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5-4 蝕まれる体

前回までのあらすじ!


シウバって英語でどう書くんや!? ←イマココ!


 最近、自宅で寝てばっかりで体が鈍っているようだ。思うように動かせない事が多い。朝起きると、そこには自宅の天井があって、横でユーナが寝てて。たまにユーナが先に起きる事もあるけれど、今回は俺が先に起きたようだ。まだ朝日が昇っていない時間帯であるし、起こすのもかわいそうだからこっそりとベッドを出る。


 よく考えるとユーナと暮らすようになってから野営以外で2人でゆっくりする事なんてほとんどなかった。ある意味休暇なのかもしれないし、新婚生活なんてしていないからこの時間は貴重だ。しかし思い通りに動かない体というのはやっかいなものである。まだ剣を振ろうとすると肋骨が痛む。


「パティはああ言うけど、もうちょっとなんだから回復魔法で直してしまえばいいのに」

 庭に出ると、そこには早起きしたそのパティ=マートンが朝の補助魔法の練習をしていた。あまり魔力が回復しないから、たくさんの練習はできないのだそうだ。

「よう、早いな」

 最近は敬語を全く使わないパティであるが、別に敬語を使ってほしいわけではないので放置している。声だけこちらに向けて魔法の構成を編んでいるようだ。びっしょりと汗をかいている。

「さらに早いお前に言われたくないんだけど」

「俺は毎日この時間なんだよ。患者より早く起きるのがモットーだ。そして患者はお前だ」

 苦笑いしながらパティの鍛錬を眺める。まだまだ魔法の構成があまいのか、全身に魔力を均等に流すのが難しいようだ。

「あぁ、くそっ! ここがどうしてもできん!」

 経験上、ある程度はうまくいかなければ上達しない。

「あ、そこはね、こうやって……」

 パティに分かるように魔法を唱えてやる。ついでに自分にかけて見せる。

「なるほどぉ! そうか!」

 ちょっとしたコツが分かれば飲み込むが早い。パティはこの日にマジックアップを習得する事ができた。

「できたぞぉー! よし、ちょっと待ってろ、こうやって魔力を上昇させて……とりゃ!」

 パティが俺に回復魔法をかける。あれ? 自然治癒は?

「いや、さすがにもう大丈夫だと思うけど?」

「こら、お前、今までの自然治癒は何だったんだ?」

「あぁ、それね。それはある意味本当の事。ちょうどユーナさんいないし、話しとこうか」

 パティが姿勢を整える。なんだ?



「シウバ様の体は薬の飲みすぎでガタが来始めてる。まだ自覚症状が現れるほどじゃないけど、これ以上ドーピングを続けると本格的にマズイ」

  

 ちょっと待てよ。この先はドーピングしちゃいけないってのか? それで俺は戦っていけるのか?

「現実を受け入れるのに時間がかかる。だけども、これは真実だ。今回、ドーピングをした状態で大怪我をした。それを回復魔法で無理矢理もとに戻そうとするとズレが生じるんだ。以前にも怪我した事あるだろ?」

「あぁ、西の魔大陸で青竜を討伐した時に……」

「まじかよ、青竜って魔王意外にも討伐できる奴がいたのか……って邪王だったな。本当だったんだ」

 おい、疑ってたのかよ。

「まぁ、その時のずれが既にちょっと出ている。他にもたくさん怪我をしているはずだ。少しずつの蓄積がある。そして薬を分解する能力も少しやられてるな。これ以上やられると効きが悪くなってくると思う。あんなものが体にいいわけがないだろう?」

「言われてみればその通りだな」

「回復師としては、これ以上体を壊したくなければもうあの薬は飲まない方がいいとしか言えない。次にずれが出るとおそらくは自分でも分かる」

 マジかよ…………。



 気づいたらパティは自宅の中に入っていったようだ。俺は庭先であれからずっと考え込んでいる。

 もともとレイクサイド領に来るつもりもなかった俺だ。冒険者になったのだって食い扶持に困ったからで、絶対に戦いに身を投じなければならない訳ではない。しかし、俺はユーナと出会ってしまった。彼女と共に生きていくためにはこの力が必要だった。一心不乱に周囲の人間に追い付こうとする努力がこの薬であり補助魔法であり。いまさら力を手放せと言われても、はいそうですかとは言えない。しかし、これ以上薬に頼れないのも事実だ。

「この薬が作れないタイミングでそれを言うか」

 なんとなく、そういう事になるのが当たり前だったような気がしてきた。俺はこれから薬を自分で飲まずに生きていかないといけないみたいだ。

「ユーナにだけはメンタルが弱いとは言われたくない」

 動きが良くなった体が立ち上がる。自分ではわからないほどのズレってのはまだ影響がない程度って事だろう。少し、体を動かしておくか。

 久々に鎧をつけてバックラーをつけて、剣を両手で持ってみる。しっくりくる感触を確かめて、まずはゆっくりと体を動かそう。できるだけ体を動かしてみて、薬も補助もない状態でどれほどの事ができるのかを把握するんだ。しかし、唐突に後ろから声を掛けられる。


「すでに旅の準備が整ってるとは感心だね」


 俺の意識はここで途絶える。首に後ろから撃ち抜かれたような衝撃が残っていた。



 ***



「おはよう! シウバ君!」

「て、てめえはヨッシーか……」

 知らない部屋、知らない天井。そして知ってる顔が二つ。ヨッシーこと、ヨシヒロ神にナトリ=スクラロだ。今は魔装していないはずなのに上半身にも服を着ている。魔力を節約しているのだろうか。

「ふふふ、そうだよ。僕はヨッシーだ。今はとりあえずゆっくりと体を休めなよ。手加減できずに結構強くやっちゃったんだ。君、意外と強いよね」

「ヨシヒ……ヨッシー、こいつは邪王シウバ=リヒテンブルグです。今や、こいつを知らない奴がいないほどの強者ですよ」

「あぁ、そうだったね、ナッティー。ごめん、ごめん。」

 寸劇を繰り広げている2人を無視して状況の把握に努めよう。思考加速スキルを発動させる。


 俺はヨシヒロ神に拉致されたようだ。その際に後ろから首を打たれたようで、痛みが強い。さらに手足は縛られている。ここがどこかは分からないが、エリナから聞いたヨッシーのスキルにはワープという瞬間移動があったようだ。十中八九、スクラロ島だろう。とすると世界樹の塔の近くかもしれない。

 周囲にはスクラロ族が数人いる。ここは牢獄ではないようで一般的な部屋なのだろうか。鉄格子などは見当たらない。その代わりに窓は小さめである。まあ、逃げられなくもない。しかし、ヨシヒロ神相手に逃げるという事は難しいであろうから、まずは俺を拉致した目的を聞かない事には始まらないだろうな。


「さて、単刀直入に聞こう。シウバ君」

「なんだよ?」

「僕たちの仲間にならないかい?」



 ***



 数日経っても、シウバからの連絡は全くなかった。第2部隊がスクラロ島を調べたが、シウバらしき人物は見当たらなかったという。そしてスクラロ島のヨシヒロ神のもとにはナトリ=スクラロ以外にもう一人の重臣が現れるようになった。…………その顔を隠した男は、2本の剣を佩いていたという。


なにぃ!!?

こんなところで第4部が終了だとぉ!?

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