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ユートピア  作者: 吉田 要
第一部 家族の行方
20/70

1-18-1 Deeper...Deeper...into the Darkness

「情けないな」


 温かみが微塵も感じられない、冷たく、堅い声。

 振り向きざまに、ジェーンは自分が()()()()()()ことに気づいた。

 ―!?

  ―何が!?

 何が起こったのか理解できぬまま宙を舞い、地面に叩きつけられる。

 身を起こそうとして、手足が動かなかった。

 ―なんだ!?

 横ではグッというフェリクスとスヴェンのくぐもった叫びと、剣を振る音が聞こえた。

「フェリクス!スヴェン!!」

「キャッ!」

「アビゲイル!?」

 アビゲイルの短い悲鳴に、何とか身を起こそうとするが、体中の力が抜けているようで、()()()()()()

 ―クソッ!

  ―一体何が!?

 その間にも、剣と剣がぶつかる音が聞こえてきた。

 声から察するに、何かとアビゲイルが戦っているようだった。

「貴方は・・・!」

「ナーシャ君。残念だが、()()()()には静かに眠ってもらいたのだが」

 ヒュンと言う音と共に、アビゲイルが吹き飛ばされてジェーンにぶつかった。

「アビゲイル!」

「・・・お姉さ、ううん、お姉ちゃん。私ね、まだ何も思いだせてないの。でも、しなきゃいけないことくらいわかる」

「まて・・・やめろ、逃げるんだアビゲイル!!」

 アビゲイルが何をしようとしているのか、分かった。

 そしてそれを理解したくなかった。

 ―やめてくれ・・・!!!

「ごめんね」

 ジェーンの思いも虚しく、アビゲイルは頬に軽くキスすると立ち上がった。

 拳をギュッと握りしめ、叫びながら影に向かって行く。


「やめろおおおおおおおおお!!!!」


 一撃。

 ジェーンの視界が鮮血で染まった。

 なんとなくだがおぼろげに見える、アビゲイルの体がぐらりと後ろに倒れ込む。


 ―ウソだ・・・

 ―だって今の今まで

 ―助け出して・・・


 呆然とそれを見ることしかできないジェーンに、倒れざまアビゲイルが穏やかな笑みを浮かべた。



「大好きだよ、お姉ちゃん」



 頭が真っ白になった。


 なんだこれは


 意味が分からない


 理解できない


 何が―


 何がおこった?



  ◇  ◇  ◇  



 呆けた様子のジェーンに、影が歩み寄っていく。

「ジェーン・ファミリアエだな」

 質問のようであるが、否と答えさせる選択肢はない。

 ひどく冷徹な声。

 瞬きもせず、心もここに無いという状態のジェーンに、影がそっと手を伸ばした。

 その影の足を、血まみれの手が掴んだ。

「・・・この・・・野郎・・・!!」

 フェリクスが全身の力を振り絞って、影を止めようとしていた。

「・・・」

 それを無表情で見下ろした影は、目立った予備動作もなく、手にした剣をフェリクスへと振り下ろした。

 ―クソッ・・・


 だがその影を、突然彼方から飛来した“()()()”が突き刺した。

 影は特段よろめくことは無かったが、素早く飛来した方角へと顔を向ける。

 ―まさか・・・

  ―今のは・・・

「小賢しい・・・」

 目の前の光景に目を疑うフェリクスの前で、ギリッと影が唇を噛んだ。

 そして剣をそちらに向けようとした影だったが、突然ため息をつくと、あきらめたようにその場から走り去っていった。

 ―なんだよ、アイツは・・・

  ―いや、それよりも!

   ―ジェーン!!

 地面を這って、彼女の方へ向かう。

 虚空を見つめ、僅かに震えている彼女の腕で、アビゲイルが眠っていた。



 倉庫の影でそれをひっそりと見つめて、バルタサール・ドミンケスはその金髪をガシガシと掻いて舌打ちをした。

「チッ・・・殺し屋はさっさと逃げちまうし、アイツは来るし、最後は騎馬隊のご到着かよ」

 小石を蹴り飛ばして、「やってらんねぇぜ」と漏らしたドミンケスは、もう一度ジェーンたちの方に目をやり、小さく胸の前で十字を切った。

「わりぃな・・・」



 なんとかジェーンの元へ這って行ったフェリクスを、誰かが抱き上げる。

「衛兵!こっちに担架だ!!」

 その丸太のように太い腕と声。

「・・・ロロさん」

「遅れてすまんな、カウフマン騎士」

 旗騎士ジルベール・ロロ・マルブランシュの襟首をヒシッと掴んで、フェリクスはジェーンとアビゲイルを指さした。

「お、俺なんかよりも・・・まず先にジェーンたちを・・・!」

「ああ、勿論だ。だが、貴君らとて重症。今は喋るな」

 大きく頷いたロロの後ろでは、ウタの街の衛兵隊が担架やらなにやらを慌しく運んでいる。

 その横に音もなく突然、ターバンを巻いた黒装束の、アラブ風の男が現れた。

「ロロ殿、見つけました」

「おお、ウィルは無事か!?」

「ええ、応急ですが手当てがされていたお陰で」

 アラブ風の男、旗騎士ラルラ・アラルラは背に背負っていた、旗騎士ウィルバルフ・エスクロフトを担架の上にそっと下した。

「こっちの四人と合わせてすぐに後送だ。私は辺りを捜索する。貴君は彼らの警備についてくれ」

 ロロの言葉にラルラが黙って頷く。

 衛兵によって担架に載せられながら、フェリクスはジェーンたちの方へ目をやった。

 放心状態で、ぼんやりとした様子のジェーンの横で、アビゲイルも担架に載せられる。

 ―まただ・・・

  ―もう何も失わせないと、そう誓ったのに・・・

   ―俺は・・・

次回、第一部 家族の行方 完結します

一部終わったら、ちょっと詰まっているので一週間かもしくは二週間更新止まります。予めご了承を・・・


20/8/24 再編集しました。その影響で、旧状態では21話で第一部終了でしたが、23話になります。すみません。

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