笑わぬ子供は試練に向けて・Ⅰ
あと六回(今回含めて七回)程今回の様な話が続きます。
血の魔法を知った次の日……
自分の部屋に戻って数時間程寝て、日が昇る前に地上に出る。今日からは忙しい、まずはロビンに会って狩りを本格的に教えてもらえるか聞かなければいけない。
森に入り少し歩き、最初にロビンに会った所に向かう。ここでいつもロビンに会っている。
「ロビンいるか?」
「おう、いるぜ。ちょっと待っててくれ。今、朝飯の獲物の下処理をしてるんだ」
草陰からロビンの声が聞こえてくる。
「わかった」
「それにしても本当に毎日くるな。お前」
「邪魔か?」
「いや、楽しいからいいんだけどよ。家を毎日抜け出していいのか?」
「問題ないさ。それに朝飯の前に戻ってるからばれないさ。いや朝からなにかしている事には気づいてるが、地上に出てる事はばれてない」
「そうか。……よし、下処理完了っと。またせたな」
草の後ろから緑のローブを着ているロビンが、動物の肉を持って出てくる。
「かまわないさ」
「そうか。じゃあ肉でも焼くか。お前も食べるだろ?」
「少しだけ頂こう」
「二本くらいで良いな?」
そう言うと、肉を刺した串を火の周りに刺して、肉を焼いていく。
「それで、今日はどんな話をする?」
「俺に狩りを教えてくれないか?」
「狩りを?前に軽く教えただろ」
「確かに教えてもらった」
「だろ」
「だがあれは鳥や兎の狩り方だろ。今回教えてほしいのはモンスターの狩り方と戦い方だ」
「……なんだっていきなりモンスターの狩り方や戦い方なんて聞くんだよ」
「一週間くらいしたらモンスターと戦う事になった」
「なんだと! なんでだ! アガルタの人はモンスターと戦おうとしないはずだ! 強力な結界に守られていると言われているアガルタでモンスターと戦う奴なんて、結界を維持してる一族くらいのはずだ! まさか」
ロビンが立ち上がり、問い詰めてくる。今までに無く驚いた様子だ。
「そのまさかだ。僕がその一族の者だ。もっとも昨日知ったんだが」
「……そうか。確かにお前さんの戦闘力は、アガルタの人間にしてみれば異常ではあった。戦いから離れたアガルタの人間の血を引いていて、魔法を使えるほどの魔力量を持ち、高い戦闘センスを持っているのは、確かに変だからな。先祖返りかと思っていたが、まさかアガルタで唯一今も戦っている一族の者だったとは……」
「そんな訳でモンスターと戦う事になったから、狩りを教えてくれ」
「……むむ……むむむ……わかった。お前さんは面白いし、弟に似てるから死んでほしくない。けど……俺が教えたらもっと弟に近づくかも……」
ブツブツと言いながら迷っているロビン。
「弟に近づくなら良いじゃないか」
「そう……だな……。そうだな……けど覚悟しないとな……わかった。教えてやる」
「ありがとう。じゃあ何から……」
「その前に一つ約束がある」
真面目な顔で言ってくる。
「約束?」
「ああ。狩りのやり方についてだが、教えてやるが誰にも教えるんじゃないぞ。狩りのやり方ってのは知らたら、やりにくくなる」
「そうなのか?」
「特に罠を使った狩りはな。それが約束できるなら教えてやる」
「もちろんだ。誰にも教えない事を約束しよう」
「お前の事を信じて教えてやる」
「ありがとう」
「ただ今の会う時間じゃとても教えきれない。それも一週間じゃ無理だ。だから会う時間を長くできないか?まあお前の家の事情もあるだろうから難しいと思うが」
「わかった。そうだな……昼なら大丈夫……なはずだ。まあ多少ばれやすいが、方法はある」
「わかった、昼からだな。じゃあ昼また来い。そろそろ家に戻った方がいいだろ?」
「そうだな昼にまた来る」
「昼までに、どう教えていくか考えておく」
「頼んだ」
こうしてロビンと別れて一旦屋敷に戻る。
よしまずは第一関門の狩りについて教えてもらえるかどうかは突破した。次は一週間で覚えきれるかだな。
屋敷に戻って朝飯と昼食を食べてから、地上に向かう
「戻って来たか。さっそく初めていいか?」
「問題ない」
「そうか。じゃあその辺に座ってくれ。モンスターの狩り方の説明から始めていく」
「わかった」
そう言い、地面に座ると本格的な説明が始まった。
「まずは狩りにおいて大事なことからだ。これはすべてに言える事だが、事前準備が大事だ。事前に相手の情報を集め、武器を手入れし、戦う場所周辺の地理を把握する事が大事だ。事前に情報を集めないと相手を一撃で仕留めきれない可能性が高いからだ」
「一撃で仕留めないとダメなのか?」
「そうだ。モンスターは俺たちよりも力が強い。ゴブリンですら大人が五人で押さえるんだ、正面から戦えば力負けして殺される。だから気づかれずに近づき、一撃で仕留める。
ゴブリンみたいな人型のモンスターは首を落とすのがいい。獣型は心臓を潰せ」
「人型は心臓ではダメなのか? 獣型の断頭がダメな理由は?」
