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神様からの贈り物

 手と手が触れ合う瞬間に恋に落ちるなんて言ってる人がいた。あたしの場合は違うけど、そういうのもいいなぁと思ったりもする。その隣にサザがいればいいのに……って子供相手に何考えてるのよ。ふうと深呼吸すると不信に思ったのかサザが顔を覗き込んできた。座っているあたしの顔に近づけて、まるでキスをするように。


 「サザっ!?」

 「疲れたの?」

 「ううん、大丈夫よ、なんたってジュビア様だからね」

 「それならよかった」


 にっこり微笑んでくるサザの周りがキラキラ輝いている。あたしの目どうかなっちゃったのかしら。目を瞑り、フルフルと首を横に振りながら邪念を払っていく。そんなあたしの気持ちにも気づかないサザはのんびりと言葉を放った。


 「どんな店なんだろうって思ったけど、いい店だね」

 「ええ……そうね」


 うっ、気まずい。邪な事を考えていたなんて言えるはずもなく、適当に相槌を打っていると彼の頬が徐々に膨れていくのが分かった。上の空のあたしを快く思っていないみたい。さっきまでと比べたらきっと意識しちゃってしどろもどろになってるかも。


 「どうしたの? ジュビア。変だよ?」

 「はうっ」

 

 図星をつかれて、変な声が出てしまった。なかった事に出来ない状況だわね、これ。どう誤魔化せばいいかしら。サザは心配してくれてるのだと思う。関わり方も変わってしまったし、どうもサザを見ているとときめいてしまう自分がいるから。まさかこんな子供に恋愛感情を抱くとかありなの? あたし一体どーしちゃったのよ。


 「お二人とも、来てくださってありがとうございます」

 「カザリー」

 

 この店に案内してくれたカザリーの事を呼び捨てで呼んでる? まだ出会って間もないのに、どうしてどうしてよぉぉぉぉ。


 「サザはあたしのよ、サザは……」

 

 ぶつぶつと二人に聞こえないようにダークになってしまう。喜怒哀楽の表現がバグってるのかもしれない。壊れかけの機械の気持ちがよーく分かるわ。そうこの感情は認めたくないけど『嫉妬』ね。あたしとサザの方が深い関係なんだから、カザリーが入り込んでくる余裕はないんだから。


 「ジュビアさんどうかしたんですか?」

 「変なスイッチ入っちゃってるみたいだね」

 「次のステージに出てもらいたいのですが……大丈夫でしょうか」

 「そういう所はきちんとこなすから心配しないで、カザリー」

 「ふふっ。サザくんはジュビアさんのよき理解者ですね」

 「かなぁ?」


 和気あいあいと会話を続ける二人をよそに、自分の妄想に憑りつかれ、マイナスな思考がループしてしまってる。頭の中がオーバーヒートしそうでどう処理していいのか分かんない。そんな時だった、あたしの視界に手が伸びてきて、頬をむぎゅっと挟まれた。


 「ジュビアおまじないしてあげる」

 「えっ」


 キラキラした瞳で見つめられるとよくやく現実世界に戻ってこれた。てか、これどういう状況? サザがあたしの頬を包み込んで見つめてきてる。心臓バクバクなんですけど。


 顔を真っ赤にしながら、静止した。少しの間だったのに、長い時間が経ってるみたいな感覚がしてもどかしい。そんな事を考えていると、頬に唇を寄せ、キスを落としてきた。一瞬、何が起こったのか分からないあたしは思考停止──それを見ていたカザリーはにやついている。


 「僕がいるから次のステージ、頑張るんだよ?」

 「……はい」


 そう言われてようやく自分の番が回ってきた事を知る。おまじないなんて言うから何事かと思えばキスね……あーキスね。


 (えぇえええええええええ)


 右頬を触れながら、ボンッと再び真っ赤になる。皆が見ている所でこんな事するなんてサザらしくない。あたしのよく知っているサザはこんな大胆じゃないわ。もう一度サザの方を見ると、青年の顔がダブって見えた。興奮しすぎているからだろうと、目を擦るといつものサザがそこにいる。


 (さっきのは一体……)


 どこかサザに似ている青年、それも色もはっきりと映った。白い髪の魅力的な人。サザの青年姿を幻覚として見てしまったのだろうか、本当に気のせい? どこか懐かしいのはサザに似てるから。急に冷静になってしまう自分に苦笑してしまう。こういう所は冷静なのよね、本当、深刻に考えてもきりがないし、夢を見ていた事にしよう。きっと神様からの贈り物よ。


 サザのキスと青年の彼の姿を重ねて、そう思う事にした。

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