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ユートピア  作者: 吉田 要
第三部 帝国会戦:決戦篇
65/70

4-4 The Barrier

ビュザス港

 炎上する船を見つめていたエイト=ブラハムだったが、その煙の中を光る紐のようなものが瞬くのを捉えた。

 刹那、目の前に迫った剣を騎士術で防ぐ。ガキンッ!という音と共に、何かにぶつかった剣の切っ先が折れて宙を飛んだ。

「・・・血から()()()()()()を作りだす騎士術か。お前がエイト=ブラハム・シエンツだな?」

「オォ、ご存知みたいで嬉しいねぇ。初めまして、ヴィルヘルミーナちゃん」

 お互いに情報は知っていた。通常剣術を基本に戦う騎士としては非常に珍しく、騎士術を全面に押し出して戦う騎士として。

 光が迸り、鞭のように撓って襲い掛かる光る紐。足元にあった手ごろな石を蹴り上げてそれにぶつけたが、スパッ!と一瞬で断ち切られた。

 ――噂通り、血を光線に変えるってやつかい

 ――また、面倒な能力だ

 すぐさま手のひら大の透明な壁――絶対に破壊不可能な盾――を作りだして防いだ。

 バチンと光線を弾くが、目の前にヴィルヘルミーナは既にいなかった。

 ――どこに?

 取り乱さず落ち着いて周りに目をやるエイト=ブラハム。メインデルトと同じく従者としての鍛錬を積まずに騎士叙任した彼は、予力などほぼ使えない。騎士術と背負ったマスケットだけが武器である。

 ヒュンッと風を切る音を捉えた瞬間、正面に盾を張る。

「――――――ッ!」

 桟橋に停泊していた小さな商船のマストに光線を引っかけ、ブランコの要領で勢いをつけたヴィルヘルミーナの脚が盾ごとエイト=ブラハムを蹴り飛ばす。

「・・・盾がどれだけ硬く割れないとしても、押し退けることは容易。何ら障害にはならん」

「言ってくれるじゃねぇか、と」

 積み上げてあった樽の山に突っ込んだエイト=ブラハムは首を左右に倒しながら、ダッとヴィルヘルミーナに接近した。

 クルリと回転させて握ったマスケット。その銃床を彼女に叩きつけようとしたが、再びヴィルヘルミーナは光線を引っかけふわりと宙に浮きあがった。そのままマストや船体、木造りの小屋などを使って縦横無尽に移動する。

 エイト=ブラハムも撃ち落とそうとマスケットを向けるが、視界の端から端へと瞬時に移動してしまう彼女の動きに翻弄されて、狙いが定まらない。

 ――こんな動きができるとは、聞いてなかったねぇ

 ――・・・ッ!

「――――――チッ!」

 予測できなかった背後からの攻撃に、盾を張る暇も無く停泊していた船へと叩きつけられる。

 振り向きざまにマスケットの引き金を引くが、バンッと乾いた発砲音が響くのみで彼女の姿はそこに無かった。

 代わりに喉の数センチ前にブウンと輝く光の線が現れ、いつの間にか背後に立っていたヴィルヘルミーナが耳元で囁いた。

「かの守護神(アポロ)と言っても、所詮はこの程度か。残念極まる」

 言葉と裏腹に声は失望の念を特に写さず、冷たい声音でただ淡々と紡がれた。

 逃れられぬこの状況で、光線がエイト=ブラハムの喉をかき切ったかと思われたその時、今度は彼の姿が消えた。


 ――!?

 ――どこへ!?