「ダメではないが、難しいぞ。槍とかのリーチの長い武器ならいいが、剣だと確実じゃない。心臓を貫いてもすぐには死なないから、反撃を受ける事がある。獣型は基本素早い。首に当てて切り落とすのは至難の業だ。もし外したら洒落にならん」
「なら弓ではどうすればいい?」
「人型なら頭を撃て、獣型なら何発も撃って動けなくしろ」
「なるほど」
「モンスターの情報を集めて、一撃で殺せそうなら狩れ、無理そうだと思ったら逃げろ。どうしても戦わなければいけないなら、最初に腕か足を一本落とせ。それでモンスターが動きを止めていても一旦引いて、弓で削れ」
「そのまま、もう一撃加えてはダメなのか?」
「ゴブリン程度ならいいが、もっと強いモンスターだと反撃をしてくる事がある」
「なるほど」
「仲間がいるなら良いが、一人では安全第一だ。まあ、一人の時点で危険だからな。安全に気をつけすぎて、怯んで攻撃を外したらダメだが、警戒しておいて損はない」
「なるほど。情報を集めて一撃殺すのが基本な訳だ」
「その通りだ。次に大事なのは不測の事態に遭遇した時に対処するためのあらゆる作戦だ」
「不測の事態ってのは予想できないから、不測の事態って言うと思うんだが?」
「確かにそうだが不測の事態ってのは減らせる物なんだ。モンスターが一匹だと思っていたら数匹いた、なんて事はよくある話だ。事前に情報を集めてもその情報が古い事がある。そうなった時に焦らず対処できる用に幾つも作戦を考えるんだ。例えば、ゴブリン一匹の討伐。この時に考えるべき作戦は、情報通りで一匹だった場合の奇襲作戦、ばれた時用の逃走作戦や、あらかじめ仕込んだ罠への誘導作戦、他にその地に棲むモンスターが乱入してきた時用の作戦など、あらゆる状況を予測して作戦をたてる。それでも不測の事態が起きたら、咄嗟の判断力が物を言う。咄嗟の判断は難しいし、間違う事もあるから、できるだけ減らすのは当然だ。そのような作戦をしっかり立ててから行動すること。これも大事だ」
「なるほど。確かに咄嗟に動けない状況を減らすため作戦を立てるのは大事だな」
「そうだ。あらかじめ作戦をたてて行動するのは大事だ。次に大事な事はいつでも作戦を放棄する覚悟を持つことだ」
「えっ!……」
「驚いたか?そうだろうな、さっきまで作戦の大事さを語ってたのに作戦を放棄するのが次の大事なことだなんて」
「えぇ……驚きましたが理由があるのでしょう?その理由はいったいなんですか?」
「その理由は、作戦に囚われ過ぎて、不測の事態に対処出来なくなるからだ」
「作戦に囚われ過ぎる?」
「そうだ。作戦に沿って行動しても、幾つ作戦を考えても、実際に不測の事態に遇う事はある。そんな時に立てた作戦に拘って、あらかじめ考えた作戦が使えるように軌道修正しようとするのは愚策だ。不測の事態に遇った場合、作戦を捨ててその時の判断に任せなければ、隙を見逃して余計な怪我をする可能性が高くなる。作戦に囚われて、それで無駄に時間をかけるのは、絶対にやっちゃいけない」
「なるほど……作戦を遂行しようとして、不測の事態でも作戦の方向に修正しようとして、結果判断を間違えて怪我をする事になる、という事ですね?」
「その通りだ。そんな怪我をしない為に、いざって時は作戦を捨ててその場で考える事も大切だ。その結果、最初の作戦に戻した方が良いなら戻しても良いが、そんな事は滅多に来ない。だから作戦をいつでも放棄する心構えをしておく事が大切なんだ」
「なるほど。作戦をしっかり考えて、それでも不測の事態が起きたら、作戦を捨てて臨機応変に、という事だな?」
「そうだ。事前の情報収集、あらゆる事態を想定した作戦を立てる事、不測の事態が起きたら作戦を捨てて行動すること、この三つが狩りで非常に重要だ」
「わかった。次は何を教えてくれるんだ?」
「いや、今日はここまでだ。もう夕方だからな」
空を見上げると、空が紅く夕日が沈んでいっていた。集中しすぎて気づかなかったようだ。
「もうこんな時間だったのか。集中しすぎて気づかなかった」
「そうか、そんなに集中して聞いてくれてたら嬉しいけど、少し恥ずかしいな」
「そうか?もう少し学びたかったけど、明日もあるから今日は帰る」
「そうだな、じゃあまた明日」
「今日はありがとう。それじゃ、また明日」
「そうだ最後に聞いていいか?」
「なんだ?」
「俺の話はわかりやすかったか?」
「問題なかったよ」
「それは……良かった」
こうしてロビンと別れて屋敷に戻ると夕食を食べ、地下で血の魔法の練習をする。今の課題は血と魔力を混ぜる速度を上げて、もっと早く発動することだ昨日でなんとなくつかめたから、今日からは反復練習だ。血と魔力を混ぜていく、血と魔力が混ざったら針を作って壁に投げる。そして、また血と魔力を混ぜていく。これを数十回繰り返したら部屋に戻って寝る。
こうして忙しい一日目が終わったのだった。
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