3-17 鶴と亀がその身を滑らせ――
第三門 脱出路
炎の柱を見上げて、長躯の男が「あちち」と火の粉が当たった手を振る。
「いやぁ~派手に派手に、いよいよ祭りじみてきたんじゃないの~」
「・・・僕らも派手に行こう言うん?」
チャキッと剣を鞘から抜いて、旗騎士、カルヴィン・ギュンターフィックが言うと、帝国陸軍少将アダルベルト・マシュタリーシュは「いやいや」と両手を上げた。
「俺もアンタも、そういうタマじゃあないでしょうよ~」
「せやねぇ。カッコつけるんは他のヒトに任せて、僕らは汚い戦いをしいひんとなぁ」
「お~お~、怖い怖い。こちとら肝っ玉が小せぇモンで、あんまり虐めてくれなさんな・・・!」
アダルベルトがカルヴィンに駆け寄って剣を振るう。特段技があったり速いというわけではないが、カルヴィンはそれを躱すのに一苦労だった。
―・・・あかんな
―この剣の動きが読めへん
アダルベルトの握る剣は、柄が刀身に対してまっすぐついておらず、弧を描く様にやや湾曲しているいる。そのため剣の動きを予測して回避しようにも、通常の剣とはズレた位置を通るため予想が困難だ。予力も経験によるところが大きく、こういった相手には対処し辛い。
「ん~、読みづらいだろう?剣の動きがさ~」
「・・・いやぁ、よい剣の型してますなぁ。こら手こずるわぁ」
言葉では余裕気に返してみるも、大振りに振った腕とは正反対に小さく振られる剣を躱しきれず、頬を斬られる。
「ナチュラルに煽られるのも、悲しいねぇ~」
前触れもなく今度は縦横無尽に振られ始めた剣を、トットッとバックステップで躱しながらカルヴィンはアダルベルトの剣の型の弱点を見つけた。
―・・・攻撃に関しては無欠で読めへんけど
―あの柄の作りから考えて、防御はほぼ不可能
―押すは強いが、引くは弱いはず・・・!
カルヴィンは一瞬の隙に剣を突き出したと見せかけて、その影からピストルを撃った。バンッと乾いた音が響き、瞬時に身を伏せようとしたアダルベルトの耳を弾丸が穿つ。
「ウッ!」
よろめいたアダルベルトにカルヴィンは攻撃を畳みかけた。右手に握った剣を振るいアダルベルトを斬りつけ、攻撃に一歩下がった彼に逃がさぬとさらに詰め寄る。
片手で持った剣を頭の横で構えて、鞭のように振るって八の字を描く。カルヴィンの剣の型は非常に独特ではあるが、斜め上からの斬撃という相手にとっては中々防御の取りづらいものだった。その反面、アダルベルトと似たように攻撃に特化している為、切り崩されると自身も防御できないという弱点があることも間違いなかった。
それでも一振り放たれれば、右上から左下へ、続けて左上から右下へ、そしてさらに右上から・・・と体力の続く限り無限に連続できる、強力な技である。実際にアダルベルトも腕や顔を斬りつけられ、一時は防戦一方であったが、カルヴィンの剣が下から上へと引き上げられるそのわずかな間に剣を突き出して彼の剣をからめとった。
剣を離すまいと持ち手に力を入れたカルヴィンだったが、アダルベルトのクイっと回した腕の力で後ろに数歩後退させられた。
「ふぅ~。・・・ずいぶんとあくどい剣の型じゃあねぇのよ」
「そら、おおきに。・・・せやけど、あんたはんにもその言葉そっくり返すで」
「お~、今度は本当に褒められちゃったみたいだ~」
「そう聞こえたんなら、ちぃとばかし耳が良すぎるんちゃうか」
お互い剣の手の内を知っている上、距離も開いている為、詰めることが出来ずしばし睨み合いが続く。
―・・・どう動く?
―無鉄砲に突っ込んでくる奴でもあらへん
―迂闊な動きをとれば、それが命取りになる
剣を持つ手に力を入れるカルヴィンだったが、アダルベルトは予想だにしない方法で攻めてきた。
「アンタも俺も単騎で突っ込めないならさ~、数で押せばいい話だよねぇ~」
彼の言葉に合わせて、左右から計4人の騎士が斬りかかってきた。しかもそれぞれ血を流しており、騎士術を発動した状態だった。
「『未滝柘榴』!」
「『宇鰐』」
「『宋刈銑』」
「『薙突臥』!!」
花びらのような刃の群れに、鰐の頭に覆われた腕、異常に柄の長い鎌、そして空から鏃が降り注ぎ、極めつけにアダルベルトもカルヴィンに迫った。
―・・・
―ホンマ、自分の力不足が情けないわ
「・・・こら、あかんなぁ・・・」
「おっ、降参かい~?でも、もう遅いよねぇ」
立ったまま防御をするでも下がるでもしないカルヴィンを不思議そうに見るアダルベルトだったが、直後突然聞こえてきた歌声に背筋がゾッとするのを感じた。
―なんだぁ・・・?
―この感覚は・・・!
「かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる」
何か今起きているわけでは無いが、その歌はアダルベルトの経験上、非常に危険なもののように感じられて、慌てて騎士たちに怒鳴った。
「下がれっ!!!」
「もう、遅い」
目は髪の影になって見えなかったが、そう呟いたカルヴィンの口は口角がクイッと吊り上がっていた。
「夜明けの晩に 鶴と亀が滑った――」
急にモワッと暖かい風が背に吹きつけられ、強烈な獣臭が鼻を衝く。
―なっ!?
―後ろに何がっ!?
「後ろの正面、だ あ れ ?」
振り向いた先に見えたのは、ギョロついた大きな黄色い目と、自身に振り下ろされた巨大な脚だった。
避けるまもなくアダルベルトたちを直撃したその脚は、2mにも迫るアダルベルトを打ちのめし騎士四人を即死させるのにはあまりに十分すぎる力を持っていた。
鋭い爪に肉を抉られた痛みに脂汗を流しながら、立ち上がろうとするアダルベルトの目の前に、ズンッと地面を揺らしながらソレが迫って行った。
―なんだァコレは・・・!!
「なんつうバケモンだい、こりゃあ~・・・!!!」
虎の手脚に狸の胴、蛇のような尾に猿の顔を持った怪物。この世界に存在するとは思えぬソレに、アダルベルトは身が震えた。
「これがアンタの騎士術ってわけかい、ギュンターフィック男爵・・・!!」
短いので二話投稿します




