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4-5 究極の召喚獣

 筆頭召喚士フィリップ=オーケストラが評価される要因の一つに統率能力という物がある。これは「マジシャンオブアイス」ロラン=ファブニールを大きく凌駕していると評価され、さらには「勇者」フラン=オーケストラも持っていない物であった。自身の戦いを遂行しながらも、戦場全体に行き渡る戦術眼はすばらしいものがあり、彼より優れると言われているのは「大召喚士」ハルキ=レイクサイドのみではないだろうか。私はおそらく当時の宰相ジギル=シルフィードにも匹敵すると考えている。

 そのフィリップ=オーケストラにしては自軍の劣勢を感じ取るには少々遅かったようだ。と言っても第4部隊のほとんどが捕縛されてはいるが、第1、第5部隊はその戦力の9割以上を保持したままである。ここからフィリップ=オーケストラによる主導権の奪取が行われ、戦局は一気に傾く事となる。


        -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―



「ヘテロ、テト、交代だ。」

 筆頭召喚士はある指示を出す。それは第5部隊が全く戦力を落としていないという事、第4部隊のテトがMP回復ポーションさえ使えば戦線に復帰が可能という事、ロラン=ファブニールがマジシャンオブアイスである事、「勇者」フラン=オーケストラの強さを正確に評価できた事による。唯一の不安材料はレイクサイド召喚騎士団第6特殊部隊のあいつらである。しかし、そこは「鬼のフラン」相手に逃げてきたヘテロ=オーケストラに責任を押し付けるという形で構わない。最後は自分がなんとかできると考えているからだ。

「ヘテロ、責任もってシウバたちを押さえろ。」

「ういッス。」

 第5部隊がワイバーンの編隊を組んで戦場の反対側へと向かう。フィリップから言わせれば、損害覚悟であればフラン=オーケストラともいい勝負ができたはずの編隊だった。ただし、所詮はいい勝負であり、個人に対する作戦ではない。損害を考えると、ヘテロのように全く誰一人欠ける事無くこの局面に持ってきた事は好ましい事だったのかもしれない。

「テトはロラン殿だ。コキュートスで対抗しろ。」

「分かったよ。」

 マジシャンオブアイスは以前、ハルキ=レイクサイドの召喚したコキュートスに手も足も出ずに敗れている。氷属性の効かない召喚獣に氷属性が得意の魔法使いが挑むのだ。対策をしていると言っても、所詮は付け焼刃になるはずである。そしてその対策というのも眉唾物だ。

