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4-8 氷の大巨人

前回までのあらすじ!


もう、サイドストーリーでネタバレしてんじゃん! ←イマココ!

 最終的に全ての鎮圧軍を組み伏せたミスリルゴーレムであるが、奇妙な事に死者は出していない。鎮圧軍側もそうであるが、基本的に敵を捕縛しているようである。奇妙な事であり、もはや反乱と呼ぶよりは演習ではないかとも思われるが、資料から伝わってくる緊迫感は反乱のそれである。(中略)

 いくらミスリルゴーレムが強いと言っても相手も最強のレイクサイド召喚騎士団である。鎮圧軍のほとんどを組み伏せた時には満身創痍であったに違いない。しかし残るは少数の召喚士とセーラ=レイクサイドのみとなったと資料にはあった。ここでセーラ=レイクサイドはワイバーンを召喚して上空にいたようだ。そしてそこには名もなき召喚士がいた。


        -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―


「シルキット団長、たぶんあれやってもハルキ様許してくれそうですよ」

「あれって、あれかい?」

 そう、ドーピングフレイムレインだ。この状況でフィリップ無双を許してしまったら、クロノスにレイクサイド領を乗っ取られたままになってしまう。別になりふり構わないというわけでもないが、ここは使いどころだろう。

「名前、どうします?  ドーピングフレイムレインだと、ばればれですし」

 ドーピングしている事がばれるのは厄介だ。ここにはマジシャンオブアイスやアイシクルランスもいる。

「そんな、すぐには思いつかないよ」


 そうこうしているうちにマジェスターが吹っ飛ばされたようだ。

「おのれぇ!」

 とか言っているので命には別条ないだろう。エリナが駆け寄って回復魔法をかけている。

「さあ、シルキット団長! やっちゃってください!」

 ドーピング薬を渡して、マジックアップを掛ける。これで準備は整った。

「ド……じゃない、スーパー?フレイムレイン!」

 めっちゃ適当な名称のフレイムレインがミスリルゴーレムに向かっていく。その一つ一つの威力が段違いな火炎魔法があり得ない量で襲い掛かるのだ。これでミスリルゴーレムも撃破できるだろう。反乱は終了だ。


「まさか!?」

 シルキット団長の表情が少しだけ変わる。この人驚いてもあまり顔が変わらんけど、大丈夫なのだろうか。とか言ってる場合ではなかった。ドーピングフレイムレインをすべて受けきったミスリルゴーレムがこちらへと一瞬で間合いを詰める。

「ミスリルゴーレムをなめるなっ!」

 大剣が横に振るわれた。思考加速スキルの中で、単純に避けると後ろのシルキット団長に当たってしまう事が予想される。少しだけ受け流す形で魔力を込めた剣を添わせてシルキット団長へ当たらないように誘導するつもりであったが、あまりの怪力に吹き飛ばされる。剣が折れないで本当に良かった。

「シウバ!」

 ユーナの声が聞こえた。おそらく、ケルビムが切りかかっているのだろう。いつもの毒舌が聞こえてくるが、その時に俺は無様な恰好で地に横たわっていた。

「痛ぇ……」

 何本か肋骨を折ったようである。すぐには立ち上がれない。そのうち、ケルビムが強制送還された。

「ケルビム!?」

 ドーピングフレイムレインを凌ぎ、ケルビムをこうも簡単に強制送還させるとはなんて召喚獣なんだ。


「いつまでも耐えきれるとは思えないけどね! フレイムレイン!」

 シルキット団長のドーピングフレイムレインが再度突き刺さる。

「私も忘れてもらっては困る! 氷の槍!」

 マジシャンオブアイスの「氷の槍」もミスリルゴーレムにダメージを与える事ができるようだ。しかし、どちらも致命傷にまではならなかった。


「さすがにいつまでも受けているわけにはいかん!」

 フレイムレインをかいくぐり、ミスリルゴーレムがシルキット団長を吹き飛ばす。やはり捕縛して洗脳するつもりなのだろうか。大剣で切りかかるわけではなく、生身の人間には体当たりを多用しているようだ。シルキット団長が吹き飛び、意識を失う。

「あなた!」

 ヒルダさんが駆け寄って回復魔法をかける。そのままアークエンジェルが後方へと移動させていった。これで、戦力はかなり落ちる事となってしまう。俺もようやく回復魔法が効いてきた程度である。

「これは、少々分が悪いか……」

 マジシャンオブアイスのつぶやきが聞こえた。

「シウバ! どうする?」

 いつの間にかユーナが俺の後ろに来ていた。無事である事を確認してホッとする。マジェスターとエリナも後方へ下がっているようだ。残りは第3部隊が数名と、マジシャンオブアイス、俺とユーナ、そしてペニーだけである。


「やれやれ、まるで魔物狩りだ」

 ペニーがワイバーンで飛びながらミスリルゴーレムを観察していた。ちょうどうまい具合に射程の外にいる。

「こんな力自慢を相手にガチンコで戦ってても仕方ないだろう。動きを止めるから、破壊魔法を頼むよ、マジシャンオブアイス」

「承知した」

 ペニーは数体の黒騎士を召喚する。黒騎士に包囲されたミスリルゴーレムは片っ端から黒騎士に切りかかっていった。魔装の大剣は次々に黒騎士を強制送還させていく。しかし、それはペニーが接近するための布石であった。

