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本好きの二人がweb無料小説について語るだけのお話。

作者: 茶屋ノ壽

「無料で小説や、物語を公開できるようになったから、そのような技術でお金を稼ぐことが難しくなってきたのでしょうか」小学6年生の詩織さんが、タブレットに目を落としている、ハイティーンの優さんをなんとなく見ながら言いました。

「そのような面もあるでしょうね」優さんは軽く答えます。

「そうですよね、普通、昔は只では小説とかエッセイとか読めませんでした、のですよね」古い時代のことについては実感がございませんので、詩織さんは伝聞形で話を続けます。

「図書館を利用するという手はありましたけど、その当時、つまりは、webの技術が無い時代では、それほど手軽というものではなかったでしょうね」詩織さんを見ながら言う優さんです。

「やっぱりそれで収入が得られないのであるなら、その文化は衰退していくのでしょうか?」首をかしげながら尋ねる詩織さんです。

「対価が直接的に得られるなら、物語を作ることそれだけに集中できますので、比較的質の良い作品が生まれそうな気はしますね」

「それは確かに道理ですよね優さん」


「ただ、昔は文章を書くこと自体、ハードルが高かったですからね。ワープロとか良い道具もありませんでしたし。そのあたりの労力が、対価に結びつきやすかったのかもしれませんね」

「ワープロってなんですか?」

「ワードプロッサーですかね?文章の執筆と修正が簡単にできる道具の総称ですかね?」

「ええと、なるほど、苦労していることが、目に見えやすかったから、それならこれだけ払ってもいいかなという心情になったりしたのですか。あれ?でもそれは文章の良し悪しとか、面白さの評価ではないですよね?」疑問を提示する詩織さんです。

「その通りですね、とりあえず、大きく破綻しないでそれなりの行数を埋めることができれば、結構な評価が得られるような時代がかつてはあったわけです。実は今でもある程度需要はあるようですね」優さんがびっくりだね、という口調で言いました。

「そうなのですか?と、言いますか、そもそも、文章や物語なんて誰でも書けれるものではないのでしょうか?」詩織さんが無邪気に指摘します。

「できない人も多いようですよ」苦笑いしながら応える優さんでございます。


「ここしばらくの間で、文章を書く道具が発達してきまして、簡単に執筆、訂正ができるようになりましたから、物語とかの表現をする敷居が低くなったわけですね」優さんがまとめます。

「昔は、文章の途中で何か追加したり、表現を変えたりすることが難しかったのでしょうね。一括で単語を変換できなかったり、そもそも漢字や慣用句を覚えていなければ書く速さが遅くなったり、したのでは、とか考えると、なるほどそれなら、相応の価値を認めなければならない、という発想にはなりそうですよね。紙に筆記用具で直接文章を書き続けるという行為がちょっと想像しづらいですけど」詩織さんもその困難を想像しつつ答えます。

「職人芸だったのでしょうね。つまりは、個々の技術とか知識とかが、大事にされていた評価されていた時代には、自然にそれなりの価値が付いていたのでしょう、確かに僕も長い文章を紙に書いていくという行為は、無理で、無茶じゃないかなとかは思いますけどね」優さんも同意します。


「つまるところ、そのような技術にお金を払っていたけれども、その苦労が無くなったように見える、のでしょうね。ですから、文章で稼げなくなった、小説で稼げなくなった、と。特殊な技術が必要でなくなって、そこに価値を見出せられなくなったので、対価が払われにくくなった。まあ、無料の小説の登場という要素の前にそういう要素もあったのではないかとつまり、web技術が確立したと同時に、道具の発達によって、相対的に文章の価値が少なくなってきたというものもあったのでは、とか想像するわけですね」優さんが、言います。

「みんなができるようになったので、価値が少なくなったってことですね。簡単に文章を書くことができるようになって、同じ時期かそれから少し遅れて、簡単にそれをwebで公開することができるようになったことで、相乗的に、作品の価値が下がってしまったわけですか」ちょっと寂しそうに言う詩織さんです。


「そうですね、あくまでも下がったのは相対的な価値ではありますけどね」優さんが言います。

「あー、絶対的な価値は下がらないのですね」詩織さん気がついたように言います。

「良い作品は、良いままなのです。その個人個人にあった作品は、発表された物語とかの総数が増えた分、むしろ多くなっているでしょうね、その面から考えると、ネットで無料で読める多数の物語があるという現状は、良いものであるとも言えます」優さんが解説します。

「本来技術不足や、執筆時間の関係で、埋もれていたアイデアとか、読み手個人の感性の合うものとかが、世に出やすくなっているということですね」

「まあ、それと比例して、それに直接的、金銭的対価が払われないことが増えたので、金銭を目的としている作家さんにとっては生きにくい世の中になってくるわけでありましょうね。純然とした趣味になってきていると言ってもいいかもしれませんね、執筆というものが」

「それは、良いことなのでしょうか?」

「全体的に見るなら、やや良い方向に行っているのではないでしょうかね。金銭を目的にして、良い作品を完成させるような人は生きにくいですが、他に副業とか生活に苦労していない方々が、才能を開花させる可能性は高くなっている、でしょうね」