 目を丸くしたヴィルヘルミーナが、兎にも角にも退避だと上へ光線を引っかけたが、マストのヤードに上がったところで、不意に声をかけられた。

「いやあ、あれはびっくりしたなぁ、と」

「――――――っ!?」

 目の前で同じようにヤードにエイト=ブラハムが立っていた。

 捉えられぬ速さでの移動。こんな情報は無かったと一歩後退る。

 そんなヴィルヘルミーナにエイト=ブラハムはニヤリと笑いかけた。

「驚いたかい?こんな動きができるだなんて、聞いてなかったってさ、と」

 先ほどまで自分が思っていたことを、そっくりそのままヴィルヘルミーナに送るエイト=ブラハム。

 それに答えることなく、ヴィルヘルミーナは羽搏かせるように両腕を振った。連動して左右から光線がエイト=ブラハムを挟み撃ちにする。

 彼は両側に盾を張ってそれを防いだが、そこへ空から雨の様に光線が降り注いできた。

 ――話術に惑わされるな

 ――情報があるとはいえ、先ほどのようなそれにない高速移動もしてみせた

 ――まずは基本。盾が本当に破壊不能なのか。そしてそれを同時にどこまで張れるのか、だ

 今度はマストから逃げるエイト=ブラハムの姿を捉えることが出来た。

 どういう理屈かは分からないが、彼はヴィルヘルミーナ以上の身のこなしで宙を自由に飛びながら、素早く船の甲板へと降り立った。すかさず、通常よりもずっと太い五本の光線を振り下ろし、船をバッサリと叩き斬る。

「『五爪磨(いつづめみがき)』」

 まるで果物か何かの様に、あっさりと船が三つに割れ、浮力を失い海中へ沈んでいく。

 ――破壊可能であれば、あれでヒビは入るはずだ

 ――さて、どうなる・・・?

 光線を他の船のマストに引っ掛け、ターザンの様に宙を移動するヴィルヘルミーナだったが、突然背後から声が聞こえた。

「ホイッと!『六城墜(りくじょうおとし)』!」

 ――マズイッ!

 エイト=ブラハムと異なり予力を扱えるヴィルヘルミーナは、すかさずそれを発動した。

 はじき出された未来は、このままでは弾丸のような何かで全身を撃ち抜かれる自分の姿。慌てて身をよじるようにして回避する。

 20発くらいはあるだろうか。マスケットの弾丸のようなモノが風にたなびくヴィルヘルミーナのマントに風穴を開けた。

「あらら、躱されちったかい、と」

「舐めるなっ!」

 とぼけた様子で落下するエイト=ブラハムに、体勢を立て直したヴィルヘルミーナが光線を放った。すぐさま盾が張られそれを弾き飛ばす。

 ――・・・ヒビなどないか

 ――ということは、完全に破壊不可能ということ

 ――それに加え盾も全方位、血がある限りほぼ無限に張れるというわけか

 ――それにしても高速移動と弾丸が不可解だ。騎士術に関係があるようには思えないが・・・

 ――エルトリア最新の科学技術か何かなのか?

 あれほどの高さから落下したというのに、ヴィルヘルミーナは光線を再びどこかにかけて、エイト=ブラハムは何かを利用して、両者ともに傷一つ負わず桟橋に降り立った。

「・・・フー、困ったなァ、と」

「下手な世辞なぞ、受け取るような相手に見えるか?」

「いやいや、これは本心だぜ。あっちにこっちに、瞬時に移動して思わぬ方向から攻撃してくるんだ。それも自由自在の光線で。これに対して困る以外の感想は出てこねぇな、と」

 「戦況も芳しくはないしね」とエイト=ブラハムは続けた。

「あんな歌、聞かされちゃ、こっちとしちゃ堪ったもんじゃない。俺としちゃ、君みたいに強い人倒してササッと戦いを終えたかったんだけども、戦意を喪失しちゃいそうだ」

「よくもまぁ、思ってもいないことをいけしゃあしゃあと。会話を楽しみたいならもっと別の相手を当たれ」

 言いながらヴィルヘルミーナは光線を放ったが、エイト=ブラハムは「やれやれ」という様子であっさり避けて見せた。

「幾ら撃っても無駄。一本位なら避けられるし、まとめてたくさん撃とうが、全部盾で防げるぜ、と」

 余裕の表情のエイト=ブラハムに、「そうか」とヴィルヘルミーナは短く答えた。

「・・・それじゃあ、アポロの名前はもう捨てた方がいいな」

「?・・・――――――ッ!」

 首を傾げたエイト=ブラハムだったが、直後背後から胸を光線に貫かれた。


 ――ッ!!

 ――後ろからっ!?

