こんな展開なしでしょ
──ミゲルとサイレの場合
あたりを見渡しながら偵察をかねて村の様子を見ている二人。いつもの調子の笑い声がないのが妙に違和感を感じてしまう、ミゲルはそう思ってしまった。なんだかんだミゲルとジュビアはいつも一緒だった。仕事をしている時を除いては……
「ジュビアがいないから寂しいですね」
「ふん、いなくてせいせいだわ」
心と口は正反対、短い付き合いのサイレでも理解している。少しの期間しか関わりがないが、国王からミゲルとジュビアの関係性を聞いた時から予想がついていた。二人を離しミゲルの行動から読み取ろうとしているサイレの考えなど、ミゲルにはお見通しだろう、なんせ彼女は予言者なのだから。
「何か言いたい事があるみたいね、サイレ」
探るように聞いてみるミゲル、全て筒抜けなのに含みがある言い方で誘導しようとしている。ミゲルはまだサイレの事を心の中では信じていないようだ。彼女が唯一、信じられるのはジュビアだけなのだから。ジュビアがあの時、サイレを受け入れたから、自分もそれに同調しただけ、あんなに簡単に受け入れるなんて、どこまでお人よしなのかと頭を抱えているようだ。
「そういうミゲルこそ、何か言いたい事があるんじゃないですか?」
(!! この女)
「図星ですか?」
「ジュビアがいないと人が変わったようね」
「気のせいですわ」
早く宿を見つけなければ、勿論部屋は別々に決まってる。予言をする所を他者に見られてはいけないから、徳にサイレには、ジュビアは決め事を守るタイプだから、見ないように配慮しているが、サイレは違うと思った。
「そんな事より宿を探さないと、ジュビアが泣くわよ」
「サザじゃなくてですか?」
「あの子はしっかりしているもの、今頃、宿を確保してたりしてね」
「まさか」
「ありうるわよ」
二人の会話はテンポよく進んでいく。相性がいいのではないだろうか。それか似ている所があるからこそ、互いに同じような行動を起こしてしまうのかもしれない。
「そこのおじょーさん達、よかったら泊まっていきなよ」
店の前を素通りしようとすると、男が声をかけてきた。ガッチリ体系のいかにも職人といった風貌の男だ。ミゲルは無視をしようと素通りをしたが、サイレは違った。
「あら、ここは宿屋?」
「ああ、見た目見えないだろう? よく言われるんだよ」
「素敵な宿屋ね、ねぇミゲル、ここにしましょうか」
離れようとするミゲルの服の裾をひきよせ、体を密着させる、わざとのようだ。
「おうお、二人はそういう関係なのかい?」
びっくりしたように口を開く男の言葉を聞いたミゲルは訂正をしようとしたが、その前にサイレに静止されてしまう。
「ふふっ、ご想像にお任せするわ」
「あっははははは、こりゃいっぽんとられた」
ふふふっ、男と微笑んでいるサイレに冷たい視線を投げつけながら、じっとりと睨んでいるミゲル。その様子に気付いているのにも関わらず、態度を変える様子のないサイレの対応が、ミゲルの逆鱗に触れるだろう。
「あーのーねー、サイレ」
「もう照れちゃって、ミゲルってば、隠す必要なくない?」
王女としての面影は全くない、演技しているようにも見えない、しっくりくるその様子に、常習だと気づいた。
(猫を被ってたってわけね、この王女)
◇◇◇◇
男とサイレに引っ張られるように店の中へと入っていく。私はどうしてこの王女もどきの思い通りに動いているのか分からなくなっていた。いつもの私ならフル無視して、違う店を探すのに、どうしてこんな怪しい店に入ってしまったのだろう。
うう、頭がいたい。王女様はまともだと思っていた、そりゃ何だか違和感を感じたりもしたけど、気のせいって自分に言い聞かせてたのよ。それがドンピシャ、自分の能力を疑ってしまう。
