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4-4 氷撃の悪魔姫

 第4部隊は「深紅の後継者」テトを始めとして対魔物部隊の専門家である。それぞれの召喚獣は多彩であり、他の部隊のように特色というものは少ない。このどのような魔物にでも対処でき、それを狩る事を得意とする狩人たちの部隊は序盤で第5部隊の「疾風」ユーナが「風竜の妖精」リオン=オーケストラを含めた部隊員の捕縛した記述がある。この第4部隊の中でも精鋭と言ってよいリオンが捕縛されるという事は他の人物が「深紅の後継者」テトに当たっている事を示している。確かに、副隊長のペニーは鎮圧側に回っているが、彼と隊長であるテトとの力量を考えると腑に落ちない事が多い。であるのならば、他にはどのような部隊が残っていたのだろうか。ハルキ=レイクサイドの部下の中で主だった者は他にはいない。残された資料にはそれを裏付ける証拠は残っていないが、幻の第6特殊部隊がここにいた可能性は否定できないのではないだろうか。


         -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―



 向かってくるワイバーンの数は12。全てがレイクサイド召喚騎士団第4部隊の召喚士たちだ。これに今回はこちらの味方であるペニー副隊長とここにはいないレイラを含めると全ての第4部隊が揃う事になる。後から、テトが隊長として部下にプレッシャーをかけ過ぎていたのではないかという疑惑を持たれたのも仕方がない。


「シウバ、見損なったよ。」

 テトが話しかけてくる。まさか、あの「深紅の後継者」と戦う事になるとは思わなかったゴクゴク。

「ハルキ様を抹殺する必要があるのは明らかじゃないか。」

 洗脳のされ具合も完璧だ。確かに人は誰でも劣等感くらいは持つものだ。ただ、他人にバラすことはあまりないのかもしれない。そしてそれを知っていたアレクは優秀だったという事なのだろうマジックアップ。

「シウバだったら、絶対こんな事しないと思ってたのに。」

 俺もテトを友人と思っているから、これが「ブレインウォッシュ」による洗脳だと知らなかったら大変な事になっていただろうオフェンスアップ。

「でも、いくらシウバが相手でも僕は容赦しないよ!」

 たしかにテトが相手であったら容赦なんてしている余裕はない。最初から全力だパワーアップ。

「むしろ君が相手だからこそ敬意をこめて、僕の最強の召喚獣で相手したいと思う。」

 最強の召喚獣か。コキュートスかな?あんなの相手にするのは大変そうだスピードアップ。

「君と出会った時に召喚してたやつだよ・・・って、え?」


「エリナ、やれ。マジックアップ!」

「はぁい。ゴクゴク・・・パラライジーズ!」

 テトが演説しているうちにこっちのドーピングは終了である。そしてドーピングした状態でのパラライジーズ。12人程度であれば効くだろう。だって、捕縛でしょ? これ一択じゃん。


「ひ、卑怯・・・!」

 第4部隊全員が麻痺していく・・・かと思いきや、どこにでも優秀な人材というのはいるものである。

「マジックシールド!」

 補助魔法系統である「マジックシールド」。あまり使い勝手のいい魔法とは言い難いが、確かに幻惑魔法には効果がありそうだ。そしてその効果があり、麻痺から逃れたのが2人いる。

「リオン!」

 ユーナが同期の召喚士の名前を叫ぶ。「風竜の妖精」リオン=オーケストラ。第4部隊テト班所属にして3人目のウインドドラゴンの召喚士、そして筆頭召喚士「鉄巨人」フィリップ=オーケストラの妻である。優秀になればなるほどに肩書が増えていくのは仕方がない。テトをかばう形でマジックシールドを展開していた。彼女がいなかったら、テトの洗脳が解けて形勢はこちらに傾いていたに違いないのに。

「何度も同じ手で痺れさせないから!」

 もしかしたら「エレメント平原の戦い」で全員麻痺させたのを根に持っていたのかもしれない。それ、極秘事項だから、こんな所であんまり言って欲しくないんだけどな。


「でも、免れたのはお前らだけだな。」

 後ろの10人にはしっかりと麻痺が通ったみたいである。

「ユーナ! マジェスター! エリナ! 3人はリオンの捕縛だ! ペニーは残りの10人を回収してくれ!」

「分かった!」

「かしこまりました!」

「了解ですぅ。」

「いや、恩に着る。あまりこいつらと戦うのは気が進まないからな。」

 第6特殊部隊の3人とペニーがそれぞれワイバーンを召喚して乗り込む。

「さあ、レイクサイド召喚騎士団第4部隊隊長「深紅の後継者」テト! お前の相手は俺がしよう!」



 ・・・・・・なんて、格好つけなければ良かった。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!! 無理ぃぃ!」

