サザを中心に世界はまわっている
逃げる訳にはいかない、あたしはドンと突撃してきたミゲルを受け止めながら、ぐぐぐ、と歯を食いしばる。人ってさ危険を察知した時に凄い力を発揮するって聞いた事あるけど、これは予想以上。ミゲルは半分錯乱しながら、暴れまくる。あたしの存在に気付いてないみたい。
(あのミゲルがここまでなるなんて……正直ヤバい)
いつもあたしのする事なす事、説教ばかりしていたのに、何故あたしが受け止めているのだ? ううん、サザが相手ならいくらでも受け止めるけど、ミゲルには興味がないのよね。この村の様子を見てくると言っていた冷静なミゲルは何処にいったんだろう、と呆れながら、仕方なく彼女を抱きしめた。
「ミゲル……少しは冷静になろう、どうどう」
「……」
「大丈夫、大丈夫。怖いおねぇさんはいないから。あたしが分かる?」
ミゲルの心に問いかけるように言葉を預ける。すぐに元に戻るとは限らないけど、落ち着かせるのが一番だもの。ここまで暴走しちゃうと何があったか聞かなくちゃいけないし、サザも見てるからね。この状況……
「ミゲル、大丈夫?」
ミゲルを止める事に成功したけど、まだ危ない。なのにサザはあたし達に近づきながらミゲルに問いかける。凄い精神力、大人が錯乱した状況を見ても、普通に心配してるって。サザはミゲルより大人ね、やっぱり。
「…サ……ザ……?」
「そうだよ、僕だよ。ミゲル」
にっこりと微笑みながら、ミゲルの背中をギュッと抱きしめたサザ。一瞬、ミゲルを抱きしめていたあたしの手がサザがミゲルに抱き着いている現実から逃避しようと緩みそうになってしまう。正直、ショック。あたしにはいくら抱き着いてきてもいい、だけど他の女に抱き着くなんて、許せないんだから。
「ズルイズルイズルイズルイ」
「……ジュビア?」
「何があって暴走してんだか知んないけどさぁ、サザに抱きしめてもらえるなんて……あたしからサザを奪う気?」
「え」
「「え」じゃないわよ、あんた分かってんの? あたしに喧嘩売ってる?」
「ちが……うわよ、ジュビア」
「てかここが何処だか理解してる? あんた達泊まっていた宿屋よ、宿屋。あたしにあれだけぐちぐちと言ってた癖に……」
サザはあたしのなの、ミゲルのじゃないの。何で何でこんな気持ちになるのよぉ。
「うわああああん。あたしのサザなのに、ミゲルのばかぁぁぁぁ」
「ちょ……ジュビア」
我に返ったミゲルは、自分が何をしたか理解してないみたい。あたしは子供みたいに泣きじゃくりながら、ミゲルが逃げれないように強く抱きしめる。このまま折ってしまいたいくらい、悔しい。
「あら、二人してどうしたのでしょう」
サイレはこの状況を創り出した原因なのに、何事もなかったように、ミゲルの背中を抱き着くサザをひょいと持ち上げた。
「サザ。危ないので、あちらに行きましょう」
「そうだね」
二人はあたしとミゲルを放置する事に決めたようだ。サイレはあたし達の姿を遠目で見ながら楽しむ事に決め、サザは自分の危機を感じた。どうしてだか、いつの間にかサザが中心に世界がまわっている。
「本来の目的、忘れていません?」
ポツリと呟くサイレは、ふふっ、と笑いながら安全な所へサザの手を引いて行ってしまったの……