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第三話「彼女の異変」

  今日の彼女はやっぱり何かおかしい。

 なぜだかずっと頬も赤いし、それに何だか妙にエロく感じるのだ。

 誤解されないように言うが、自分が彼女をエロい目で見ているというわけではなく、客観的に見てと言う意味だ。

 最初は、頬が赤いのは寝起きが見られて恥ずかしいかったからだと思ったが、どうやら違うみたいだ。

 それに終始ほわっとしていて、彼女らしくないミスばかりしている。


「具合でも悪いのか」と彼女に尋ねる。


「そっそんなことないですよ。平気です」

と彼女は答えるがどう見ても平然を装っているようにしか見えない。


 それによく見てみると体中すごい汗をかいているようだ。

 普段の彼女なら今日くらい動いたくらいではこうはならない。


「凄い汗じゃないか、それに顔も赤いし。

 具合が悪いなら、ちゃんと現実で看病してもらった方がいいんじゃないか」

と彼女に少し強く言って提案する。


 それに対し彼女が

「私が大丈夫と言ったら大丈夫なんです。

 それとも太郎さんは私の言うことを信じられないとでも言うおつもりですか」

と言った直後、急にフラフラしだし遂には倒れた。


 自分は咄嗟の判断により、なんとか地面に着く前に彼女を支えることができた。

 そして気を失った彼女を木陰へ運び休ませた。

 それから少しして彼女は気を取り戻した。


「怒っています」

と彼女は自分の様子を伺いながら聞いてくる。


「当たり前だ」

自分は怒りながら強く言う。


 彼女はビクッと震える。


「なんで具合が悪いことを隠していたんだ」

と今度は優しい口調で彼女に質問する。


 少し間が空いた後

「だって、楽しみにしていたから」

と彼女は小さな声で寂しそうに言う。


「えっ」

っと自分は意味が分からず聞き返す。


「ゴールデンウィーク、楽しみにしていたから」

と彼女はさっきより強く言う。


「おいおい具合悪いんだからあまり大きな声で喋るなよ」

と本気で彼女を心配する。


 そして意味を理解した自分は、本当に彼女も自分と同じ事を考えていたんだと嬉しく思った。


 彼女は少し落ち着いてから

「本当に楽しみにしていたんです。

 私、一週間前から計画を立てていたのにそれなのに」と言う。


 自分は彼女の続きの言葉を遮るようにして

「嬉しいよ」と言った。


 彼女は自分の言葉の意味が分からず困惑していた。


 そして

「自分も音羽とのゴールデンウィーク楽しみにしていたんだ。

 最近はそのことを考えすぎて夜も寝付けないくらいに」

と自分の本音を伝えた。


 それを聞いた彼女はとても嬉しそうだった。


「でも今はもうそんなことどうでもいいと思ってる。

 早く音羽に元気になって欲しいから」

と自分の率直な今の気持ちを伝えた。


「だから自分のために早く現実に戻って具合を治してくれ。

 もうゴールデンウィークのことは考えなくていいから」

と自分は最大限穏やかに言った。


 すると彼女は少し涙ぐんだ後で

「分かりました。でも早く治るように努力はさせてください。

 あと今日は心配をかけてごめんなさい。そしてありがとう」

と自分に告げると早々にログアウトしていった。


 自分は本当に分かったのかなと不安に感じながらも、どんなときでも彼女は強がりなんだからと思った。

 そして、でもそれでこそ音羽なんだよなと考えさせられた。

 それからすぐに自分も彼女の後を追ってログアウトした。




  現実に戻ってすぐ、隣の部屋から何か大きな物が落ちた音が聞こえた。

 妹の部屋だ。

 少し頭がぼうっとしていたが、何が起きたのか思って急いで廊下に出て、その部屋のドアを叩いた。


「汐音、汐音。さっきの大きな物音はなんだ。

 何かあったのか。大丈夫か」

と自分は少し声を荒らげて言う。


 返事はない。

 彼女が仮想現実に行っているのなら返事がなくても当然なのだが、普通あんなに大きな音が身近でしたら、装置の保護機構が働いて強制的に現実へ戻されるはずなのだ。

 そう考えた自分は何かおかしいと思った。


 自分は「汐音、入るぞ」と大きな声で確認して、ドアノブを回したが回らない。

 どうやら鍵がかかっているようだ。


 自分は急いで静音さんを呼びに行き、ドアを開けてもらった。

 静音さんには彼女自信が緊急時と判断した場合に限り、鍵を開けることが許されている。

 そして妹の部屋のドアが開く。

 そこで自分が見たものは、ベットから落ちて顔を赤くして息を荒げている妹の姿だった。

 静音さんはすぐさま妹の側へ駆け寄り、抱き上げてベットに寝かせ、妹のおでこに手を当てた。


「38度6分」

静音さんはそう口にすると、自分に

「お嬢様は風邪をひき、熱をだしているようです。

 私が看病いたしますので、お坊ちゃまはもう部屋へお戻りになって結構ですよ」

と無感情に言った。


「自分に何かできることは」と自分は静音さんに聞いた。


「私がやった方が効率的ですので」と静音さんは自分に言った。


 無感情なその言葉は自分には冷たく感じられた。




  自分は唖然としつつ、放心状態で自分の部屋に戻った。

 静音さんの言うことは正しい。

 自分がなにか手伝うより、彼女が全て独りでやった方が遥かに効率的だ。

 なぜなら彼女はロボットなのだから。

 そう思った自分はベットに仰向けになり考え込む。

 自分は音羽にも妹にも辛い時に何もしてあげられないのだと。

 自分は本当に無力だと。

 そのまま自分は晩飯も食べず、眠りについた。

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