1-3 レジスタンス会議
「隊長! 大変であります!」
「どうした!」
「明日であります! ついに!」
「ついにか! 今の所誰も正解してくれないな! ほとんどは反応すらなしだ!」
「そうであります! あまりの構ってくれなさ具合に作者メンタルは崩壊をし続けてむしろ開き直れるようになってしまったんじゃないでしょうか!」
「大丈夫だ! 前作でも読者様からの祝福があったはずだ! 今作もそれを期待しようではないか!」
「そうですね、前作は読者様に指摘されるまで気づいてなかったくらいですから!」
「これはもしかしたらランドルフの率いてる軍は単なる囮かもしれないね」
スクラロ軍の宿舎では2人きりの相談が行われている。対外的にはシウバが総大将でヨシヒロ神は付いて来ていない事になっているのだ。それは味方にも教えていない。
「ですが、我々がこの町に入ってから、何物かが侵入したという形跡もなければ脱出したという気配もありません」
「だから、もともとこの町に潜伏してたやつがいたんじゃないの?」
「あれほどの人数をやれるとなると、かなりの部隊が潜入しているか、名のある者がいたという事になりますが」
「うーん、確かに情報筋から考えると主な奴はだいたい位置を把握しちゃってるよね」
実はヨシヒロ神のネットワークは各地に存在する。もともと、狂信者たちが多いのだ。何かがあったときのための情報網はレイクサイド領とは言わないまでも、それなりの物を用意してあった。特にヨース・フィーロ教関係者には多い。魔人族にもいる。スクラロ族はもともとそういう民族の一つだった。
「もう、めんどくさいし、一回攻めてみる?」
にやりと笑ってヨシヒロ神が尋ねる。たしかに情報からすれば特に障害となるものはいないし、ここで巡回の末端兵を削られ続けるよりはマシである。ランドルフに同行している「大同盟」の大物がいないとも限らない。ヨシヒロ神とシウバがいればだいたいの軍であれば撃退する事ができるだろう。
「ヨシヒロ神がよろしければ」
「やだなぁ、ヨッシーって呼んでよ」
「嫌です」
***
「俺たちを無視してランドルフの爺さんたちの所に行かれると厄介と言えば厄介なんだよ」
バンシの町の路地裏にある安宿ではフォレストとガウディ、そして反乱軍のメンバーが会議を開いている。こんな半分公共の場で作戦会議が開けているのはこの宿の主人が反乱軍のメンバーであるからに他ならない。
「やつらを足止めするにはどうすればいいかを考えなきゃな…………どうした?」
「……フォレストがまじめに反乱の事を考えてくれるなんて」
ガウディが感極まって泣きそうになる。抱き着こうとしてくるのを足蹴にして阻止するとフォレストは言った。
「まあ、反乱はどうでもいいとしても、これは俺の目的にも当てはまるからな」
「目的?」
「お前らに教える義理はねえ、詮索は禁止だ」
この町で冒険者をしているフォレストの素性を知っている人間はいない。数か月前からここの宿屋に滞在しており、たまに依頼をこなしてくる以外は基本的に宿で酒を飲んでいたのだ。
「その話はまあいいとして、俺たちの規模ではランドルフの軍と連携すら取れない。であるならば、嫌がらせをするくらいがいい所だろう。」
「ちっ、嫌がらせだけかよ」
この悪態をついたのはルタとよばれる青年である。昨年成人の儀が終わったばかりである彼はまだまだ血の気が多い。父親は白虎に突撃して散っていった騎士団に所属していたそうだ。
「ルタ、現状の正確な評価ができない奴を何て言うか知ってるか?」
「なんだよ?」
「阿保ってんだよ、お前とお前の所の反乱軍のリーダーの事だ。覚えてろ」
「何だと! この野郎!」
「おう、やるか? お前ごときには武器なんぞ使わなくても勝てるぞ?」
「くそぉぉ!」
クソガキを構って遊ぶのはこのくらいにしておいて、まじめに考えてみる。フォレストにとって最も敵に損害を与えられる事というのは何かを考えるのだ。この考え方は昔仕えていた人物を見て真似たものであり、フォレストはその人物を心の中では師と思っている。
「やっぱり、シウバを殺すのが最もいいんじゃないかな? それか、巡回の兵士を削るか。この前の事があるから巡回の兵士たちは固まって動いてるんだけどな」