 ヴィルヘルミーナの光線は恐らくどの方向からでも攻撃可能。だから背後にも勿論気を配っていたのだが、彼女が新たに光線を繰り出した気配はなかった。

 ――一発目は確実に躱したはず・・・

 ――二発目を出したわけでもない

 ――どういうことだ・・・?

「怠慢だな。自分の能力を過信しすぎた守護神など、堕ちたものだ」

「・・・その通りかもねぇ、と!」

 ブウンと撓った光線で十字に挟みこまれたエイト=ブラハムは、再び高速移動でそれを躱すと、血をシャッとヴィルヘルミーナ目掛けて飛ばした。

 腕を振って飛ばされたとはとても思えない、弾丸以上の速さで飛来したそれを光線で弾き飛ばし、彼女は剣のような形の光線を振り下ろした。

 ――来たねぇ・・・

 ――これを待ってたぜ!

 正面に盾を張って光線を防ぐ。ここまではこれまでの戦闘と変わらなかったが、次の瞬間ヴィルヘルミーナは抗いようのない力で吹き飛ばされた。


 ――!?

 ――どうなってる!?

 防ぐことはできても、弾く機能は盾には無い。

 目を白黒するヴィルヘルミーナに、エイト=ブラハムが追撃を繰り出した。

「――――――クッ!」

 信じられない速度で一気に距離を詰めると、体勢を崩しているヴィルヘルミーナに向けて腕を振るう。弾丸が雨あられのようにヴィルヘルミーナを襲い、光線で払いきれなかった二、三発が彼女の柔らかい肌を食い破った。

 続けて細長い筒のようなものを出現させると、それを握りしめて彼女に向けて思いっきり振り下ろす。光線を数本重ねてそれを受け止めたが、盾で吹き飛ばされた時と同じように、再び強烈な力がかかってヴィルヘルミーナは桟橋に叩き伏せられた。

 ――マズイ・・・!

 素早く起き上がろうとするヴィルヘルミーナ。その背にエイト=ブラハムがズンッと足を乗せた。

「ぐっ!」

 痛みに顔を顰めながらも彼に向かって光線を放つ。エイト=ブラハムは落ち着いた様子で頬を掠めた光線を躱し、そしてさらに船の船体に当たって跳ね返ってきたものも盾で防いだ。

「一回喰らったんだぜ。さすが二度目は受けねぇだろう、と」

「チッ・・・!」

 ヴィルヘルミーナの光線はただの線ではない。通常五メートルほどの光線を撃ちだし、そしてそれはものに当たると跳ね返るのだ。手練れになると高い予力でそれを見透かされてしまうが、エイト=ブラハムのようにそれが使えないものや、油断したものには隙をつける有効な手段である。

 残念ながら見破られてはしまったものの、一方でヴィルヘルミーナもエイト=ブラハムの騎士術にある程度予想がついた。

 彼は高速で移動するときや弾丸を撃ちだすとき、そしてヴィルヘルミーナを吹き飛ばすときなどに、それとは別に目に留まらないような小さな盾を作りだしていた。

 ――あの弾丸が弾のようになった盾だとするなら、それを放つ瞬間にちらりと見えたあの小さな盾が鍵だ

 ――破壊不能の盾ということは、その盾と盾がぶつかり合ったとき何が起きる・・・?

 確かめようと近くにあった石で殴りつける。エイト=ブラハムは瞬時に盾を張ったが、そのガラスのような盾に石を握った手がぶつかる瞬間、手の前に小さな盾がさらに現れ、それごと大きな盾にぶつけるとバチンと跳ね返された。

 ――・・・なるほど

 ――異常な()()が起き、より小さい盾の方が吹き飛ばされるということか

 ――つまり、弾丸を撃ちだすときはその弾に見立てた盾よりも少しだけ大きな盾を後ろに用意してぶつかり合わせて飛ばし、高速移動するときは靴の裏に造った盾より大きな盾をぶつけて自分を吹き飛ばしていたということか・・・!

