2-3 復讐の指導者
前回までのあらすじ!
テト「死ねぇぇぇ!」
ハルキ「おぼろろろろろろろ・・・。」
魔物「がおー。」 ← イマココ
「もう、お嫁にいけない・・・。」
「さあ、ハルキ様。帰りますよ。お嫁には行かなくていいです。ほら、早くしないとあそこらへんで寝てるバカでかい魔物に見つかっちゃいますからね。」
落ち込むハルキ様を強制的に起こして出発だ。とりあえずはヴァレンタイン大陸に帰らなければならない。
「ほら、ウインドドラゴンに乗って。」
ここまで気絶しながら来たというのにウインドドラゴンの維持魔力が尽きていないなんてめちゃくちゃな総魔力をしている。送還されてないウインドドラゴンであればもと来た方角も分かるに違いない。
「あ!シウバ!見つかったみたいよ!早く逃げよう!」
ユーナが指さした先にはさっきまで寝ていた大型の魔物が起きていた。翼がないドラゴンか?でっかいトカゲにしか見えないけど、明らかに強いんだろう。
「行けっ!ウインドドラゴン!」
ハルキ様を乗せて俺たちもウインドドラゴンに乗る。早くしないと奴が来てしまいそうだ。意外と足が速いな。でも空に逃げてしまえば追ってくる事はなさそうだったから一安心である。
「・・・もうだめだ・・・死のう・・・。」
「大丈夫ですって!ハルキ様!あいつら洗脳が解けたら記憶なくなるかもしれんですし!」
「・・・本当?」
「たぶん!」
嘘でもやる気出してもらわないと帰れないからな!ワイバーンだと何日かかるか分かったもんじゃない。
「私もウインドドラゴン欲しいなぁ・・・。」
ユーナがぼそっとつぶやいた。・・・帰ったら素材を集めてあげよう。ユーナなら召喚契約結べるはずだ。
「こちらは大丈夫ですよ。では奥方様、行きますぞ。」
「ええ、お願いします。」
レイクサイド領主館周辺にひっそりと潜入したアレクとクロノスは徐々に「ブレインウォッシュ」を広げる作戦に出ていた。そしてかなりの人数を洗脳する事に成功する。極め付けは部隊長であるフィリップ=オーケストラやヘテロ=オーケストラ、さらにはテトまで洗脳する事に成功し、第1、第4、第5部隊のほとんどは洗脳状態にあると言ってよかった。領主ハルキ=レイクサイドが王都ヴァレンタインから帰還してすぐに事態の異常に気付き、第3部隊は戦闘行為をせずに逃亡するように指示が出ているためにほぼ無傷ではあるが、レイクサイド領主館付近には近寄れないでいた。第2部隊はそのほとんどが捜索隊として失踪者の捜索に当たっているために不在である。こちらとも連絡がとれずにいる。
洗脳されたほとんどが領主ハルキ=レイクサイドの暗殺を目的とされており、ハルキ=レイクサイドの帰還と同時に洗脳者が異常行動をとり始めた。他の騎士たちに危害を加えるものは少なかったが、領主の近辺にいる者は例外であった。その対象としてセーラ=レイクサイドとロージー=レイクサイドがいた。
レイクサイド領カワベの町。フランは2人を連れてここまで逃げてきている。他の召喚騎士団の追手は全て気絶させられているあたり、この老人に腕の衰えは全くない。
「じい、どこへ行くのだ?」
「ロージー坊ちゃま、これから頼れるお味方の所へ行くのでございますよ。」
「父上は大丈夫なのか?」
「ハルキ様は大丈夫ですよ。あの方が本気を出せばレイクサイド召喚騎士団如きに捕まるわけがございません。むしろ、追って行った連中のほうが心配でございます。」
領主の息子であるロージー=レイクサイドにとって生まれて初めての命の危機であるが、ここに「勇者」フラン=オーケストラがいる限りそう簡単に捕まる事はない。そして、最近では特に前線に出る事はなく後方ばかりであるがここには「シルフィードに舞い降りた奇跡」と言われたセーラ=レイクサイドがいた。
「フランさん、まずは移動手段を手に入れなければなりませんが、召喚騎士団の中で完全に信用できる者というのがおりません。今回は完全に後手に回ってしまいましたね。ワイバーンが無ければ移動が難しいとは思いますが、どうしますか?」
「はい、致し方ありませんが一般市民に紛れこんでの馬車移動になると思われます。」
「では、最も近いスカイウォーカー領までに数日かかってしまいます。王都ヴァレンタインまではさらにかかる事になりますね。」