前回の宿舎侵入の失敗の際に巡回中だった兵士の追跡を受けた。そしてそれをほとんど倒して回ったためにスクラロ軍の警戒が最大限にまで上がってしまっているのだ。ただし、倒した数はそこそこだったためにフォレストの意図しない所で純粋に損害を与える事ができてはいた。
「相手の軍の総大将を倒すにはどうすればいいんだ?」
「切り込む! フォレストが」
「暗殺! フォレストが」
ルタとガウディが馬鹿で現実味のない事を言う。阿保は放っておいてきちんと考えなければランドルフの軍が危ないかもしれない。ヨシヒロ神がいなくてもシウバの軍だけでかなりの強さを誇るのだ。
「でも、現実的に考えても暗殺くらいしか手がないですよね?」
そう言ったのはサキという名前の女性だった。ルタが反乱軍に入るきっかけになった人であるが、本人たち以外は全員気づいている。優秀な魔法の使い手であり、この反乱軍で唯一なんとか戦えそうな人物であった。
「具体的な話が全く見えてこないのが問題なんだ。暗殺と言っても切り殺すのから毒殺まで幅は広いし、できる事ってのは限られてくるから」
「シウバが1人でいる状況が分かればなんとかなりますか?」
「状況によるけどな。あと、成功したにしろ、失敗したにしろ逃走経路の確保が必須だ。無駄死にするつもりは毛頭ねえよ」
「フォレストさんはこの反乱軍にこれからも必要な人ですから死んじゃダメです」
ルタがなんか睨んでくるけど、無視だ。
「当たり前だ。でもまあ、情報が足りなさすぎるな。ちょっくら仕入れてくるからお前ら、俺が帰ってくるまで動くなよ」
フォレストは壁に立てかけられていた自分の剣を持つと宿屋を出て行った。
「フォレストさんって、なんであんな剣を持ってるんだろうね?」
サキの疑問はルタには正確には伝わらなかったらしい。
「そりゃ、金がねえからだろ。いつもここで酒代に変わっちまうからな」
しかし、サキの疑問はそこではなかった。フォレストが「あのような貧相な剣で、何故スクラロ軍のような頑強な鎧を持つ兵士たちと戦えるのか」という事である。自分たちであったら刃が通らないどころか折れてしまうはずなのに。
「フォレストは俺たちとは違うからなぁ、規格外だよ。」
ガウディのつぶやきにその場の全員がうんうんとうなずくのであった。
「え? マジかよ。ちょっと気を付けるわ」
路地裏でフォレストはある人物と出会っていた。それは情報収集の一環であり、それ以外の意味もあったのであるが今は特に意味はない。
「いまだに、そんな装備をしていていいのか?」
「いい装備だと目立つだろ? それにこれ以外で俺のお眼鏡にかなうってのは宝剣ペンドラゴンくらいだ」
「宝剣ペンドラゴンは折れた」
「だから、これ以外ないよって意味だ。行間を読め」
「このっ……いや、俺はお前を含めて皆に迷惑をかけた。文句を言えるような立場じゃないな」
「お前はいつも考え過ぎだ。もう行く」
その人物と別れてフォレストはスクラロ軍の宿舎へと向かう。ある程度の情報は手に入れたと言っても所詮は伝言ゲームであった。他にも知っておきたい事がある。
「さて、シウバ様ってのはどんなお顔をしているんかね? バニッシュ! サイレント!」
フルフェイスで顔を覆っているという元レイクサイド召喚騎士団。素性はよく分からないが、二刀流の剣士であり、左手にアダマンタイト製のバックラーをつけているとの事だった。フォレストの経験上、そんな剣士を相手にした事はない。しかし、どのように対処すればいいのかなんとなくわかる気がしていた。
***
「え? フルフェイスを盗まれた?」
「申し訳ありません。」
スクラロ軍の宿舎にはヨシヒロ神に報告するシウバがいた。
「それで、そのダサい兜被ってるの?」
「はい。私は魔装が使えませんので」
その兜は急ごしらえにしてもあまりに不格好であった。いわゆるバケツをひっくり返した形である。
「仕方ない、進軍は明日にしよう。その兜で敵の前に出たら恰好つかないしね。ちゃんとしたのを作ってもらおうか」
「…………」
***
その日宿屋に帰ったフォレストは部屋にフルフェイスを置くと呟いた。
「そういう事か…………」
「〇〇〇更新しました!」って活動報告を見て、最近思う事があります。
俺もやろうかな? 毎朝。
やっぱり迷惑なだけなんで止めときますけど。