「ミゲル、顔色が優れないわね? ベッドに行く?」
「大丈夫よ、ただの貧血」
「あらま、それは大変だわ、ささ、早く休みましょう……一緒に」
「……は?」
一緒に休むってもしかして同じ部屋で休むって事? サイレは王女なのよ、自分のプライベートだって必要でしょう? それに資金ならたんまりあるはずよ、一緒の部屋を取らなくても……
「別々の部屋に決まってるじゃない」
「何を言っているのかしら? 同じベッドで休むって言ってるんだけど。ほら、看病する人が必要でしょう? 一人にするの心配だわ」
はあああぁああぁああぁあ!? 何を言っているの? てかどんな思考をしているのよこの王女様は、特殊な性格だと思ってたけど、ここまでぶっとんでいるとは、全然ジュビアの方がマシじゃない。急に体に密着させてくるし、口調も変わるし、どうなってんのよ、このメンツは。
「ね、今ため息吐いたでしょう? 心の中で」
「さっきから訳の分からない事ばかり言っているのは何処のどなた?」
「ふふふ、やっぱりミゲルって面白いわね、二人きりになるように仕組んでよかった」
「……」
助けなさいよジュビア、早く迎えにきなさいよ。あの二人、私がこんな事になってる間にきっと楽しく談笑してるんだわ……最悪。
「ほら、着いたよ、お二人さんごゆっくり」
「ありがとうダンテ」
「いえいえ、何か御用があれば呼び鈴ならしてね~」
「りょうかいっ☆」
そうやって唯一の救世主ダンテは去っていった……
天井は明るく、ぼんやりとしている私がいる。さっき「少し落ち着きましょう」と元の口調に戻ったサイレがお茶を入れてくれてから、いつの間にか眠ってたみたい。
「お目覚めかしら?」
「んっ……」
「急に体を動かすと体力を消耗しますよ?」
「あんたね」
「さっきはやりすぎましたわ、慌てている貴女を見ていると楽しくて、つい」
「つい、じゃないわよ。本当タチが悪い」
うまく動かない体を支えてくれたおかげでゆっくりとだけど起き上がれた。微かに疼く痛みを庇いながら。表情で出してしまった、と気づいた時には遅かった。
「怪我をしているのですから、ゆっくりしときなさい。ここにはわたくししかいません、無理をする必要などないのです」
「……」
「先ほど、わたくしをサポートしている時に負傷したのでしょう? あの力は強大ですから歌声に耐えれない人達はそうなります」
「へぇ、お見通しって訳ね」
「三大能力の一つをお持ちでも、貴女は戦いに特化している人間ではありません、あくまで予言者なのですから」
私はその言葉を聞いて、拳に力を入れ、唇を噛んだ。そんな事分かっているつもりだった。だけどそれ以外の能力もある程度は持ち合わせている、そしてもう一つの顔もある。だからこそ、抜擢されたのに、悔しくて仕方なかった。
「鈍っていても国王のお墨付きの剣術もある、そう焦らなくていいのです」
「サイレ……」
さっきのは自分達の素性を隠す為のカモフラージュだったのだと知るとホッとした。サイレが同性好きだと思ってしまった自分が不甲斐ない。しかも怪我の事まで気づかれているとは思わなかったから、誤算だった。
「さてと、堅苦しい話はここまでにして、だいぶ体が楽になったはずです、わたくしの生薬はよく効くのですから」
「……何でもできるのね」
「そんな事ありませんわ、わたくしにもダメな所はあります、そして貴女の直観は正しかった」
「へ」
「夜は長いのです、少しは回復したはずですから、二人きりの熱い夜を楽しみましょう」
その言葉を聞いた瞬間、背中に悪寒が走った。まるで蛇が這ってくるようにゆっくりと寒気が全身に広がっていく。
「たすけなさいよ、ジュビアーーー」