4-1 静寂の戦場
前回までのあらすじ!
お前テト担当ね?
は? ← イマココ!
第7章8部 レイクサイド領内乱
「レイクサイド領内乱」とは歴史書にほぼ書かれることのないこの時期のレイクサイド領での反乱を指す。反乱の首謀者も特定できていない。後の歴史書を紐解いても、そこに出てくるような重要人物がいなくなっているわけではないために、死者などの被害は少なかったのではないかと推測される。あったこと自体を疑われる内乱であるが、我が家に眠っていた物と私が集めた資料はその存在を肯定している。
限りなく少ない資料を元にすると、当時世界最強とよばれていたレイクサイド召喚騎士団が真っ二つに割れ、さらにはマジシャンオブアイス率いるアイシクルランスの精鋭が数名参加していたらしい事が分かった。これはセーラ=レイクサイドが要請したのであろう。
不思議な事に領主であるハルキ=レイクサイドは最初の逃亡後、この内乱中にはどこにも登場しない。反乱を起こしたレイクサイド召喚騎士団は第1、4、5部隊であるとされているが、その後もこの部隊員たちは通常通りに召喚騎士団に復帰したのか、何事もなかったかのように領主ハルキ=レイクサイドに仕えている。対して反乱を鎮圧したのは領主の妻であるセーラ=レイクサイドと第2、3部隊を中心とした召喚士たちであった。
不可解な事も多い。「深紅の後継者」「風竜の妖精」を擁する第4部隊が当初に押されている記述がある。しかし、マジシャンオブアイスや勇者フラン=オーケストラ、そして第2、第3部隊は他との戦闘を行っている事になっていた。であるとすれば、この第4部隊を当初から押していた召喚士たちは何処の部隊なのだろうか。
そして、この内乱の勝者を最後に決めたのは名もなき召喚士であったとされている。それが誰であるのかが分からないが、著者には心当たりがある。
次章に続く -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―
「今回は拘束が目的で相手はできる限り殺してはなりません。無論、彼らは仲間ですから。」
レイクサイド領主館奪還作戦は精鋭のみで行われる。特に奪還に必要であるのは大多数の洗脳されている味方の洗脳解除が最優先され、そのためにはある程度の戦闘が予想された。向こうは数百人を擁するレイクサイド騎士団のうち、約2割が洗脳されていると考えられているが、洗脳されずに逃げる事のできた残りを投入するとなるとどうしても死者が出てしまうために、騎士団のほとんどは裏方に回ってもらう事になりそうだ。そして、団長のシルキットは洗脳されて向こうについている。
「シルキットのフレイムレインをどうにかしないと、1対1にすら持ち込めませんよ。」
作戦会議では奥方様が中心となって細かい部分が決められていた。
「夫は私がなんとかします。」
静かに怒っているヒルダさんが超怖い。
「では、シルキットはヒルダに任せるとしましょう。なんとかなったらお父さんの援護に回って下さいね。ウォルターはアレクの牽制をお願いします。」
「かしこまりました。」
「では、行くとしましょう。」
奥方様たちは戦力差を考えてもいけると判断したようだ。しかし、いくらマジシャンオブアイスや勇者フラン=オーケストラがいたとしてもあのレイクサイド召喚騎士団の精鋭に勝てるのだろうか。
「そこは、「邪王」がなんとかしてくれるんじゃねえの?」
留守番をすると主張していたパティ=マートンを無理やり戦場へ連れて行く。拘束できた敵の洗脳をすぐに解いてこちらの味方としてもらわねばならない。
「マジかよ!?」
日頃から一言多い事に対する罰だ。甘んじて受け入れろ。
さすがに向こうにはアレクがいる。こちらの侵攻はすぐに察知されたようだ。レイクサイド領主館の北の平原付近に皆が集まってきている。両方合わせて百人以上が集まるためにまるで戦争だ。まさか、この人たちと戦う事になるとは思いもしなかった。
「奥方様!申し訳ありませんが、ここで討ち取らせていただきます!」
戦闘に出てきたシルキット団長が叫ぶ。フィリップ殿やヘテロ殿、テトは後ろに控えている。レイクサイド騎士団が前面に出るようだ。クロノスとやららしき人物は見当たらない。領主館に籠っているのだろうか?それとも相手は拘束して洗脳するつもりではなく、こちらを殺しに来る可能性もある。
「皆様、少々お待ちくださいね。」
ヒルダさんが出ていく。そういえば、ヒルダさんは第3部隊の部隊長であるが、戦った所って見たことも聞いた事もないな。もともと第3部隊が回復と補助を中心とする部隊である事もあり、あまり前線に出てくるイメージが湧かない。
「あなた!」
「ヒ、ヒルダ!」
さすがに戦場で妻に出会ったら「破壊の申し子」と言えども狼狽するらしい。普段は表情があまり変わらないシルキット団長の顔が青くなっている。
「情けない、それでもレイクサイド騎士団団長ですか?「破壊の申し子」が聞いてあきれます。」
「ヒルダこそ!どうしてしまったんだ!?ハルキ様は抹殺しなければならないんだよ?」
「人は劣等感を持つものですが、ここまで綺麗に洗脳されるなんて。分かりました。私が相手になりましょう。」
ヒルダが剣を抜き放つ。正直なところ、戦えるのか?という不安もあるのだが。なにせ相手はあの「破壊の申し子」だ。この中で最も多くの敵を屠ってきた強者である。
「たとえヒルダといえども、僕は容赦しないよ!皆、ここは僕にやらせてくれ。」
シルキット団長に従っていた十数人の騎士団員たちが下がる。1対1で戦うようだ。
「あなた・・・。後悔するわよ?」
背筋に悪寒が走る。俺は味方なのに。
「くっ、フレイムレイン!」
いきなりシルキット団長はフレイムレインを唱えた。この広範囲爆撃型炎系魔法は多くの敵を虐殺したシルキット団長の得意技である。そろえられた両手から放射状に広がった炎が・・・・・・広がらない。
「ノーム召喚・・・。」
静かにヒルダさんがシルキット団長の両手の中にノームを召喚した。発射地点のすぐ目の前に召喚されるノーム。そして暴発に近い形でフレイムレインがシルキット団長の目の前で爆発する。
「がはっ!」
自分で起こした爆風で吹き飛ばされるシルキット団長。そしてそれは先ほど下がった騎士団員の所まで飛ばされてしまった。
「アークエンジェルズ・・・。」
上空に召喚されたアークエンジェルたちが急降下し、シルキット団長をはじめとしてほとんどの騎士団員を押さえつける。その数は15体ほど。あれだけのアークエンジェルを同時召喚するなんて、どれだけの魔力量があるというのか。
押さえつけられた騎士団員たちは9割近くがその衝撃で意識を失ったのではないだろうか。シルキット団長ものびてしまっていた。あっという間の決着に誰もが何もできないでいる。
「修行が足りませんわ。」
意識を失った夫を見下ろして、剣をしまいながらヒルダさんは一言だけ言った。
捕獲された騎士団員たちがアークエンジェル達によって後方に待機しているパティの所へと連れ去られた。戦場は・・・静かである。誰も何も言葉を発しようとしない。くるっと踵をまわしたヒルダさんは奥方様に一礼すると、パティの下へと向かうようである。
「こ、怖ぇ・・・。」
誰かがぼそっと言った。静かだった戦場には良く響いた。
ヒルダ!お前もか!




