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5-2 神の誤算

「隊長! 大変であります!」

「どうした!?」

「あと本当に1週間であります!」

「またあれか? 11月29日か?」

「そうであります! ですが、意味が分かりません! F〇ⅩⅤは奴に禁止されたはずなのに!」

「他に何かあるというのか!?」

「よくわかりませんが何かの記念日だとか言ってます!」

「記念日だと!? まさか!?」

「隊長! 思い当たる節があるでありますか!?」

「…………ない!!」

「ないでありますか!?」

「しかし! 奴の魂胆は分かっている! これであと1週間ほど前書きのネタに困る事はなさそうだし、まんまと『もしかして〇〇〇記念日ですか?』とかいう感想ホイホイを狙っているのだ!」

「アクセス数激減に伴い、せめてコアなファンからの感想を取り込む悪質な手法であります!」

「昨日の前書きで意外にも3通も感想が来たことに味を占めやがったな! これは「気になるタイトルが出る度に連載遅くするかも詐欺」だ!」

「なんてゲスい!」

「しかも、どうせすぐに何の記念日かくらい当てられてしまうに決まっている! |д゜)チラッ」


「よし、とりあえずテツヤ! 火薬作れ、火薬」

「んなもん作れるわけあるか!」

「エンジン作ってただろうが。あれに比べれば火薬なんて調合するだけだ。魔力なくても大砲ぶっ放せば世界樹の塔くらいなんとかなるだろう」

「たまたまそういうゼミだったんだよ! 火薬の作り方なんて知るか!」

「なんて使えない奴!」

「何をぉ!!」

 レイクサイド領主館では、魔力が回復しなくなったことを感知したほぼ全員が混乱状態となっている。世界樹の塔の完成はまだまだ先であると思っていたのが混乱の原因の一つであり、その対抗策は何もできていなかった。現にMP回復ポーションの作り置きには失敗し、自生していたレドン草は全て枯れてしまっており、これ以上新たに作る事は不可能となってしまっていた。つまり、一度魔力枯渇になると貴重なMP回復ポーションを飲むか、もう二度と回復しないかのどちらかなのである。今、攻め込まれると……。

「本格的にまずい」

 領主ハルキ=レイクサイドが焦るのも当たり前であった。地球育ちの川岸春樹と斎藤哲也ならば魔力がない状態を想像する事は容易であっても、そのほかの人間が生まれてこのかかた魔力とともに成長しているようなものであり、魔力のない世の中など想像もできないのである。



「カヤクが無理ならば、テッポウもタイホウもバクダンもできないじゃないか! テツヤのせいだかんな!」

「てめぇ! てめえだって魔力に頼らない領地経営くらいしておけよ! デンキくらい作ってても良かったんじゃねえのか!?」

「デンキなんてどうやったら発生するかなんてすでにコウコウに置き忘れてきたわい! コウガクブのお前こそなんでエンジンの動力源がデンキじゃなくて魔石なんだよ!」

「一からデンキ作るよりも魔石のほうが手っ取り早かったんだよ!」

「ライトセーバーで許してやるから作れ!」

「できるかぁぁぁ!!」

 領主館に集合すると、ハルキ様とテツヤ様が意味不明の言葉を使って罵り合っていた。

「あ、シウバ。とりあえずお茶飲む?」

「あ、ありがとう、テト。」

 いまいち動きの悪い体をなんとかして会議室に入り、テトの横の席に座る。こんな事になるんだったら、無理矢理回復魔法で治してもらっておけばよかった。パティのやつが回復魔法だけじゃなくて自然回復も併用しないと、その内弊害が出るとかなんとか脅すからこうなったんだ。

「魔力がなくなると本気でまずいッス。フェンリルもワイバーンもなければ根本的に戦略を練り直す必要があるッスよ」

 他の部隊長クラスの面々もかなり困っているようである。当面、魔力は節約しなければならない。超貴重な薬以外では回復しなくなってしまったのだ。

「おぉ! シウバ、来たか! 早くMP回復ポーションを量産してくれ!」

 ようやく俺が入ってきたのを見つけたハルキ様が言う。あぁ、答えたくねえなぁ。

「すいません、いろんな所で自生していたレドン草を自宅の中庭に植え替えといたんですけど、全部世界樹に吸われて枯れてしまってます。すでに作り終えた奴ならば大丈夫そうでしたが、この前の戦いでほとんど消費してしまって、特に濃縮した奴とか、体力上昇系とか……」

「マジかよ!?」

 ほぼ全員が愕然とする。

「フィリップ様が特別製の奴飲んじゃうから……最強だとか何とか言いながら……」

 ぼそっとテトがつぶやく。そして黒歴史を思い出してへこむフィリップ殿。たしかに濃縮の特別製はハルキ様に渡した3本しかない。そのうちハルキ様がヨシヒロ神から逃げるとき1本使っている。予備をフィリップ殿に渡していたが、それも飲まれてしまった。という事はあと1本しかない。

