5-3 拉致監禁洗脳計画
「隊長! 大変であります!」
「どうした!?」
「いや、なんとなく言ってみただけでたいして動きはありませんです!」
「ないのか!?」
「いまだに誰も11月29日が分からんようで、作者のメンタルは逆に崩壊寸前ですが!」
「分からない事が作者のメンタルに響くような記念日なのだなっ! 知り合いの誕生日とか、いい肉の日とかではないのだなっ!?」
「いい肉の日は近くの焼き肉屋が安くなるようですね!」
「というわけでナッティー! 時間稼ぎだけでは負けてしまうと思うんだ。この計画で行こう」
スクラロ島の世界樹の塔ではヨシヒロ神と魔王ナトリ=スクラロが相談をしている。彼らの戦力は数千人のスクラロ族のみであり、大同盟を相手にするならば心もとない。そのために戦力の増強を考えているのだった。
「本当に奴が必要なんですか?」
「うん、彼は先生や哲也に匹敵する人物だよ。モニターじゃないのにここまでってのはあんまりいないよね。予備知識もなければチートも持ってないんだもん」
「モニター?」
「あ、いや、こっちの話。とにかく、彼の力があいつらを強くしているのは確実だよ。ナッティーもそのせいで哲也にやられたんだと思うんだ」
ある人物の誘拐計画を立てるヨシヒロ神であるが、計画と言ってもいつ行くか、誰と行くかくらいの計画しかしていない。下手すれば誘拐ではなく強奪と呼ばれるようになるような計画だ。しかし、今後の戦略に関してはかなり綿密な部分まで練りこみだしている。文字通り世界を相手にしなければならない。
「とりあえず、拉致ってくるよ。クロノスの「ブレインウォッシュ」じゃ、所詮は洗脳だけだからね。きちんと話してこちらの味方になってもらおう。ダメだったら殺せばいい」
今のこの世の中があるのは彼のせいだと言う。エルライトの宿屋で出会った時はそんな雰囲気は全くなかったが、人は見かけによらないものだというのは1万年も生きていればなんとなく納得できるのだった。
正面からの戦いであればヨシヒロ神にかなう者はいない。前回の戦いで魔王テツヤ=ヒノモトを一撃で倒した事により、この世界の戦力というものをはだいたい理解できた。しかし、相手にはハルキ=レイクサイドがいる。彼はこの世界にない発想でありえない事を行う。似たような人種であった後輩の斎藤哲也とは全く違う。
「別に僕も高校の成績で負けてたとは思わないんだけどねぇ」
血を見るのが嫌だったために医学部は選ばなかった神楽は成績的には十分にトップクラスであった。しかし、ハルキ=レイクサイドには自分にはない発想があるのは確実である。1万年生きてきて、あれほど驚いた事はなかったし、あれほど執着した人物もいなかった。
「楽しみすぎる」
次、彼は何をしてくるのだろうか。もしくは彼に影響を受けた人物たちは何を思うのだろうか。それは自分の全く想像できない事であって欲しい。そのため、神楽は全力を尽くす。全力で世界をかき回すのだ。
***
あれから数日経つが、予想に反してスクラロ族の襲撃はない。その代わりに魔力の回復の速度も遅い。各地では魔物がほとんど発生しなくなっており、一部では食料難になるところもでてきたようだ。魔大陸の方でも家畜として飼ってた魔物の元気がなくなり、狩りを生業とする魔人族への援助が検討されている。作物の成長に魔力は必要ではなかったようで、レイクサイド領の収穫には問題なさそうだ。一部のレドン草を初めとして魔力が宿る草はことごとく枯れてしまっている。
魔力の節約が始まり、新兵によるノーム召喚が少なくなった事で、運搬などの仕事に少し影響が出てくるようだ。しかし、今のところは料地経営に関しての大きな問題はない。
レイクサイド領主館では、なけなしの魔力を使用してのスクラロ島偵察が終了し、第2部隊を率いるウォルターたちが帰ってきていた。
「仕入れた情報によると世界樹の塔は稼働したようです。ですが、皆様の予想どおり、世界樹の実が生るのはだいぶ先との事で、スクラロ族は世界樹の根を切る事で魔力が吸われる量を調整しているようですね」
