笑わぬ子供は楽しみを見つける
僕は何にも興味が持てなかった。親から渡されたオモチャも、親から聞かされた英雄譚も。親は僕にさまざまな物をくれた。しかし、どれもつまらない。
唯一少しだけ興味を持てたのは魔法だった。親は七歳の時から魔導書などの、魔法を使う為の本を読むように言われた。その時少しだけ興味を持った。しかし、親が魔法を見せてくれた時、その凄さがわからなかった。けれど魔導書を読んでみると奥の深さに惹かれた。
属性魔法に興味は無かったが、魔法の三工程は面白そうだと思った。魔法の三工程の、魔力を集める、術式展開、術式回転は非常に面白かった。魔力を集めた量によって威力が変わる。術式のサイズが大きければ横の範囲が広がり、回転速度により射程が変わってくる。魔力を集めるのは簡単だ。しかし術式展開は難しかった。魔力で手の平に術式を描くのは難しく、術式回転で崩れないようにするのがより難しい。いくら術式を大きく展開しようが回転が遅ければ意味がない。
魔術の中でも初級の無属性魔法<ショット>をただ練習した。<ショット>はただ魔力を放つだけの魔法だ。この魔法は、術式回転速度が大事だ。威力はあってもいいが、結局ただの魔力なので威力は低い。やはり射程が一番だろう。唯一少し興味を持てたものだ、暇つぶしには丁度いい。
それからはやることもないから、魔法の練習をし続けた。
三年後……
魔法を知った日から三年がたったが、いまだに魔法以外に興味が持てない。
最近では屋敷を抜け出し、街で人の観察と噂話を聞くことが多くなった。その結果、アガルタの地理が大体わかった。地理は教えてもらっていたが、アガルタは複雑な形をしており、例えるならアリの巣のようになっていた。その形ゆえ、正確なイメージが無かったが、ようやくわかった。
貴族街は王族と重要な人物が住んでいる場所だ。天井には、アガルタで唯一太陽を見れる大穴がある。屋敷の数は多くないが、非常に広い。僕が住む屋敷は城を正面から見た時、左側にある。そのまま左に行くと別の区画、繁華街がある。繁華街は明るく、楽しげな所だ。そのまま進むと道が二つに分かれてる。右に行くと歓楽街、その奥に人用のスラム街がある。酒の匂いがしてくる為、繁華街より歓楽街側に行った事は無い。左に行くと、人用の居住区が在る。城から右に行くと、ドワーフ街と呼ばれるドワーフが住む街がある。ドワーフ達が武器を作る場所である。熱気がすごい。そのまま進むと道が二つに分かれてる。左に行くと、獣人が住むスラム街がある。獣人はここにしかいない。右に進むと地上へ行く部屋に出るが、警備の人がおり、入ることは出来ない。城の後ろ側に進むと、基本の食料である動物が飼われている。野菜は地上で作っているらしい。
そして今日は日課の興味の持てる人はいないかと、なにか面白そうな噂はないかと繁華街に向かう。
「そういえば知ってる?最近アヴァロンで大規模ギルドどうしの抗争があったそうよ」
「えっ!……やっぱりアヴァロンは野蛮な地ね」
「あ~、その話聞いたことあるな。なんでも千人規模だったらしいからな」
「ギルドと言えばアガルタにギルド<サーカス>がやってくるらしいぞ」
「サーカス?」
「なんだ知らねえのか。サーカスってのは五十人くらいの中小ギルドだ」
「へぇ~、しかしなんで今中小ギルドの話をするんだ?今は大規模ギルドの抗争話だっただろ」
「そりゃサーカスってギルドは人数は少ないが大規模ギルド並みの力があるって話だしな。それに特殊なギルドとして有名だしな」
「特殊?」
「あぁ、なんでもサーカスってギルドは特殊な芸をやるらしい」
「おいおい冒険者が芸をやるってのかよ」
「冗談はやめてよ」
「冗談じゃねーよ。モンスターを倒す劇のような物や、空中を飛んだりするらしい」
(ちょっと面白そうだな。サーカスが近くにきたら見に行ってみるか。もう少し話を聞きたいが、屋敷に戻らないと抜け出した事がばれそうだ。それに屋敷に戻って魔法の研究をしなければ。はやく<探知>も完成させたいし。そうと決まればさっそく帰ろう)
屋敷にこっそり帰る。
(よし、今日もばれなかった。早く庭で魔法の練習をしよう)
「<ショット>」
ドカンと的に命中し的に傷をつける。傷を付けるだけで、的を破壊する事は出来ない
<魔糸>魔力の細い糸を作りだす魔法。一本だけの攻撃力は皆無だが、何本も作り纏める事で初めて効果がある。術式を展開しないから、細かく言えば魔法じゃない。
「<魔力武装・剣>」
手の平に剣が作られていく。この魔力武装は、ラクーンが考えたオリジナルの魔法。<魔糸>と通常の魔力を使った魔法。魔糸である程度の型を作り、魔力を軽く圧縮する事で糸が解けるのを防ぎつつ、攻撃力を持たせる。魔力で出来ている為、非常に軽い。剣だけで無く弓や槍も作れるし、剣と言っても両刃から片刃まで作ることが出来る。