「これは、純粋に身体能力のみの時代がきましたな。ふふふ」

 以外にも嬉々としているのがフランさんだ。たしかに身体能力のみであるならばテツヤ様を除いて誰も敵わない。流行の家臣最強は確実である。

「獣人騎士団を呼びよせましょう。もとから魔力の使い方がへたくそな奴らはこういった時くらい役に立つはずです」

 たまにウォルター殿の毒舌が飛ぶ。しかし、たしかに獣人騎士団であれば魔力に頼らない戦い方ができそうだ。

「しかし、向こうもどうやって魔力回復させるんスかね?」

「世界樹に実がなるってアレクが言ってたじゃないか? それを食えば……」

 ヘテロ殿の問いにフィリップ殿が当然だという表情で答える。しかし、答えた本人もその後に自分の答えに自信がなくなったようだ。すぐに表情が崩れる。

「生えたばかりの、世界樹にですか?」

「「「…………」」」

 誰も突っ込まなかったのに、ヒルダさんが言ってしまった。


 ***


「のおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」


 スクラロ島に絶叫が響き渡る。

「どうされましたか!? 神よ……違った、ヨッシー!?」

 ヨッシーの絶叫を聞き、すぐに塔の付近からやってくるスクラロ族の魔王。さきほどから魔力の自然回復が止まったことを体で感じている。世界樹の塔が起動するのはまだ先の予定だったはずだ。

「ナッティー! ヤバイかもしんない!」

 ナッティーと呼ばれたナトリ=スクラロはヨシヒロ神の落ち込み様に動揺しつつ、まだナッティーと呼ばれることに慣れていないためにどういった顔をすればいいかが分かっていない。

「思ったよりも早く世界樹が魔力を吸い出しちゃったんだ! まだ実が生るまでに1年くらいかかるのに!」

 世界樹の塔とは、実は塔ではない。ヴァレンタイン大陸にある世界樹がその大きさにもかかわらずに世界中の魔力を吸いつくせないのには理由があり、特に地盤が関係している。つまり、ある一定の地盤を通過して根を張ればそこから先にはどこまでも根を伸ばしていってしまうのが世界樹であり、そのための穴を作るのがこの建物の目的の一つであった。最終的に上に世界樹を植える必要があったために細長く塔のようになっているが、要は井戸である。そしてヨシヒロ神が帰ってきたことによって、穴を掘る動力源が得られた。動力源として半ば自暴自棄に穴を掘ってしまったヨシヒロ神であったが、掘りすぎた。


 世界樹はまだ成熟しきっていないにも関わらずに世界中の魔力を吸い始めてしまったのである。実ができるまでにまだ1年。どんなに魔力を吸っても半年はかかりそうだった。


「どうされますか!? 我がスクラロ族の魔装は意外と燃費が悪うございます!」

「知ってるよ! だから落ち込んでるんじゃないか!」

 神と魔王の苦悩は続く。



「あれ? ねえねえ、ユーナ。ちょっと回復してるっぽくない?」

「そうだね、ほんのちょっとだけ!」

 その日の午後に魔力の回復兆候があった。ほんの少しだけだが。もちろんレドン草が生えてくるような量ではない。しかし、数日たてば魔力が回復すると分かればある程度の事はできる。

「世界樹の塔に何かあったのかな?」

「今のうちに対策立てなきゃね!」

「それより、あれからマジェスターとエリナが口をきいてないんだけど、どうにかしてよ。」

「ごめん! 無理!」

「…………」



「あー、今日の担当はお前か。まあ、がんばれよ。あれの生えるスピードってば、尋常じゃねえから」

 スクラロ島北部世界樹の塔、ここには毎日「根っこ係」と呼ばれるスクラロ族が二十四時間不眠不休で行う作業があった。シフト制を敷いて交代勤務で行うその作業の内容は伸びてくる根っこを切り落とすことである。


「ここ! この根っこの本数がちょうどいいから! 奴らが回復薬作れないけど、僕たちの自然回復はなんとかできる長さがここね! これ以上伸びてくるようだったらこうやって切るの! 分かった!?」


 世界樹の塔の地下には掘られた大穴に続く世界樹の根があった。その幹の太さに比較して少な目の本数のみが穴の中に落ちて行っている。他は人為的に切られていた。三交代制三人一組で根っこを切り取る係に切り取った根っこを外に運ぶ係、運ばれた根っこが自生しないように炎系破壊魔法で焼いてしまう係に分かれている。彼らを総称して「根っこ係」と呼んだ。


「世界樹に実がなるまでの辛抱だから! 頑張って!」

 謎の指導者ヨッシーの指示でスクラロ族は働く。この民族は基本的に族長の意思に逆らわない。そしてその族長が従うヨッシーにも逆らわないのだ。

「みんな! がんばろー!」

「「「お-!」」」

 約1万年前に、魔物であふれた世界から人類を導いて守り切ったことを少し思い出したヨッシーであった。



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