「おとなしく死んじゃいなさい! 料理人のくせに!」

 規格外の氷撃の魔法。それを紙一重で避けていくわけであるが、その無尽蔵な魔力の前に打開策が見つからない。

「向こうでは人類最強とか言っちゃってるおじさんが氷魔法使ってるけど、私は召喚獣最強の氷魔法の使い手なのよ! レベルが違うのよレベルが! ご主人様の敵はこれで氷漬けだわ!」 

「え? 氷系で最強はコキュートスじゃ・・・?」

「だまれぇぇぇぇ!!!!」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!! 無理ぃぃ!」


 くそう、まさかのリリスちゃん召喚とは! 彼女は角生えてるけど、完全に見た目と行動が女の子であるために斬りこむのも抵抗がある。どうやって強制送還させようか。でも、俺の召喚獣では彼女に太刀打ちなんてできないのである。自分でやるしかない。

「シウバ! 僕のリリスをなめないでよ!」

 なめてねえよ! これっぽっちも油断なんてしていないどころか焦ってるよ!

「私とご主人さまの邪魔をするものは消してやるわぁ!!」

 広範囲が氷漬けになる。その中に取り残されないように跳躍して逃れるが、さらにその先には魔法が飛んでくる。

「フレイムレイン!」

 こちらは炎系魔法で対抗しようとするが、あまり氷が融けない。

「そんなのが効くわけないでしょう!」

 さらにリリスちゃんは俺をしとめようとしてくる。逃げる範囲が徐々に狭まってきており、追い詰められているのが分かる。こうなればリリスちゃんの隙をついてテト本体を狙うしかない。


「あ! あれは!?」

 明後日の方向を指さす。リリスちゃんがそっちをむいている間にテトの方へ向ってダッシュだ。

「そんな子供だましに引っかかるわけないじゃない!」

「うぎゃああぁぁぁ!!」

 あぶねえ、当たるところだった。目の前に広がった氷の絨毯を見て、冷や汗が落ちる。

「見逃してくれたら、テトを身動き取れない状態にしてあげるよ!」

「えっ?」

 一瞬だけリリスちゃんの動きが止まる。

「嘘だけど!」

「そろそろ死んでよ! ねえ!」

 両手に氷魔法を溜めた状態でリリスちゃんが突っ込んでくる。後方は先ほどの氷魔法が壁になってて回避は不可能だ。やばい、この距離ならば避けられない。


「火炎! 両手! 剣舞!!」

 リリスちゃんの氷魔法が俺に降り注ぐ。両手剣にまとわせた炎系破壊魔法で剣舞する事でこれを防ぐ。

「あっはっは! いつまでもつのかしら!」

 まるでシルキット団長のフレイムレインのように氷撃魔法を連発するリリスちゃん。たしかにこの技は魔力の消費が半端ないためにあまり長時間は持たない。思考加速させて打開策を考えるが、どれも有効打とは言えなさそうだ。俺、終わったかも。


 しかし、こんな時に頼りになる存在はいるものである。



「あんた何してんのよ? コロスワヨ。」

「あ、あなたは!? ユ、ユーナですって!? あぁ!!」

「リリス!? くそっ、僕はまだやられたわけじゃないからね!」


 リリスちゃんの氷撃魔法が止んだかと思ったら、リリスちゃんはケルビムに刺されて強制送還されていた。めずらしくケルビムが無言である。あれ? 誰かが何かを言っていたような気がするけど?

「ユーナ?」

 あれ?ユーナだよね?

「シウバ! 大丈夫!? 無事で良かった!」

 あ、ユーナだ。良かった。

「う、うん。大丈夫だよ。」


 ユーナたちはマジェスターとエリナの嫌がらせ魔法攻撃で防戦一方だったリオンのウインドドラゴンをユーナのケルビムで強制送還させてきたらしい。その際に魔力が枯渇しそうになったリオンはエリナのパラライズで麻痺させ捕縛してあった。そして、ユーナだけこっちの援軍に駆けつけてくれたと。夫として少しふがいないけど、ユーナが助けてに来てくれて良かった。


 こちら側の戦いはテトが退いた事で一旦は区切りとなったようだ。中央はまだマジシャンオブアイスがフィリップ殿たちと戦っている。もっと向こうは、第5部隊が超高度でワイバーンの編隊を組んでいるだけであまり動きがなさそうである。

「捕縛した第4部隊をパティの所に連れて行こう。特にリオン殿はこっちの戦力として回復させたいしね。」

 魔力不足の問題があるかもしれないけれど、1人でも味方は多い方がいい。現在はどの戦場もこちらが有利に運んでいるようだ。しかし、まだ部隊長が誰も脱落していないし、フィリップ殿は前線に出てきていないようである。まだ、どうなるか分からない。


 しかし、その予想は嫌な方向で当たる事となる。

「シウバ様、第5部隊がこちらへ向ってきますね。」

 マジェスターの指摘通りに向こう大幅に陣形を変化させるようだ。


「次の相手はヘテロ殿か・・・。」


 リリスちゃんよりは相手にしやすいかな?


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