壁、窓。
壁、窓。
散らかった喉の無い部屋の中、
鍵を掛けたままのドア。
縞模様のカーテンの隙間で、
透明な窓が口を開けて群青をみせている。
僕の吐瀉物をストローで、
白に吹き流そうとする。
青臭いはみ出し者は、
黒にしがみついている。
あれ、
一匹の蝿が部屋を彷徨っている。
やがて彼と友達になり、
居場所を転々としながら共に吐瀉物を舐める。
傍若無人だった彼は、
次第に動きが鈍くなる。
暫くの時を経て気がつくと、
刺繍と同化している。
「お邪魔します」
ふと壁の全方位から、
無作為に多種多様な声が僕にそう発し始める。
ドンドンという音も、
言の葉と双子のように鳴り続ける。
雑ざる外界から、
久しく耳鳴りを意識する。
今度はそれだけを聴こうとするが、
消えてはくれない。
強迫観念さながらの人混みは、
依然として上手にかき分けられない。
向こうのドアを眺めると、
ノブでさえ疾うに無い。
ぽかんとした壁から、
風が手招きをしている。
カーテンはヒラヒラと、
踊りを踊っている。
その先にある飛行機が雲で、
幾つもの彼岸花を描いている。
どれも表情があり、
徐々に極彩色が立ち込める。
「何故お会い出来ないのですか」
そう発せられると沈黙し、
叩打も凛と静まり返る。
溢れた雫が頬を伝い、
僕は手で掬い初めて味を噛み締める。
もういいよ、
床に在ったパラシュートを装着する。
下を視界に入れず、
窓枠を越えて呑み込まれる。
誰かが其処でさえ、
消化不良のまま。
誰かが底でさえ、
わらっている。
開くまでもなく、
着地をした足は震えている。