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鍛冶屋で目立ってどーすんの?!2

 あたしはドッと押し寄せてくる人込みをかき分け、サザの元へと急ぐ。色々な人から好意を向けられるのは有難いけど、まだ子供の彼を一人にしてしまった事に反省をしている自分がいる。例え、サザの言葉の通りにしたとしても、あたしがお守をされている側じゃダメだもの。無表情なサザしか知らなかった。口調は同じだけど、あたしと少し距離を開けられているような気がする。そんな不安が募って、サザの元へと着いた。


 「サザ!!」


 踊りに夢中になってごめんなさい。あたしの様子が変だったから気をきかしてくれたんだよね、きっと。子供にそこまで気をまわさせてしまうなんて、大人失格だわ。なんて言ったらいいのかと思いながら、彼の表情を見ていると、朗らかに微笑んでいる。なんだか大人びて見えてしまう。まだ子供なのよ、サザは。


 (あたしってば何考えてんのよ)


 カーッと顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。何、見惚れているんだろうって、どこからどう見ても子供なのに、雰囲気というかなんというか、圧倒されてしまっている。サザが大人になるときっといい男になるわね、と考えてまたハッとする。


 (もーう、あたしのバカ)


 顔をブンブン振って思考回路を元に戻そうとすると、声が聞こえてきた。


 「何してるの? ジュビア」

 「サザ!?」

 「うん?」

 

 あたしの妄想に気付かれないように、彼の手を取った。


 「ごめんね、一人にして、心細かったでしょう?」

 

 あれ、どうしてだろう、こういう所は大人なのかな、あたし……さっき遠目で見ていた時は心臓の高鳴りが凄くて、表情に感情が出てるんじゃないかって思ってた。だけど、今は違う。踊ってリラックスしたからかな、奥にあった不安は踊りとサザの新しい表情(かお)のおかげで凄く落ち着いている。


 「いいんだよ。気分転換になったでしょ、やっと元気になってくれた」


 にっこりと微笑むサザはいつもより表情がついていてより人間らしく感じた。その微笑みに微かに心臓の音が高鳴ったのは内緒。こんな子供を意識しているなんて尋常じゃないよね。今はっきり分かったの、あたしはサザが好きなんだって。この子を守りたい一心で今まで行動してきたけど、それだけが理由じゃなかったみたい。


 ショタに恋心抱くなんてどうかしている、ミゲル達に打ち明けると引かれるわね。だからこの気持ちはあたしの中だけで堪能していくの。


 「貴方の笑顔があるから踊れたのよ」

 「ジュビア?」

 「ううん、何でもないわ。さぁ行くわよ」


 ありがとうって素直に言いたい、だけど素直になれないあたしは言葉を飲み込みながら、人込みをかけ分け、歩いていく。


 すると、一人の女性が近づいてきた。はぁはぁと息遣いが荒い。追っかけてきたのかしらね。


 「っつ……ジュビアさんですよね、ファンです」

 「ありがとう」


 一応こんなあたしでも踊り子としても名が売れているの、人からはフェアリージュライと呼ばれているのも知ってる。ジンクスがあるみたいであたしの踊りを見ると、幸せが訪れるって噂になってる程。本人に幸せが訪れたりはしないんだけど、そう言っていただける事に幸せを感じている。


 (これってあたしも幸せ者って事かしら)


 どんよりとしていた気持ちはどこかへ吹き飛んでいった。サザのおかげが大きいけど、それがきっかけでいい踊りが出来た事もある。ワイワイガヤガヤ作業をしていた人達が手を止め、あたしの横顔を凝視してる。視線が痛い。


 「さっきから見られている気がするんだけど?」

 「そりゃそうだよ、あんなパフォーマンスしたんだから」

 「うぐっ、焚きつけたのはサザでしょう」

 「くすくす」


 横並びで歩いているあたし達を意識するようにチラチラ見てくる鍛冶屋の村の人達。少しやりすぎちゃったかしら、目立つのはよくないわよね、ミゲルにバレるのも時間の問題ね。


 「ね、ジュビア」

 「ん? なあに」

 「あの人(・・・)まだついてきてるよ」

 「あの人(・・・)?」


 サザの声に引き寄せられるように後ろを振り向くと先ほど声をかけてきた女性と目が合った。にっこりと悪びれる事もなく、こちらに駆け寄ってくる。


 「あの……何でしょうか?」

 「すみません、気になっちゃって」

 

 気になったからって尾行をするのは違くない? 踊りを気に入ってくれた事は純粋にうれしいけど、それでも違うじゃない。本音を言うのはどうかと思ったけど、ここは言うべきだと思った。基本、身近な人間にしか言わないけど、常識はずれの事をしているのだから言うのが妥当だもの。


 そう思いながら、彼女の瞳を見つめ、声を出そうとした。すると、あたしより先に口走った彼女の言葉に驚いて出かけた言葉を飲み込んでしまった。


 「よければですけど、私の宿で宿泊しませんか?」

 「えっ」

 「お代は結構です、その代わり、お願いがあるのですが……」

 「お願い?」


 急にそんな事言われても、今はあたしとサザしかいない。ミゲルとサイレの意見も聞かないといけないのに、と躊躇していると、サザが元気な声で言った。


 「いいよ、僕達、宿無しだから、凄く嬉しい、ね? おねぇちゃん(・・・・・・)

 「サザってば」

 

 こういう時の子供ってずるい。大人達が決める前にさっさと決めてしまうんだもの。あたしはサザに耳打ちをする。


 「ミゲル達に何て説明するつもり?」

 「いいじゃん」

 「はぁ?」


 彼女に聞こえないようにしていたはずなのに、空気で気づかれたみたい。困った顔をしている彼女は申し訳ない表情で「……迷惑ですよね」としょんぼりとしている。


 (どうすんのよ、この展開)


 そんな顔されたら断れないじゃない、ミゲルがあいたらきっと裏があるとか言って反対するかもしれないのに、無意識にコクリと頷いてしまった。


 「ジュビアおねぇちゃんもいいって言ってるよ、ね?」

 「……ええ」

 「迷惑じゃないですか?」

 「そんな事ないわよ、ご厚意感謝するわ」

 「ありがとうございます、嬉しい」


 キラキラと目を輝かせている彼女を見ていると、警戒心が少しずつ揺らいできてる。単純な人間と言われたらそれまでだけど、こんなにうれしい事言ってくれるファンを放置する訳にもいかないものね。きっかけを作ったのはサザだけど……


 「それでお願いって何かしら?」

 

 そう聞くとパアッと華が開いたように、満面の笑みになる。


 「私の宿にはステージがあるんです、そこで踊っていただきたいのです」

 「それだけなの?」

 「お礼としてこの村にいる間の宿泊と食事を無料で出します」

 「……どうしてそこまでするの?」

 

 話を聞いてみると彼女の名はカザリーと言うらしい。少し前に普通の宿屋からステージをつけたしたらしく、踊り子が足りないとの事。この村には数少ない踊り子がいるが、有名な踊り子としてあたしに出てもらいたいらしい。


 (本業は鑑定士なんだけどね)


 お口はチャックして、ここでは踊り子ジュビアとして状況を探るのもいい。拠点としてこの村の偵察をするのも好都合、いい条件だ。


 「いいわよ、あたしでよければ」


 サイレは賛成するだろうけど、ミゲルが聞いたら黙っていないわよね、そんな事を考えながら、カザリーの後をついていった。



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