「いい面と悪い面があるということですか?」詩織さんが可愛く尋ねます。

「むしろその両面を持っていないような事柄は皆無なのではないでしょうか?」さらりと答える優さんです。


「良い作品とか簡単に言いますけど、要は自分の感性にあったとか、感動させるとか、気分にあった、自分の生きている時間や環境に対応した、そこは似通っていてもいいですし、大きく外してみるのもいいですし、どれが響くかはわかりませんが、そのようなあやふやな根拠が支配する、欲求の表れのようなもの、の事ですからね」優さんが語ります。

「よくわかりません?」キョトンとした表情の詩織さんです。

「そのコンテンツを楽しむ人格によって面白いものが違うわけですね、それで、その人格というものは時と場合によって結構性質が変化するわけですよ。極端な場合、数秒前に丁度よかった文章が、今は最悪で、さらに数秒後に読んだなら史上稀に見る、感動するものになったり、するかもしれないわけですね」

「そこまで変わりますか?」驚いている詩織さんです。

「まあ、極端な例ですから。ですから、文章や物語を楽しみたいのであれば、それらの対象は多ければ多いほど、あたりがある可能性が増えるわけですね」

「多過ぎて迷いませんか?」

「迷うのも楽しみのうちですね。そして自分が感動するものに、出会ったり、探し当てたりすると、これはもう最高に嬉しいわけですよ。それは、選択肢が多いからこその楽しみなわけですね」

「ああ、だから、無料で大量に読めるweb小説は素晴らしいということですか」

「その通りですね。きりがなくて苦しいとも言いますが」


「では、このまま小説とかは、無料のものが増え続け、有料の小説とか物語が珍しくなってしまうのでしょうか?」詩織さんが、未来について予想します。

「商売としては頭打ちになる可能性はありますね。ただ、物語や小説を作る技術、それを心地よく読ませる、見せたり、魅せたりする技術、とかは、はまだまだ専門的なところがありますので、そこを突き詰めていく方向に価値を乗せていくのではありませんか?というか、すでになっていますよね。もしくはインテリアとしての本へ舵を切っていってますね」

「飾りになるのですか?」

「リアルであることに価値を見出す時に、それは装丁とか、様相をスペシャルにしていくという、その発想は自然でしょうし、実際にやられているわけです。僕も欲しいなあ、というものがありますよ」高いけど、とつぶやく優さんです。

「飾っていて部屋が華やかになり、実は読める本ですか?なんだか本末転倒のような気が?」

「手元に現実に置いておけるという満足感に価値があるというパターンですね」


「もともと無料であって、のちに有料になった小説は、作家への報酬と云う意味合いも出てきそうですね、というかすでにあるのでしょうかね?良い物語を作ってくれて、それを読ませてくれてありがとうと云う気持ちを伝えるために、金銭を支払うわけですね。もしくは、執筆に専念してほしいという願いが直接的な支援になるわけです」

「ああ、そのような面も生まれてきたのですね」

「もしくは、有料化したのであるなら、それなりのクオリティが認められる、安心感があるのではなかろうか、という指針にする方も多いでしょうね。つまり出版する個人とかシステム側にある、プロの技術に価値を見出すわけでありますね。おすすめとか、紹介料の対価として金銭を支払うという意味合い、としている方もおられるのではないかな、とか思ったりもするよ。というか僕もそういう気持ちがあるね」

「ええとワインのソムリエみたいな職種になっているということでしょうか?ソムリエなんて実際に見たことはありませんけど」詩織さんがたとえ話を出します。

「読者を全体的に見て、良いとされる評価が多数見られるのではなかろうか、という作品を、読みやすいように整えて、読みかたの指南とかもさりげなく、押し付けがましくなく、提供するために使用した労力に対する対価として、有料の物語とか小説とかエッセイとか、まあ、読み物にコストを払うという形になっていくというか、今は、なったのでしょうね」

「へえー」感心する詩織さんです。


「まあ、出版する方々は、最大効率を目指して選ぶ、つまりは無難な、流行っているもの、流行りそうなものを見て取って紹介するプロであるわけでありますから、マイナ層が満足するような、作品は綺麗にスルーするわけでありますね。利益が出そうな作品しか、手を出さないわけでしょう、なので読み手が個人の幸福を追求するためには、そこだけに追従してはいけないのでしょうね」

「本当に自分にあう作品がマイナとかちょっとマイナとかメジャじゃないとかの分類に属する時は、自分で探さないといけないということでしょうか?」大変そうだなーという顔をする詩織さんでございます。

「そうですね。それを含めて楽しんでいく方々しか、本読み人間としては、読書を、楽しめないのかもしれません。まあ、いいお話に出会えるのは、結局、運であると言ってもいいかもしれません」肩をすくめる優さんです。

「いや、身も蓋もない結論のような?」

「いつものことでは?」


「無料で公開されていた場合でも、いい作品に出会えた時に作者へ対価を簡単に支払える、援助できるシステムができたりするのでしょうね、というかすでにあるのでしょう」優さんが言います。

「有料というのではなくて、寄付とかに近いのでしょうか?」詩織さんが指摘します。

「支援者という方が近いかもしれませんが」


「中には、いい作品に出会った対価に自分もまた良い作品を書くという方もいるかも知れませんね」優さんがふと思いついたように言います。

「作品の対価が作品ということですか、それはそれでスマートなような感じではありますねー」と言って、物語の続きに目を向けて会話を終了させる、詩織さんと優さんでございました。


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