1-1 バンシレジスタンス
あなたー!
あら?どうしたのかしら?
おとといまで世界樹の塔襲撃を考えてたのに急に第5章にしちゃって。
これは打ち切りエンドの時の心境と同じなんじゃないの?
主人公変わっちゃうんじゃないの?大丈夫かしらね?
え?これ以上しゃべるなって? なんで?
オーブリオン大陸北部の都市「バンシ」。今ではスクラロ族に占領されたこの都市であるが、旧オーブリオン王国の出身者が仲間を集い、反乱を画策していた。それもこれも、つい数か月前に起こった魔力が回復しづらくなるという現象がスクラロ族によるものであると「大同盟」が発表したからである。彼らはスクラロ島でこの現象を起こしているという。もともと不可思議な部族であっただけに変な信ぴょう性があらぬ噂を呼び、この都市での反乱を助長していた。
「大同盟」が差し向けた連合軍は「ヨシヒロ神」を名乗る男と魔王ナトリ=スクラロ、二刀流の男の率いる軍によって退けられた。損害こそ軽微であったものの完全な敗北を期した「大同盟」であったが、スクラロ国の包囲網を緩めることなく、この数か月はにらみ合いが続いている。しかし、「大同盟」側に焦りがあるのは明白であり、世界樹の実が生る季節まで数か月のところまできていた。
「フォレスト! ついに二刀流の男がオーブリオン大陸に来たらしい!」
フォレストと呼ばれた魔人族の男は宿の一階にある酒場で昼間から酒を飲んでいた。身なりは冒険者風であり、その腰には剣を佩いている。装備としてはお世辞にも高価な物とはいいがたい。しかし、その身のこなしは只者ではないという事が分かる。
「何度も言わせるな。俺は反乱軍じゃない」
「でもいつも俺たちを救ってくれるじゃないか」
フォレストを呼びに来たのはガウディという名の反乱軍の兵士である。彼がスクラロ族に追われていた時に助けたのが最初であり、それ以降何かとフォレストに付きまとっている。
「君の力が必要なんだ! フォレストさえいれば二刀流の男「剣舞」シウバを倒せるんだよ!」
シウバとはもともとレイクサイド召喚騎士団だった男だ。それが何かのきっかけでヨシヒロ神の元へと降った。それによってか、もともとかは分からないが、レイクサイド召喚騎士団はスクラロ島襲撃の際に失敗している。第4部隊および第5部隊が襲撃したらしいが、ヨシヒロ神とナトリ=スクラロ、そして「剣舞」シウバによって数名が怪我を負い、すぐさま撤退したそうだ。世界最強と言われたレイクサイド召喚騎士団が失敗した事で、残りは「大召喚士」ハルキーレイクサイドもしくは「神殺し」テツヤ=ヒノモト、もしくは「邪王」シウバ=リヒテンブルグあたりでなければスクラロ島に住まう神の名をかたる男は倒せないと言われている。
「俺は暇じゃないし、慈善活動もごめんだ」
「暇だろ! こんな所で酒なんか飲んでないで、世のために働こうとは思わないのかい?」
「世のために死にたいとは思わないね」
ぐびりとビールを飲み干す。最近は魔物が弱くなってしまったために冒険者としての仕事がないのだ。薬草も生えてないために採取すら依頼が出ていない。
「それに今回はランドルフ=マートン様の率いる騎士団がすぐ近くまで来てるんだ。彼らならばシウバには負けないよ」
「……あの爺さんじゃ無理だ」
「え? なんか言ったかい?」
「いや、それは良かったな。俺の出る幕はなさそうだ」
シウバの率いるスクラロ軍がオーブリオン大陸に駐留するのには理由がある。このあたりの地域の反乱の鎮圧だ。つまりは完全にここで反乱を上げるというのは罠にはまったも同然なのであるが、それをここの反乱軍は好機とみている。すでに戦略レベルで大きな差があり、さらに戦力的にも問題にならないほどの低レベルの反乱軍にたいしてフォレストはこれ以上の協力を本気でやめようかとも思い出していた。
