闘牛ミゲル
二人を観察していると衣服が乱れているのがよーく分かる。何があったのか分からないけれど、大体予想がついたわ。サイレの発言を聞いて、もしかしてと思ってみたりしたけど、うん確実だと思うの。あたしの前ではザお姫様って感じの彼女だけど、関わりだしても表の顔を崩す事がなかったのだから。女性好きの可能性もあるわよね、それかからかっているだけか。
(からかってるだけでこんな大騒ぎにはならないわよね……)
はぁと溜息を吐くとなんだか真面目にしてたこっちが損しているような気がする。ま、まぁ、サザと一緒にいる時間が長いからよこしまな考えはあったけど、本人にバレてないからいいんだけどね。あたしって本当忙しいやつね、溜息の次は妄想していた事を思い出して、ドキリとしてみたり自分でも感情が追いついてない。
また溜息が出そうになった時だった。大声で発狂しながら走り狂う闘牛がこちらへ向かっている。名前はミゲル、そしてその闘牛をきちんと操ろうとしている闘牛士のサイレ。
「お似合いだわね、あんたたち」
「ジュジュジュジュ」
何を言っているんだろうかミゲルは。あたしの名前をきちんと言えてないし、周りからしたら変な人が変な呪文唱えているみたい。ミゲルってもしかして占い師じゃなくて、ジュージュー言っているから呪術師なのかしら? それともお腹が空いているのかしら。肉が食べたいのなら、ダンテに出してもらいましょうよ、それがいいわね。
いつも気が強くて、あたしの踊りの邪魔をするミゲルはもういない……仕事の方が大切でしょと、踊りに真剣なあたしに仕事を押し付けてくる変わり者。鑑定士って言っても、最近平和だったし、しょぼい仕事しかないのよ。酷い時は生まれたペットの性別を判別してくれとかよ? 断ると「鑑定士だろ? それぐらい判別しろよ、この暇人が」とか言われる訳よ、そして国王にクレームを入れる……あたしもね、まさか国王の耳に入るとか思ってないわけ。てか、貴方どんな人脈を持ってるのよ、っていっつも疑問なのよね。
いつの間にか闘牛ミゲルから愚痴に変わってた事に気づいたあたしは、猛スピードで暴れ狂うミゲルを止める為に両手を構える。こう見えても力はあるのよ、頭は悪いけど。床のギシギシと軋む音と相変わらず何を言っているのか分からない奇声があたしへと突撃していく。
「こい闘牛ミゲル。私が貴様を落ち着かしてみせよう」