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六文字と問いかけ


 翌朝また後ろ黒板に人だかりができていた。


  愛夢本当武勇


 この六文字だった。クラスメイトの名でないことは明白だ。うちには愛染さんも夢野さんもいない。

 女子の誰かが遠巻きに見ていた富田に訊いている。

「ねぇ、暴走族ってこういう当て字をよく使うって聞いたんだけど?」

「はあ? バカ言うな、こんな恥ずかしい字使うかよ!」

 赤くなってそう答えると、富田は自分の席に着いた。


 朝の学活でクラモトは

「おう、今度は六文字か。だがちょっとノリが軽いな。勇者が愛と夢を求めて冒険する。おまえら現実も見据えろよー」

 クラスの大半は笑っている。

 圭子は、この先生は表面軽く受け流しながら、きっといろいろ思い巡らしている筈だと思った。


 ――まあこれで珠代が恐がることはない。一安心だ。


 クラモトは消せとも言わず、自分でも消しはしなかった。


 昼休憩の終わり、午後の授業が始まる直前に馬場君がすっと立って、謎の六文字の下に書き足した。


  浮鮎翻飛


 先生が入ってくるまで教室はまた混乱した。

「馬場が犯人かー?」

「ヘンな漢字書くの止めろよ」

 圭子の目から見れば、六文字とその下の四文字の筆跡ははっきりと違う。別人だと分かりそうなものだ。馬場君は画数の多い「翻」の形がとれていない。


 そこに英語の高橋先生が入ってきて、馬場君の名があちこちで囁かれるクラスを何とか落ち着かせた。

「では、後ろの落書きのことで騒いでいるのですね? 消します」

 若くて綺麗な先生は、少しつんけんしているという子もいるけれど発音もいいし、圭子は嫌いじゃない。馬場君が声を上げた。

「消さないで。返事が欲しい」


「返事だって!」

 富田をはじめとする勉強苦手グループがまた騒いだ。

「いらねえーだろ、もうわけわからんこと書くのやめろよ、イライラする。誰でもいいから、いいな?」

 クラス中に言い渡すような勢いだ。

「では、あなたたち、次は社会、倉本先生の授業でしょう、先生に見せてから消すかどうか決めなさい」

 高橋先生はそう言って、情け容赦なく授業に入った。


 六時間目に倉本先生が教室に来ると、皆口々に訴え始めた。

「先生、あれ見て、馬場君が書いた、馬場君が消させてくれない」などなど。

「静かに!」

 久々にみるクラモトの真面目な顔だった。

「後ろの黒板、四文字増えたのは馬場が書いたのか?」

「はい」

「消させないとはどういうことだ?」

「犯人に見せたい」

「犯人という言葉は不適切だ。悪事を働いているかどうかまだわからない。書いた人に見せたいんだな?」

「はい」


 クラモトの声がいつもの調子に戻りつつある。

「書いた人には通じるんだな?」

「もし返事がくれば、通じたかどうか分かる」

「ということはだぞ、馬場はこの間の四文字『(そう)反志(はんし)(ゆう)』も今日の六文字も意味が分かっているんだな?」

「Just a theory 仮説だけ。もしかすると……わかってる」

「消させてくれないか? 実は先生もちょっと調べていて……」

「だったらいいです、消して下さい」

「ありがとう」


「クラモトもバカじゃない。もしかしたらかなり『犯人』を絞ってきているのかもしれない」と圭子は思った。

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