「ガウディ、今回の挙兵はやめろ。オーブリオン騎士団共々死ぬぞ?」
ランドルフ=マートンを釣り上げて一挙に反乱軍ともども叩き潰すつもりなのだ。フォレストにはその考えが痛いほど見える。そしてそれに対抗するには戦力が全く足りておらず、ヒノモト本国から魔王を引っ張り出さねばならない。しかし、魔王がでてくれば向こうも神と魔王が出てくるだろう。ここは戦わないのがいい。所詮は反乱であり、侵略軍から土地を守る戦いではないのだ。次の機会を待てばいい。
「フォレスト! 僕は死ぬのは怖くないよ!」
「あのなぁ、ガウディ。それは勇気とは言わなくて馬鹿というんだ。無駄死にだ。無意味すぎる。もうちょっと考えて…………どうした?」
「なにもそこまで言わなくても…………」
半泣きになるガウディ。しかしフォレストは止めない。ガウディの事を思えば止められない。
「事実だ。今回の挙兵は罠だ。ランドルフの爺さんもろとも殺されて終わる」
「じゃあ、フォレストがシウバを討ち取ってくれればすべて解決するよね!」
「まあ、それはそうなんだが……」
そう言ってしまった事を後悔するフォレスト。ガウディはさきほどの半泣きが嘘のように目を輝かせている。
「マジかよ……」
***
「シウバ様。ランドルフが釣れたようでっせ」
スクラロ国軍では両手剣の男が二千の軍勢を連れてバンシまで進軍していた。
「…………分かった」
フルフェイスで顔を覆い、あえてレイクサイド召喚騎士団のミスリル装備に身を包み、そして漆黒のマントを羽織っている。左手にはアダマンタイト製のバックラーをつけ、腰にはアダマンタイト製の剣とミスリル製の2種類の剣を佩いていた。顔を隠しているのはかつての仲間に見せる顔がないからという理由だそうだ。
「反乱軍も動きがあるようでさ。一網打尽とはこの事ですなあ」
「…………釣りたいのはランドルフではない」
「え? 何かおっしゃいましたですか?」
「いや、何でもない。手はず通りに進めろ」
「了解でさあ!」
スクラロ国軍が続々とバンシへ進軍する。補足していたランドルフ=マートン率いる旧オーブリオン騎士団はまだ半日の距離の所にいるはずだった。反乱軍の挙兵はあり得ない。そしてあるならばあるで都合が良い。
「さて、釣れますでしょうか?」
「さあ? どっちでもいいんじゃない? 釣れないのならランドルフ=マートンと旧オーブリオン騎士団を殲滅して終了だ。長引かせたいのはあちらじゃない。こっちだからね」
後ろに控えていたスクラロ族が答える。総大将とその部下であるはずだが、その言葉遣いはまるで逆である。
「シウバ、期待しているよ」
「…………お任せください」
***
「ここに貴方たちがいるなんて奴らは考えてないでしょうな!」
バンシから半日の距離では旧オーブリオン騎士団が展開していた。そしてそれを率いるランドルフ=マートンの隣にはある人物が同行していた。
「いや、意外と気づいてるかもよ? 釣られたのはこっちかもね」
それは「大召喚士」と呼ばれる男であり、その護衛たちであった。名だたる人物がここにいるが、その数は少ない。しかし彼らは召喚士であり、それは単純計算できない戦力である。
「まずはシウバに一発入れないと気が済まないッス!」
「待ってよ、本当にシウバかどうか確認できてないじゃん」
「テト、あの装備を見たッスよね? 本物じゃなかったら本物のシウバの仇ッス!」
第5部隊隊長「フェンリルの冷騎士」ヘテロ=オーケストラ、そして第4部隊隊長「深紅の後継者」テト。彼らは部隊を率いて一度スクラロ島へ襲撃という名目で偵察に出ている。損害を出す前に撤退したのは戦力の確認が目的だったからだ。実際にスクラロ島を襲撃するとヨシヒロ神や魔王ナトリ=スクラロをはじめとした幹部クラスと思われる部隊の迎撃にあった。これでスクラロ島の戦力として数はあまりない事が予想されたが、最後に出てきた部隊を率いていた人物がシウバであった。
