第七話「葛藤の末に」
自分には妹がいる。一学年下の汐音だ。
小学生くらいまではずっと一緒に遊んでいて、とても仲睦まじかった。
しかし自分が中学に上がってからは、勉強や部活で忙しくなってしまい遊ばなくなった。
そうして徐々に関わりが薄れていき、今ではもう会話をすることすらなくなっていた。
そう言えばあの頃は本当に楽しかったなと思った。
妹は高校に入学して少ししてから不登校になってしまった。
そしてほとんど自室に篭っている。
まさか音羽が妹だったなんて。
しかしそう考えると納得してしまう事柄が少なからずあった。
自分は一体どうするべきなのか。
ずっとそれを考えているが全く結論は出てこない。
とりあえず自分は習慣に従って学校へ行った。
そして昼休みになった。
「おい今日は一体どうしちまったんだよ」と鈴木が自分に聞いてきた。
「いや特には」自分はとある一点を見つめながらぼうっと言う。
「んなわけないだろ。
学校にきてから今までずっと、ぼうっとしてるじゃないか。
それに今のお前死んだ魚の目してるぞ」と彼は言う。
そして彼は
「さては彼女と喧嘩でもしたのか」と勘ぐってきた。
「それなら早く仲直りしてくれよ。
お前がそんなんだと、近くにいる俺までつまらなくなっちまうからな」
そう言った彼はそれからは一切話しかけてこなかった。
そうしてチャイムとともに昼休みが終わった。
弁当はほとんど減っていない。
午後の授業中はどんな顔をして、何を言って彼女に会えばいいのかとかそんな事ばかり考えていた。
こんなに憂鬱な平日の午後はとても久しぶりだった。
いつもは早く授業が終わって彼女に会いたいと思っていたが、今は全く逆の事を思っている。
しかし時間の流れに逆らえない自分は、遂に放課後を迎えてしまったのだ。
胸が苦しい、足が重い、しかし自分の体は家に向かって歩いている。
本当はどこか遠くへ逃げ出してしまいたかった。
しかしこれはいつもの自分の悪い癖でもあった。
事実、自分は前々から妹と関わることから逃げていた。
しかしそのきっかけは本当に、勉強や部活が忙しくなったことだったのかと疑問に思った。
それは単なる言い訳に過ぎないのではと。
自分は小学生くらいまでは本当に妹のことが好きでずっと一緒にいた。
しかし小学生男子の好きというのはもちろん恋愛感情の意味ではない。
でもその気持ちが変わっていってしまったからではないだろうか。
つまり1人の女の子として見てしまうようになっていったと。
そうした自分の気持ちから目を背けるために妹から逃げていたんじゃないか。
そう考えた時。自分の中から聞き覚えがある声がした。
とても甘いその声は
「また考えるのをやめてしまえばいいじゃないか、そうすれば楽になれる」
と自分に囁きかける。
その魅力的な声に自分は
「そうすればこんなに辛い状態から開放されるのか」と聞き返す。
「あーそうだ。だから今回も前みたいに彼女から逃げてしまえばいい」
そう自分に言い聞かせた。
分かったと返事をしようとしたそのときだった。
彼女との仮想現実で過ごした日々が思い起こされる。
あーなんて楽しいのだろう。
このどこか懐かしく感じられたこの気持ちは昔、妹と遊んで感じていたものとそっくりだった。
もう二度とこんな幸せを失いたくはない。
そう思えた自分の中からはもう誘惑の声はしなくなっていた。
自分は一体どうするべきなのか。
そう考えてしまうのがいけなかった。
自分は一体どうしたいのか。
そう考えてこれからは行動することにした。
とりあえず、家に戻った自分は今日もいつものように彼女と仮想現実で会った。
もちろん彼女が妹だと気づいていない振りをして。