表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

オンボロ動物園

作者: 亜伊宇江雄

 古くて小さな動物園には、リス一匹と九官鳥一羽しかいません。空いている小屋ばかりです。飼育員は、健さん一人きり。

 町の人は、オンボロ動物園と呼んでいます。誰も遊びにきません。あさっての日曜日で閉まるのです。

 仕事を終えた健さんは、ため息まじりにつぶやきました。

「昔みたいに、たくさんの動物がいて、町の人でにぎやかな動物園を見たかったなあ。」

 なんと!この独り言は聞かれていました。

 小屋の中にいる、リスのスクイです。

 すぐさま、九官鳥のナインに言いました。

「健さんがくれる木の実は、いつもおいしく、小屋は古いけど、寝床はとってもふんわり。お礼に、願いをかなえてあげたいです。」

 ナインは、オレンジのくちばしを、よこにふって「無理だ」と答えます。九官鳥なのに、話すのが嫌いなのです。

 なんと!この会話は聞かれていました。

 近くの森に住む、カラスのクロウです。

「あきらめずに、やってみようぜ。森のみんなに声をかけて、ここへきてもらおう。」

「いやだ、と言われるかもしれないよ。」

 スクイが小さな声で言うと、クロウは真っ黒な羽で、えさ箱の木の実をさしました。

「健さんは、うまい木の実を見つけに、毎朝森へやってくるのさ。そのたびに、みんなのけがを治してくれたり、優しい言葉をかけてくれたりするんだ。嫌われ者の、おれたちカラスにもな。だから、みんな喜んでくるさ!」

 クロウは、森に向かって飛んでいきました。

 スクイが、木の実を見つめて言います。

「いつも、おいしいわけですね。」

 ナインのくちばしが、たてにゆっくり動きました。

 スクイは、うでを組んで言います。

「森のみなさんが、空いている小屋に入れるように、準備をしないといけませんね。どうしましょう?」

 ナインは、くちばしをひねるばかりです。

 なんと!この相談は聞かれていました。

 森からきていた、サルのモンペイです。

「それはサル軍団に、まっかせなさい!」

 スクイは、たずねました。

「健さんに、けがを治してもらったの?」

「それだけじゃないよ。健さんは、しょちゅう、やわらかい枝や葉っぱを探しにくるんだよ。そのたびに、森のごみを拾ってくれたり、木を植えることもしてくれるんだよ。森のみんなが感謝してるよ!」

 モンペイは、木から木へ飛び移りながら、森の中に戻っていきました。

 残された二匹は、いつも寝床がふんわりしていたわけが、これで分かりました。

 そのとき、ナインが口を開きました。

「明日、健さんが、わしの小屋を開けたら、思い切りさわいでくれ。よろしくたのむ。」

 無口なナインが話すのは、とても久しぶりです。

 スクイはびっくりして、「は、はい」としか言えませんでした。

 次の日、健さんが、ナインの小屋を開けると、大さわぎをしている音が聞こえてきました。

「おや、なにかあったかな?」

 健さんは、スクイの小屋が気になります。

 そのすきに、ナインは外に飛び出しました。

「おーい、戻ってこーいっ」

 健さんは呼びますが、ナインはどんどん遠ざかっていきます。その先にあるのは町です。

 スクイには、ナインがなにをするつもりなのかが分かりました。

 ナインは町につくと、空から大声をはりあげます。

「明日!動物園!きてねー!」

 子どもたちがいる公園にもいきます。

「明日!動物園!いこー!」

 ナインは、そうやって町中を飛び回り、夕方に戻ってきました。ほっとした健さんは、ナインを小屋に入れます。

 スクイは、少しくたびれたナインの横顔に、深く頭をさげました。

 日曜日の朝、動物園についた健さんは、腰が抜けるほどびっくりしました。

 そう!あの呼びかけは聞かれていました。

 おおぜいの町の人で、にぎわっているのです。しかも、全ての小屋に動物がいます。まるで、夢を見ているようです。

「こっちには、イノシシがいるよ!」

「お父さん、ワシってかっこいいね!」

「すごいっ、この小屋はクマだ!」

 子どもたちの喜ぶ声に、健さんの目は涙であふれ、目の前がにじんで見えなくなりました。

 古くて小さな動物園には、森の動物たちが、毎日やってきます。空いている小屋はありません。健さんは、おおいそがしです。

 もう誰も、オンボロ動物園とは呼びません。おおぜいの人が遊びにきます。これからもずっと続いていくのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