動揺して負傷したのはヨーレンである。それをかばいながらの撤退戦となった。幸いにもスクラロ軍は深追いしてこなかったために誰も死なずに済んでいる。
「ほっほっほ、喧嘩はそこまでになさい。どちらにせよ、今回ヨシヒロ神が出てきた場合について検討せねばなりませんな」
「勇者」フラン=オーケストラ。一時期負傷で戦線を離脱していたがすでに完全回復している。魔力を極力使わない戦法を取り入れた彼は日々成長中だ。
「シウバ様が裏切るなどあり得ません! 何か理由があるのです!」
「狂犬」マジェスター=ノートリオ、彼はシウバの従者であり、シウバ拉致事件の際には他の用でリヒテンブルグ王国まで出かけていた。それによってシウバの拉致を防ぐことができなかった事が彼の心をむしばんでいる。もともと思い込みの強い性格が災いしてるのだろう。
「どっちにしてもきちんと聞き出すよ!」
「疾風」ユーナ。彼女はシウバの妻であり、拉致事件の際には自宅にいたはずである。だが、彼女や数分前まで話をしていた主治医のパティ=マートンですら、シウバがいなくなった事には気づけなかった。それ故にシウバが自分の足で出て行ったのではと思う者も多い。
これらの人物がハルキ=レイクサイドとともに旧オーブリオン騎士団に同行していた。最後の2人は無理矢理ついてきたのである。エリナは強制的に残らされたので帰ったらまたマジェスターと喧嘩が始まる事が予想される。単純に戦力を考えると2000人のスクラロ族であれば打ち破ることができる。しかし、ヨシヒロ神がいるとなれば話は別だ。
「シウバはまあいいとして、なんとかしてヨシヒロ神がいるかどうかを確認しなければね」
ハルキ=レイクサイドの懸念はそこにある。確認している事が分かれば今回の奇襲は失敗だ。シウバとヨシヒロ神が分かれているときにシウバを襲い、真相を聞き出す、または倒してしまう必要があった。ハルキーレイクサイドはこのスクラロ族を率いてきているシウバを殺すつもりでいる。
***
「で、本当に挙兵するんか? この人数で?」
そこにはフォレストの他に100名程度のオーブリオン王国出身の魔人族がいた。手に持っているのはお世辞にもきちんとしたとは言い難い武器である。中には畑仕事に使う鍬をもっている者すらいた。
「はぁ…………マジかよ」
最近の口癖になってしまっている。
「フォレストが入ってくれれば百人力だよ!」
「俺が100人分でもまだ1800人分足りねえよ」
「じゃあ! 一騎当千だ!」
「それでも計算が合わねえ!」
ずさんな計画に現状把握すらできていない状況で、今までよく生きてこれたもんだと思いつつも、泳がされていると気づいたのは数秒後の事である。つまりは、そういう事だ。
「よし、ガウディ、リーダーはどいつだ?」
「リーダーは僕だよ!」
「…………終わった」
この集団には確実にスパイがいるはずだ。それの対策をしようと思ったが、それは無駄になりそうだとフォレストは思った。こんなリーダーでは何をやっても上手くいくはずがない。経験から分かる。
「あー、旨いもんが食いてぇ」
オーブリオン大陸の味付けは自分には合わない。この数か月でフォレストはそれを実感していた。早く帰ってあの味が食べたいと思う。しかし、ここには用がある。そしてガウディたちは死にに行こうとしている。
「くそっ、やってやるよ! おいガウディ! まずは部隊編成からだ!」
ここに新生バンシレジスタンスが誕生したのである。
誰だ!F〇ⅩⅤの体験版実況動画をY〇uTubeにUPしたやつは!ぐぬぬぬぬ!




