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嗤う道化は殺されない  作者: からう
笑わぬ子供は憧れる
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笑わぬ子供と血の魔法

 ブリューデンは悩んでいた。一族の秘密と秘術をラクーンに教えて良いものなのかを。ラクーンには成人である十五歳までには秘術を使いこなせるように教えなければならない。その為にもそろそろ教えたいのだが、ラクーンの異常性を見てから悩んでしまう。

 一族の秘術を教えるという事は、アガルタを任せるという事だ。息子に大変な役目を背負わせる事に抵抗感は無い。しかし、あの血を見た時の興奮の仕方。その異常性が気になって仕方がない。その異常性が何時か本当に覚醒した時、秘術を覚えたラクーンを対処する事が出来るかが、不安で仕方がない。

 自分の奥から出てくる恐怖が『教えるな』囁き掛けてくる、自分の頭から出てくる使命が『早く教えろ』と囁き掛けてくる。自分の予感を信じたいと体が言う。自分の使命を優先するべきだと頭が言う。二つの意見に押し潰されそうになる。


 それから一週間。ずっと考え続けた。その結果、使命を優先して秘術を教える事にした。しかし時間を空ければ意思が変わりそうな気がする。だから今日の夜、教える事にした。


「セイデン、いるか」

コンコン

「御呼びでしょうか?」

「あぁ、とりあえず入ってくれ」

「失礼します。それでご用件は?」

「ラクーンに、夜になったら俺の部屋に来るよう伝えろ」

「承りました」

「頼んだぞ」

「お任せください」

「よし、もういいぞ」

「失礼します」


 セイデンが出ていく。これでもう戻れない。後はラクーンが来て<血の魔法>を教えるだけだ。


 視点は変わり、ラクーン視点……。


 ロビンと別れ、屋敷に帰ってくるとセイデンに声を掛けられる。


「ラクーン様。主様より伝言で御座います。夜、部屋に来るようにと」

「わかった」


(何だ?地上に出ていた事がばれたか?いや、地上に出たのがばれているなら、今捕まえてくると思うから違うか?……わからんな……まあ、行ってみればわかるか……)


 夜になり、父親の部屋に行く。父親の部屋の前に立ち、扉を叩く。


コンコン

「ラクーンです」

「入れ」

「失礼します」


 部屋の中はそんなに広くなく、机と絵画があるだけというシンプルな作りをしている。


「よく来た」

「……それで用件はなんです?」

「それは……」

「それは?」

「お前に一族の秘密と秘術を教える」

「一族の秘密と秘術?」

「あぁ、付いて来い」


 そう言うと絵画に向かって進みだす。何があるのかと付いて行くと、父親は絵画を外し始めた。絵画を外すと、壁にボタンが付いている。どうやら絵画で隠していたようだ。


「これは……」

「外に出してはいけない物が在る場所への扉のボタンだ」


 そう言うとボタンを数回押す。すると壁が動き、階段が現れる。


「付いて来い」

「どこに行くんですか?」

「地下室だ」

「地下室なんてあったんですね」

「そうだ、そこに秘術と秘密がある」


 それから五分程進むと、大きな扉が見えてくる。


「あの先だ」


 扉の前に着くと、父親はいきなり手を切り、血が流れる。その様子に一瞬慌てるが、血が動いていることに気が付く。血が扉の鍵穴らしき場所に入っていき固まる。固まった血を眺めていると、父親が固まった血を持ち、回すと扉があいていく。血が固まった事と、扉が開く様子に驚いていると「入れ」と言われて歩き出す。


 扉の先は少し大きいくらいの部屋になっており、数冊の本と小さな瓶、椅子がある。父親は椅子を動かし座ってこちらを見る。僕も椅子を動かし、父親の正面に座る。


「さて、何から話したものか。とりあえず一族の秘密からだな」

「秘密ですか?」

「そうだ。我々一族はアガルタを守るという使命がある」

「アガルタを守る使命ですか?」

「我々一族はアガルタを守る為に、アガルタの理想を捨てた一族だ。アガルタにモンスターが入ってこないように結界を作り、結界を突破してきたモンスターがいたら、そのモンスターを討伐するのが我々一族の役目なのだ」

「……(それは……)」

「驚いたか? 俺も最初に聞いたときは驚いて声がでなかったからな。無理もない」

「いえ、大丈夫です。続けてください」

「では続けよう。そしてアガルタを守る為に、秘術<血の魔法>が必要になる。今回の話はこの血の魔法をお前に教える為だ」

「血の……魔法……ですか? それは扉を開ける時に血が動いていた物と同じ物ですか?」

「そうだ。ただし先ほどの使い方は本来の使い方ではない。本来は地に馴染ませ辺りに結界を張るのが使い方だ。」

「地に馴染ませる? 何故です?」

「広範囲に結界を張り、結界の強度を上げ、結界が壊れた時、術者に素早くそれを教えそして他の者に気づかれずモンスターを倒すためにだ」

「しかしモンスターは強力です。一人で倒すのは、それも他の者に気づかれずに倒すのは難しいのでは?」

「普通であればそうだろうな。しかし血の魔法を本来の使い方ではなく、扉を開ける時のように特殊な使い方をすれば問題ない。血を細い糸の様にし、疑似的な筋肉として使用する。そして血で作った武器を用いて一撃で仕留める。これが基本的な戦い方になる」

「なるほど非常に応用のきく便利な魔法ですね」

「確かに便利だが欠点もある。それは血を使いすぎれば気絶、最悪の場合死ぬことになる。」

「それは魔法も同じく魔力をすべて使用すればそうなるのでは?」

「確かにそれは魔力もそうだが、大きく違うのは回復速度だ。魔力なら寝ればほぼ回復するが、血はそうはいかない。先ほど言ったような使い方をすると、体の大きさによるが血を四分の一程使う。急激に血がなくなることで体に負担がかかる。先代の残した本によると血の三分の一が急激になくなると命の危機になるそうだ。そして一日に回復する血の量では絶対に連戦できないと書かれている。そこでこの瓶を使う」