この魔法を作る時、魔力を圧縮しすぎて爆発させてしまった事がある。
<固定>この魔法は、自分の魔力が含まれた物同士をくっつける魔法。地面と魔法をくっつける事はできないが、魔法と魔法をくっつける事が出来る。
<探知>この技は術式を展開せずに魔法を発動できないか?と最初に試した時に考えた技。
魔力を術式展開せず放ち、周囲の建物の構造や、どこに人がいるかを把握する魔法。術式を展開して使う事もでき、術式を使うと探知できる範囲が上がるが魔法の発動速度が落ちる。一長一短だが、普段使うなら、術式を使わないほうが便利だ。
いずれ探知した人やモンスターに対して、自動で追尾する<ショット>を作りたいと思っている。
そのためにも<探知>の精度向上と新魔法の開発をしなくてはいけない。だから今は<探知>の精度向上の為練習しなくては。
一か月後……。
今日は父親が魔法の練習を見に来ている。オリジナルの魔法はまだ見せたくない。とりあえず<ショット>を見せれば十分だろう。
<ショット>を発動する。発動されたショットは、的にあたり傷をつける。やはりまだ的は破壊できない。
「ラクーンよ、さすがだな。この年で魔法を使えるようになるとは」
「……(何故このレベルの魔法でそんな言葉が出てくる。この<ショット>だってまだ改善できる所はある。なのに何故)」
「その年で魔法が使えるのだ、もっと喜んだらどうだ」
「……(この程度の魔法でモンスターを倒せるのか?そんな訳ない。モンスターは非常に強力だ。最弱と言われているゴブリンですら一匹倒すのに五人~十数人は必要だ。アヴァロンに本拠地を置くギルドの、ギルドリーダーやエース達なら一人で倒せるかもしれないが、僕の魔法では無理だろう)」
「……はぁ」
「まあいい。とりあえず俺は屋敷に戻ってる」
「……(そうしてくれ。そうしてくれないとオリジナルの魔法の練習ができない)」
一か月後……。
今日も魔法の練習だ。今日はいろいろと魔法を組み合わせた魔法の練習だ。
「<魔力武装・弓矢>+<ショット>=<ショットボウ>」
この魔法は、弓で放った矢を<ショット>に変える技。魔力で弓と矢を放つ方向に<ショット>の術式を回転させておき、魔力で作られた矢を魔力に変換し<ショット>に変える。
この魔法を練習していると、鳥がやってきた。
(珍しいな。アガルタは地下にあるから動物が入ってくることはめったにないのに。天井の穴から入って来たのだろうか? そうだ! あの鳥を撃ってみよう。動く相手に当てれるか試してみよう)
しっかり狙って、相手が動く先を予測して撃つ。
矢から手を放し、矢が放たれる。その矢は進行方向にある<ショット>の術式によって<ショット>に変わり、魔法に変わったことで加速し、鳥に当たる。当たった鳥がどうなったか確認しに鳥が落ちた庭の端の方に行く。そこには翼に穴が開き、胴体に魔法が掠り、苦しそうにしている鳥の姿があった。
流れている血を、苦しんでいる鳥を見たとき綺麗だと、美しいと、もっと見ていたいとそう思った。その美しさに目を奪われていると、声を掛けられる。
「何を……笑っている」
そんな声がかけられた。そちらに振り向くと、恐怖の表情を浮かべた父親の姿があった。
(なぜそんな顔を向けられなければならない?こんな綺麗で美しいものほかにないだろう? なのになんでそんな顔をする? まさかこんなにも美しいものを理解できないというのか? いやそんな筈はない。この美しさを理解できない筈がない。なのに何故?考えてもわからない)
それからは毎日屋敷を抜け出し、地上に出る。
地上への行き方は、まず<魔力武装>を応用した魔法で縄を作りだす。縄を<魔力武装・弓矢>で作り出した矢に<固定>で魔力を固定し、天井の穴に向けて放つ。しかしこれだけでは穴に届かない。だからオリジナルの魔法である<加速術式>を使う。この魔法は術式回転速度に特化させ、通過した魔法を再構築し術式回転速度に応じて魔法を加速させる魔法。欠点は単体では攻撃力が無い事。
遠くに術式を展開するのは難しいが、僕にできる最大距離に設置すれば何とか大穴を抜ける。大穴を抜けた矢が、木や地上に刺さればその縄をつたって地上に出れる。
地上に出る時、見つからないように出なければならないが、アガルタは広いし、わざわざ穴を見てる人なんていない。通常の地上に出るルートだと警備がいるが、そのルートは非常に遠く、視界が通らない為警戒する必要は無く、穴は非常に高い位置にある為警備する人はいない。
地上に出るとそこは森の中だ。近くに山があるようだが、そこに用はない。森の中で休んでいる鳥を狙うのだ。当然地上にはモンスターがいる。モンスターに遭遇しないように足跡などが無いか確認しながら進む。
そうして毎日鳥を一匹狩り、帰るのだった。
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