「こんな戦い方だってあるんだ」

 その手に持っていたのは魔道具である。第4部隊特性の対魔物用捕縛装置だった。一瞬で展開したそれに拘束されるミスリルゴーレム。しかし、力ずくで引きちぎろうとする。

「あまり長くはもたないぜ! やれっ!」

「氷の槍!!」

 全力で魔力を込めたマジシャンオブアイスの「氷の槍」が突き刺さる。

「やった!」

 ミスリルゴーレムは強制送還された。


「ここまで苦戦するとはな……」

 しかし、筆頭召喚士の手に持っているものを見て、俺は戦慄する。

「あれは、まずい!」

 そこにあったのは俺がハルキ様専用に3本ほど用意した濃縮MP回復ポーションであった。あれはハルキ様の魔力ですら全快にまで持っていく代物だ。

「シウバ、お前が作った薬だ。やはり、お前は規格外だよ。」

 濃縮MP回復ポーションを飲み干したフィリップ殿が再度ミスリルゴーレムを召喚し、魔装で武装させた。


「これまでか……」

すでにシルキット団長はいない。こちらの戦力が極端に下がっている。さきほどと同等のミスリルゴーレムの召喚で、完全に戦況が覆ってしまった。

「諦めん!」

 マジシャンオブアイスが「氷の槍」を連発する。しかし、すぐに魔力が尽きてしまった。枯渇状態で膝をつき、立ち上がる事もできなくなるマジシャンオブアイス。

「それで終わりか?」

「くっ、俺の魔道具もさっきのが最後だ。」

 ペニーが黒騎士を召喚し、ミスリルゴーレムの突進をなんとか支えているが、次々と強制送還されているためにすぐに魔力が尽きてしまうだろう。ユーナが再召喚したケルビムも防戦一方である。

「シウバ! どうしよう!?」


 相手は最強の硬度を誇るミスリルゴーレムだ。かなりの威力がある攻撃でなければ無効にされてしまう。今現在、マジシャンオブアイスの魔力がつきた俺たちに残されている攻撃手段はほとんどない。だが、諦めるわけにはいかなかった。

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 ドーピング薬をあおって突進する。

「剣舞!」

 ミスリルゴーレムの大剣をかいくぐって斬りつける。俺の魔力のこもった剣ですら、ほとんど傷つけることはできない。だが、やめるわけにはいかない。

「無駄だ!」

 ペニーの召喚した最後の黒騎士が強制送還された。そして次にケルビムがやられる。

『おのれ、このような……』

 その隙をついてミスリルゴーレムの頭部に斬りつける。しかし、ほかの部位と同様にほとんどダメージが入らなかった。

「終わりだ!」

 俺はミスリルゴーレムに蹴りつけられた。体が宙を舞う。吹き飛んでいく最中にユーナの顔が見えた気がした。ごめん、敵わなかったみたいだ。

「私が最強だ!」

 フィリップ殿の叫びが聞こえる。



 フィリップ=オーケストラが油断していたわけではないだろう。そしてこのミスリルゴーレムを打ち破る事のできるような召喚士であればすでに戦場に投入されていたはずだ。だが、ミスリルゴーレムは最終的に強制送還され、反乱軍は破れる事になる。始めにも書いたが、資料にはその召喚士の名前はない。


 ここでは私は一つの仮説を提示したい。最後にこの筆頭召喚士「鉄巨人」フィリップ=オーケストラが召喚したミスリルゴーレムを打ち破ったという召喚士。名前がないのはわざとではないだろうか。わが祖先がわざわざ名前を伏せるほどの人物である。


        -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―




「フィリップ! 爺とお爺様をいじめたな!」



 上空から聞こえてきた幼い声。そこにはセーラ様の召喚したワイバーンがいつの間にか飛んでいた。腕の中にはその息子が座っている。次の瞬間に召喚される氷の巨人、コキュートス。

「まさか……」

 氷の巨人の巨大な腕がミスリルゴーレムを叩き潰す。本来であればそれには耐える事が可能であったのだろう。しかしミスリルゴーレムもマジシャンオブアイスの「氷の槍」を何発も受けた状態であった。さらには俺の攻撃も受けていたのだが、それがどこまで影響していたかはわからない。強制送還されるミスリルゴーレム。そして降りてくるワイバーン。俺の意識はここで途切れている。




 それが私の思った人物であるのならば、彼が歴史書に名を残すのはこの後10年も後の事である。記録では数年後に貴族院で訓練室を破壊したとされているが、正式な文書ではない。


 幼少期から、母親の影響で極端な魔力量の底上げが行われていた彼は、その父親譲りの才能もあり、次の世代の最重要人物となる。第4部隊隊長テトが「深紅の後継者」として今日でも名が残っているのに、彼が「後継者」でない理由は明白であり、父を超えるという事すら遺伝したのではないだろうか。


 才能の偏りも遺伝した彼は不当な評価を受ける事も多い。しかし、傾いた容器になみなみと注がれた水が零れ落ちるように、誰の目に見ても明らかな事柄は存在する。彼は異常であり、彼は最強であり、彼は偉大な人物として記録される。しかし、この時若干5歳。この推測は人によっては同意を得ない事も承知しているが、彼が最初に歴史の表舞台に立ったのはこの時だったと私は確信している。


 「極めし者」ロージー=レイクサイド。


 現代の歴史の本には必ず載っている、世界を救った大英雄である。


爺のほうがお爺様より先にくるという

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