 ――私が吹き飛ばされたときも、私自身が飛んだのではなく、それを利用していたというわけだ。こちらが直接攻撃するのを待って―――

 ――なら・・・


「さて・・・と。能力は何となくバレちまったみたいだけども、マッ、これで終わりさ。アポロの名を捨てずに済みそうでよかったぜ、と」

「・・・そう思うか?」

 言うが早いかヴィルヘルミーナが再び光線を放ってきた。

 何を狙っているのか、それともやけくその一撃なのか、捉えやすい角度で来たそれをエイト=ブラハムは弾き返すことにした。

 ――何を考えてるのかわからねぇが、これでとどめだ

 大きな盾の前で光線がちょうど当たる位置に、小さな盾を張ろうとそこに意識を集中した。

 その時だった。

 カッと光が瞬き、あまりの眩しさに目が眩む。

 ようやく光に慣れた時、それが太い光線をさらに数本束ね合わせた巨大な光線だというのが分かった。

 ――まだこんな力が残ってやがったかっ!

 冷や汗を流しながら盾を張る。

 だがここでエイト=ブラハムはようやくヴィルヘルミーナの狙いに気づいた。

 ――しまったっ!

 張った盾は、その直前まで意識を集中していた小さな盾を大きくしたものであり、迫る光線への恐れから非常に巨大なものとなっていた。そして光線を弾くために元から張っていた盾は消えていない。つまり、光線を弾こうと大きな盾の前に小さな盾を張ろうとしていたエイト=ブラハムは、いつの間にか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 この状況で弾かれるのは、ヴィルヘルミーナでも、ましてや光線でもなく、盾を張った本人であるエイト=ブラハムだ。

 ――やばいっ!

 慌てて盾を消そうとしたがもう遅い。

 竜巻に向かって行くような凄まじい力を前に、エイト=ブラハムはまるで砲弾の様に吹き飛んでしまった。

「『八方塞(はっぽうふさがり)』!」

 さらに続けて攻撃してくるヴィルヘルミーナに、宙を飛びながら自身の上下左右前後、全ての方向に盾を張って攻撃を防ぐ。

 蛇の様に這って迫る光線をいなした後、桟橋の上を転がって止まった。

 ――今は何とかなったけども

 ――次はどうする・・・?

 盾の中で汗を拭う。フルに騎士術を使う戦いは、普通の相手なら圧倒できる反面、膠着してくると途端に分が悪くなる。今もエイト=ブラハムは血を使い過ぎていた。

 なるべく早くに決着を・・・と思ったその時、攻撃は思わぬ方向から来た。

 ズドンッという激しい衝撃音に空を見上げると、上を覆った盾に先ほどの様に太い光線が押し当てられていた。

 「これなら前後左右にいくらでも逃げられる」と、潰れないよう適当な柱だけ作って上を支えて逃げようとすると、輪になった光線が幾重にも積み重なって盾を取り囲んだ。

 既に盾に光線が触れている状態では、弾き飛ばすには張られた盾の内側により大きな盾が必要となるが、周囲全てを覆っている今では内側にそんなスペースはない。

 ――これじゃあ、逃げられはしねぇが・・・

 ――向こうもこのまま攻められるわけじゃねぇ

 ――血の量勝負でも挑んでくる気か?そっちのがべらぼうに不利じゃねぇか

 六面に盾を張るのも中々血を使うが、それよりもそれを包囲し、なおかつ上から巨大な光線を押し当てている方がどう見ても血を使っている。

 「何をするつもりだ」と顔を顰めた時、ミシリと木の軋む音が聞こえた。

 途端にエイト=ブラハムはヴィルヘルミーナの狙いに気づいた。気づいたが、今となってはもうどうすることもできない。

「マジかよ・・・と!」

 光線の押し付ける強さと、それに対する絶対破壊不可能な盾。それに一番弱かったのは、()()だった。

 木が裂けて飛び散り、一気に盾ごとエイト=ブラハムは海中へ突き落とされた。そのままグングンと光線に押されて海底へと沈む。

 全方位を囲う盾とはいえ、溶接されていたりするわけではない。盾と盾の隙間から水が入り込み、例えここで盾を解除したとしても深い海底から海面へあがるまでに息がもつとは思えなかった。

 ――いやぁ・・・

 ――どうしたもんかねぇ、と

 ――・・・先生


私事になりますが、先々週申し上げました通り、諸事情により次回更新は来月18日予定です。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

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