ウォルター殿の報告を聞いて、一息つく一同。これで世界樹の実が生ってでもしたら完全にこちらの負けが確定するところだった。
「問題は限られてきます。まずは世界樹の塔をどうするか。曲がりなりにも神がいますので正面突破は無理でしょう。腐っても神です。腐ってますが」
最近、ウォルター殿の毒舌が加速している。事実、ヨシヒロ神はテンションこそ高いものの、スクラロ島で特に何もしていないらしい。日々をナトリ=スクラロたちと共に過ごしているそうだ。部下のスクラロ族は勤勉であるらしい。
「次に魔力回復の事ですけど、世界樹の塔の付近になればなるほど魔力が回復しないようです。と、いう事は連中は自分で自分の首を絞めているという事なんですけど、逆に遠い土地ならばレドン草がまだ生えているのではないでしょうか。この確認が必要です」
たしかに理屈から行けばそうだ。遠い土地なら世界樹の根の影響が少ないに違いない。
「というわけで、リヒテンブルグ王国に誰か言ってきてください。あ、シウバはだめだってパティ=マートンが言ってましたので他の方でお願いします」
え? 俺、行けないの? もうそろそろ大丈夫だと思ってたんだけど。
「なんでダメなのさ? もうかなり治ってきただろ?」
自宅に帰ってパティを問いただす。リヒテンブルグ王国にはマジェスターとエリナに行ってもらう事とし、テトとレイラとヨーレンが付き添いで付いて行った。魔力の節約が必要だから、帰りは遅くなるに違いない。当分、あいつらに会えないけど、リヒテンブルグ王国から帰ってきたころにはマジェスターとエリナも仲直りしているかもしれない。テトたちにとっては災難だけど。
「前にも言ったけど、回復魔法だけで治すと不具合が生じる事も多いんだ。ゆっくりと体を動かしながら自然治癒に任せた方がいい」
「でも、今は緊急事態なんだよ」
「まだ、スクラロ族は動いてないんだろ? ぎりぎりまで自然治癒で治せよ」
回復の事になるとパティは非常に頑固になる。今回の事件で当分薬が作れなくなったために今は補助魔法の勉強をしているそうだ。まだマジックアップまでは到達していないが、その内すぐにできるようになるのではないだろうか。
「むむむ。」
当分やる事はなさそうである。スクラロ族がレイクサイド領を襲ってこない限り出番なしか。フランさんは回復魔法で全快してるってのに、なんで俺だけ自然回復なんだよ。
「シウバ! パティの言う通りにゆっくりしてるのよ!」
ユーナに自宅のベッドに押し込まれてしまった。
「………………………………」
暇である。
翌日のレイクサイド領主館では騒ぎが起こっていた。
「ハルキ様! こんな置手紙が!」
羊皮紙をもって走りこんでくるユーナ。朝起きたらシウバがいなくなっており、探しても出てこない。そして寝室に残されていた置手紙を発見したとの事だった。
『探さないでください SIUBA』
「…………おい、ユーナ。」
「なんでしょうか!?」
「これ、絶対にシウバの筆跡じゃないだろ?」
「あ! ほんとだ! 全然違う!」
そこには流暢な字で書かれた置手紙。そしてつづりの間違ったシウバのサインがされていた。
「やられたっ!」
ヨシヒロ神に「邪王」シウバ=リヒテンブルグの重要性がばれたという事。政治的にも戦力的にも、そして薬学による補助的にもシウバは現在のレイクサイド領にかかせない人物となっている。それが敵の手に落ちた。さらに前回の戦いでもあったように敵に洗脳でもされたとしたら脅威にしかなりえない。それこそ、リヒテンブルグ王国全部が敵に回るようなものであり、大同盟は崩壊するだろう。
「くそっ! 腐っても神楽じゃねえか! 一番痛いところついてきやがるっ!」
焦るハルキ=レイクサイド、しかしすでに後手に回った状態で最善の策は出てきそうにもなかった。
そろそろ新キャラの予感…………名前が……