 そう言って部屋に有った瓶を渡してくる。


「この瓶に血を毎日少しずつ入れて保管する。こうすれば連戦も可能だし血を流し続ける必要もない」

「なるほど。……思ったより使いにくそうですね。そしてこの年で血の魔法を教えるのは今から少しずつ血を瓶に集めておくためですか」

「その通りだ。ここまで一通り秘密と魔法の説明はしたから、本格的に<血の魔法>使い方を教えていく。最初に結界術は難易度が高いから、血の形を自由に変えて武器などにする術を教える」

「わかりました。本当は一度寝て頭を整理したいところですが、やりましょう」

「まぁ一度にそう言われても理解できないのはわかるが、いつ何があるかわからないから早めに教えておきたい」

「わかってます。それで最初はなにをすれば?」

「とりあえず簡単な使い方から説明していく。この魔法は通常の魔法と違い術式回転する必要がない。魔力と血があれば、素早く使うことができる。やり方は簡単だ。血と魔力を混ぜる。この時に混ぜる魔力の量は少なくて良い。後は術式展開するときのように魔力を操り、武器などの形にして、少しすると一気に固まる。それで完成だ。」


(なるほど<魔力固定・武装>と同じような感じだな。ただ血が入ることでどう影響するかわからないがとりあえずやってみよう。まずは血を出さないとな)


 爪に魔力を集めてその爪で指に傷をつけて血を出す。そこに魔力を集めて血と魔力を混ぜていく。


(なかなか混ざらないな)


「もっと馴染ませるイメージだ。ただ血と魔力混ぜるのではなく、魔力を血に馴染ませながら混ぜるんだ」


(馴染ませるイメージか、もっと魔力が溶ける用に柔らかくなるイメージで。

おっ……少し混ざってきたかな?)


「そう、そんな感じだ。この短時間でそこまで掴むことができるのはすごいな」


(もっと柔らかく、溶けてドロドロになるイメージでもっと馴染ませ、混ぜる感じで………)


 魔力が溶けて、血と混ざっていく


「もうできたのか、凄いな」


(なるほど、こんな感じか。思ったより難しいな。形を変えてみよう。この血の量だと針くらいしか作れないが、とりあえずいいだろう。血と魔力を混ぜるのをやめて、素早く形にしていく。鋭く、細く。形を変えるのは簡単だな。形を作りその形で維持すると一気に固まっていく。固まった血の針を壁に投げてみる。狙ったところから少しずれたが問題ない。

血の針は壁に刺さり少しすると形が崩れて血に戻っていく。暗殺をするときに便利そうだ)


「血の魔法で作られた物は自分から離れると血に戻る。それにしても一日目でここまで使えるようになるとはな。これならすぐに実践でも使えるようになるだろう」

「いえ、まだまだ血と魔力を混ぜるのが遅く、実践では使えません」

「そうか?初めて使ってそこまで使えれば十分だろう。後一週間もあればマスター出来るだろうさ」

「そうですか」

「俺が力をある程度使えるようになったと判断したら、地上に出て、モンスターを倒す試練を行う」

「モンスターをですか?」

「そうだ。一人でどんなモンスターでもいいから一匹狩ってこい」

「一人で……それは厳しいのでは?」

「一族の代表となり、アガルタを守る使命を正式に受ければ一人で戦わねばならん事もある。それも結界を破る程の力を持ったモンスターをだ。それこそゴブリン程度ではなくオーガやタイガー種やマザーウルフ種などが現れる事もある。最初からそのような非常に強力なモンスターと遭遇した時に死なぬよう、あらかじめモンスターと何度か戦い、モンスターに対して慣れておくのだ」

「なるほど……初の実戦でモンスターの中でも特に強力な種に遭遇し、恐怖で動けなくならないように、ということですか。しかしその訓練中に死んだら元も子もないのでは?」

「安心しろ、危なくなったら助けられるように近くで見守っているからな」

「それを言ったら意味がないのでは?」

「お前なら気づきそうだと思ってな。屋敷の者にお前を見張らせても、いつも消えるらしいからな。訓練中にばれて撒かれればいざという時対応できないからな。なら、あらかじめ言っておいたほうがよかろう」

「なるほど」


(面倒だな。オリジナルの魔法を使えないじゃないか。いや、もうオリジナルの魔法を隠す必要もないか? そもそも隠していたのは魔力を使って武器を作れると知られれば面倒なことになると思ったからだ。しかし血の魔法で武器を作れるのならいいのでは? そうなればモンスターを倒すのも多分楽になる。ロビンに戦い方でも聞くか。まあ罠の作り方も教えてくれたし、教えてくれるだろ)


「どうした?何か不安か?」

「いえ、疲れてボーっとしてました。すみません」

「そんなに疲れたなら今日はもういいぞ。ある程度教えたし、ある程度使える様にもなっているからな」

「そうですか? では今日はありがたく休ませてもらいます」

「そうしろ。疲れた状態で無理して、大きな失敗をして怪我をされても困るからな」

「そうですね。では失礼します」


(今日はもう疲れた。トラバサミの作り方と血の魔法と一族の秘密を一日で覚えるのは大変だ。明日からはかなり忙しくなる。明日の朝はロビンに狩りを習って、その後は血の魔法の練習だ。その為にも早く戻って寝なければ)


 こうして忙しい一週間が始まるのだった。


ここまで読んで下さってありがとうございます。

面白いと思って頂けたら嬉しいです。

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