないと言っていたが、仕事のしなさすぎで使われる可能性もある。大好きな踊り子としてステージに上がれなくなる未来なんて嫌だもの。そう考えるとここは引き受けるべきなのかもしれない。
「……内容によるわね。あたしで足るのなら依頼を受けるわ。どんな内容なのかを聞かせてくれないかしら」
あたしの言葉を腕を組み険しい表情で聞いているミゲルは、驚いたように口をあんぐりと開け、見つめてきた。
「何?」
「ジュビアの事だから拒否すると思ってたのに、すんなりね。今日は雨が降るかもしれないわ」
「失礼ね」
あたしを一体どんな人間だと思っている訳? いつも逃げている逃亡者とでも勘違いしているのかしら。事実は近いかもだけど、このジュビア様やる時はやる女なのよ。
(やる気がない時は逃げるけどね)
仕事の内容を伝えようとしたミゲルはサザをほったらかしにしている。あたしもサザの存在をつい忘れてしまって自分の事しか考えてない汚い大人になってた。サザは「もういい?」と一言だけ伝えるとどこかに走り去っていく。
「子供は純粋ね、まるで私みたい」
「冗談は胸だけにして」
「……」
冗談のつもりで言った言葉はミゲルのコンプレックス。胸が小さい事を気にしているのは知っているけど、そこまでションボリするなんて想像出来なかった。ショックなのだろうか、あの鬼のミゲルがしょげている。なんだ可愛いところあるじゃない。
「どうせ小さいわよ、ジュビアとは違って……」
「ごめんなさい、言い過ぎたわ」
「本当に悪いと思ってる?」
「ええ」
「じゃあ、連行」
急にうつむいていた顔を上げ、にんまりと私の体を抱きしめたかと思うとガシャリと手錠をかけた。少し気を抜いたあたしもあたしだけど、演技をしてダマしたミゲルもミゲルよ。
「だましたわね」
「口では何とでもいえるもの、今回は逃がす訳にはいかないのよね」
「本気で心配したあたしの気持ちを返せー」
「さぁ、しゅっーぱーつ」
そんなこんな日常が毎日繰り返し、そう思ってた。勇者が現れるまでの間さぼれると思っていたのに、なかなかジュビアはそうさせてくれない。武器の鑑定はもちろん職業鑑定とか余計な仕事を持ち帰ってくるのよ。あたしは勇者専属の鑑定士なのに、ほんと分かっているのかしら?