「フラン様は俺が相手する。第1部隊と騎士団はテトの援護をしろ。」

 こうして後半戦が開始された。



「コキュートス!!」

「そうきたかっ!?」

 中央部で召喚されたコキュートス。無論、アイシクルランスの「氷の雨」は通用しない。そしてその背後から第1部隊と騎士団が破壊魔法を繰り出す。

「第3部隊はコキュートスに対して炎系の破壊魔法を! アークエンジェル達は一旦下がらせて防御態勢だ!」

「アイシクルランスはコキュートス以外を中心に対処するぞ!」

 一人入れ替わるだけで大きく作戦変更を余儀なくされる。そしてその対処法があるわけでもなく、純粋な破壊魔法の応酬になれば分が悪い。

「あのコキュートスさえ何とかなれば!」

「コキュートスに氷の魔法は効かないよ!」

 中央部は徐々に押され気味となっていった。



「行くッスよ!」

 空から襲い来る第5部隊。第4部隊と違って、その数はやや多めである。そしてその全てが俊足のワイバーンに乗っており、上空からの攻撃に対処しなければならない。

「エリナ!」

「はぁい、パラライジーズぅ!」

 今回も麻痺させるのが一番だ。しかし・・・。

「マジックシールド展開ッス!」

 第5部隊は全員でパラライジーズを防御した。リオンの対処法をテトが伝えたようだ。

「やらせないッス!」

 こちらもワイバーンに乗って空中戦をしなければならない。地上にいては狙われるだけだ。

「くそっ、ワイバーン召喚! うおぉぉ! 風剣舞!」

 飛ぶ斬撃を繰り出すが、そのほとんどを避けられてしまう。なんて速いんだ。

「空中戦はまだまだッスね!」

 ヘテロ殿のワイバーンが俺のワイバーンを翻弄する。これは完全に相手の土俵になってしまった。

「まずい!」

 まだ、地上にいたほうが避けやすかったかもしれない。一旦、フレイムレインで敵を遠ざけて置いてから地上に着陸する。上空からヘテロ殿が急降下してきた。

「降りたッスか!? 狙い撃ちッス!」

 ワイバーンの噛みつきをかいくぐり、ヘテロ殿の長剣を受ける。これが以前見た薙刀だったら受け止められていたかどうか分からないほどに鋭い一撃だった。吹き飛ばされそうになる。

 周囲も第5部隊の攻撃に対処しきれているようではなかった。唯一、ユーナだけが数人を相手取っても問題なく上空をワイバーンで飛んでいる。近くにはケルビムもいるようだ。マジェスターとエリナは防戦一方であるし、ペニーもどちらかと言うと肉体派ではなく召喚獣を主体として戦う召喚士であるために第5部隊のような騎獣を召喚して戦う戦闘スタイルは苦手なのだろう。いまだに第5部隊は誰ひとり脱落していないようである。



「フラン様、俺が相手になりましょう。」

「フィリップ。調子に乗るなよ。」

 戦場の反対側では筆頭召喚士と勇者の一騎打ちが行われようとしていた。しかし、実際には一騎打ちではない。フィリップ=オーケストラは筆頭「召喚士」である。

「そろそろ十分です。ハルキ様の家臣の中で最強の座を譲り渡してもらいましょうか。」

「・・・戯言を。」

「戯言かどうかはあなたが判断してください。どれだけ時が経とうとも、あなたが我々の師である事は変わらないのですから。・・・召喚!」




 最強の召喚獣とはなんであろうか。「大召喚士」ハルキ=レイクサイドはその類稀なる召喚技術でその場においての最適な召喚術を極めたと言われた召喚士であった。彼が得意とした召喚獣にはレッドドラゴン、ウインドドラゴン、コキュートスなどがあったが、どれも「大召喚士」特有の物ではない。むしろ、「深紅の後継者」テトの召喚するリリスや、「疾風」ユーナの召喚するケルビムなど、その召喚士を表す代表的な召喚獣という物が存在する中で、ハルキ=レイクサイドの元の二つ名である「紅竜」を現わすレッドドラゴンは他にも数名の召喚士たちが召喚を可能にしてしまっていた。しかし、彼は「大召喚士」であるが故に代表的な召喚獣という物はなくてもよいのではないかと思われるし、彼は得意な召喚獣を聞くと決まってノームと答えたという。

 ここで「鉄巨人」フィリップ=オーケストラはどうかという疑問が湧く。彼の得意な召喚獣と言えば「鉄巨人」が表すようにアイアンゴーレムなのだろう。しかし、我々後世の人間は知っている。彼の代表召喚獣はアイアンゴーレムではない。


 それは最硬最強の巨人。他のゴーレムとは違い、洗練された体型もさることながら、その膂力はアイアンゴーレムの比ではなく、さらにそこにフィリップ=オーケストラの「魔装」による装備を纏う事によって比類ない強さを発揮する。

 魔王アルキメデス=オクタビアヌスですら「勇者」フラン=オーケストラを打ち負かしてはいない。それを為す事ができたのは2人。1人はヨシヒロ神。もう一人は「鉄巨人」フィリップ=オーケストラの召喚するそれであった。


 ミスリルゴーレム。


 これを超える召喚獣はここから10年以上の後に「極めし者」が召喚したとされる究極の召喚獣をおいていないだろう。その正体が確認されていない現在、これが最強の召喚獣であると唱える学者も多い。


        -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―

 


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