何してんのよ
ふうと一息つくと、サザが駆け寄ってきた。久しぶりの踊りは楽しくて新鮮で、いつもの自分に戻してくれてた部分がある。しかし、サザの登場で踊る前の事を思い出して、意識してしまうあたし。どんな顔をしたらいいのか分からず、アタフタしていると意地悪そうな笑みで問いかけてくる。
「僕の魔法は効いたかな?」
「つっ……」
「くすくす、顔真っ赤だよ。僕みたいな子供に意識するなんてジュビアもまだまだだね」
「そ、そんな事ないわよ、失礼な」
「本当に?」
サザと目線の高さを合わせ、頷いた。恥ずかしいやら、心地いいやら変な感じ。その中でもサザの言葉に引っかかりを覚えてしまう自分がいる。サザからしたらあたしは姉のような存在だろう、それなのに、ただ頬にキスをされたくらいでソワソワしてしまう自分がなんだか幼く感じた。
心の隙間に少しの暗い影が出来上がる。そんなの本当ちっぽけなものなのに、心地いい気持ち、嬉しい気持ちも消えてしまいそうなくらい、侵食されている。ズキンと痛むのはなんだろう。嫉妬とは違う何か、あたしの知らない感情が出てきた瞬間だった。
「ジュビア?」
「!!」
「どうしたの?」
この感情の意味を知りたくて少し考え込んでしまった、そんなあたしを現実に戻してくれるのはいつもサザで、優しさを教えてくれたのもサザ、恋を知る事が出来たのも、彼に出会えたから。そう考えると、自分の目の前で心配そうにしている顔をさせている場合じゃないと思う。あたしは大人だけど色々欠落しているのかもしれない。だから知るチャンスをくれているのだから、感謝しなきゃいけないわよね。
「ありがとう、サザ」
「ん」
そんなあたし達のまったりした空間をぶち壊したのは、遠くから聞こえる叫び声だった。一体何があったの? とあたしとサザは顔を見合わせながら、声のする方へと急いだ。
「ダンテさん、どうかしたんですか?」
この宿屋件踊り場の主人でもあるダンテに声をかけてみる。剛腕な体つきとは違い優しい人だ。見た目だけで判断したら逃げる人は逃げるかもしれない。なんせ半分おねぇが入っているのだから。あたしは結構好きだけどね、話していて楽しいし、サザも懐いてるもの。
「お客様がね、揉めてんのよ」
「揉めてる?」
「ああ、初めて見る顔の女性客なんだけどな、気が強そうな女性の方が発狂しているんだよ」
周りに沢山の人がいるせいか、おねぇ言葉から接客用の言葉に切り替えていくダンテ。いやいや、咄嗟に出たと言っても、知る人ぞ知るおねぇなんだから隠す必要なくない? カザリーが言うにはダンテ目当ての客もいるってくらいだし、何をそんなに慌てているのかしら。話し方がどちらでもダンテはダンテだからいいのだけどね。
「ぎゃー。やめなさいサイレ」
「何を言っているの? あんなに愛を求めあったじゃない」
「そんな事してないわよ、この女狐が」
何処かで聞いたような声だと思ったら、サイレとミゲルじゃない。何してんの、あの二人。慎重に行動するって言ってた癖に何、揉め事起こしてんのよ。てか、あたし二人の声を聞くまで正直忘れてた。サザとの二人きりが当たり前になってて、サイレとミゲルの事忘れてたなんて、二人には言えない。
(内緒にしとかなくちゃね)
緊張の糸が切れたあたしは、ズカズカと二人の元へと近づいていく。目から炎が出てきそう。それくらい怒ってるって訳。
「あんた達は、何してるのかなぁ?」