「・・・他に手段がございません。」
完璧執事の顔にしわが寄る。しかし、そこは才色兼備と呼ばれた女傑である。召喚用魔道具を取り出して詠唱する。
「分かりました。ワイバーン召喚!さあ、後ろに乗ってください。ついでにロージーを持ってもらえると助かります。」
「おぉ!いつの間に!」
「私はハルキ=レイクサイドの妻ですから。」
こうしてセーラ=レイクサイドとフラン=オーケストラはロージー=レイクサイドをある場所に連れていくことに成功する。そこには頼りになる人類最強の氷の魔術師がいるはずである。
ウインドドラゴンが飛んでいく。しかし、このままでは確実に夜になりそうだ。手頃な島を見つけてそこで野営をする事になった。
「えーと、水は魔法でなんとかなるし、雨露防ぐには・・・。」
こじんまりした島に着陸したわけであるが、野営の準備なんてしてきていない。とりあえずは食料を探しにいくこととした所ではあるが、周りはほとんど水平線だ。この島には食料になりそうなものも生えていなかった。
「あ、デッドリーオルカ召喚するから食糧調達はいらないよ。」
ハルキ様が水棲の召喚獣を召喚して海の中から食料を獲って来させている。
「そうだ、屋根の代わりにクレイゴーレム四つん這いにして、ベッドの代わりはフェンリルだ。あそこの岩を黒騎士でくり抜いてウンディーネとサラマンダーで風呂でも作るか。」
もはや、なんでもありだな。
「さて、冷静になって考えると、あいつらの洗脳を解く方法を考えないと帰っても何もできないよね?もぐもぐ。」
デッドリーオルカの捕まえてきた海の幸をサラマンダーが焼いて食事しながらハルキ様が言う。何故かこのサバイバル生活なのにめちゃくちゃ快適である。
「回復魔法をかけたら治ったりしないかな?それとも解除の幻惑魔法とか?」
そもそも「ブレインウォッシュ」自体が高度な幻惑魔法であり、ほとんど使い手がいない。そして相手の事を知っていないと効果が出ないという制限付きである。今回クロノスという男はよほど上手く魔法を使ったようである。
「ハルキ様!私たちが分からなかったら、知ってる人に聞けばいいんですよ!その知ってる人ってのは分からないですけど!もぐもぐ。」
「ユーナ・・・。もぐもぐ。」
知ってる人か・・・誰がそんな事に詳しいかな?というよりも洗脳っていったって、状態異常の一つであり回復魔法が効きそうなんだけど。
「回復魔法に詳しい人がいれば聞きに行くのもいいですね。」
「回復魔法か。レイクサイドでは第3部隊に押し付けてたから、あんまり回復魔法の達人ってのはいないんだよな。必要なかった事もあって。」
レイクサイド召喚騎士団自体があまり損害を被らない戦い方をしてきただけに、第3部隊の回復魔法だけで十分であったという経緯がある。たしかに、ほとんどの戦いが圧倒的な勝利で終わってるからな。そのレイクサイド召喚騎士団が今回の相手になってしまったというのは皮肉以外の何物でもない。
「魔人族とかで誰か詳しい人がいればいいんですけどね。」
「あー、分からん。でも一つだけ言えるのは魔人族の知り合いなんてテツヤくらいしかいないって事なんだけどさ。よく考えたらヴァレンタイン大陸帰ったら誰が敵か分からん状態になるわけで、今帰れる状態じゃなかったな。」
「それではどこに向かいましょうか?」
「そりゃ、ヒノモト国一択だろ?こんな時くらい貸しを返してもらうとするよ。」
こうして俺たちの目的地はヒノモト国へと変更された。
「しかし、クロノスって奴にしてやられましたね!こんな事になったハルキ様は初めて見ます!」
「ユーナ、もうちょっと言い方ってもんが・・・、ほら、ハルキ様また落ち込んでるよ。」
「あ、ごめんなさい!でも、今まで本当に無名だったのに「ブレインウォッシュ」まで使えるなんて、どんな奴なんだろうね!」
落ち込んでたハルキ様がちょっと顔をこっちに向けた。
「多分・・・、いや。おそらくクロノスって奴は俺の知ってる男だ。」
「え?」
「奴は十中八九、クロス=ヴァレンタインだ。昔の宰相だよ。やり方がせこいんだ。」
「クロス」と「クロノス」って1字しか違わないじゃん!!




