5-3 邪王の弟子
前回までのあらすじ!
ネイル国およびリヒテンブルグ王国合同軍はハルキ=レイクサイドの策略によりトバン王国軍との戦闘を行わざるを得なかった。衝突直後にトバン王国軍を指揮していたホーリー将軍は何者かに暗殺され、混乱の中でネイル国軍はトバン王国軍を打ち破る。両者にはそれぞれ損害がでていたが、それでも十分に帝都エレメントを落とせると確信したサイド=ネイル12世は気を引き締め直すのだった。
そしてオレオも気を引き締め直すためにデー〇ン小暮閣下のEL・D〇RADOのミサ動画を見て勇気をいただくのであった。ついでに改造手術特集を見て爆笑(何回目だ?)するのも忘れない。
俺の名前はナノ。レイクサイド召喚騎士団第6特殊部隊に所属する魔人族だ。直属の上司は魔王シウバ=リヒテンブルグ様である。何故魔王が召喚騎士団に所属しているかと言うと、ちょっと長くなるからここでは省略しておこう。
「おい、ナノ。行くぞ。」
この偉そうなもやしっ子はアレクという。レイクサイド召喚騎士団第2部隊の副隊長だそうだが、こいつが活躍している場面を見たことがない。そしていつも偉そうだ。ただし、こいつら諜報部隊は活躍している所を見られたら活躍していない事になってしまうだとかなんだとかシウバ様がいっておられた気がする。・・・よく分からん。
現在、ネイル国と「邪国」の合同軍がトバン王国軍を破った所だ。この混乱に混じって俺たちはネイル国の兵に紛れ込んでしまうのが作戦のようだ。第2部隊の連中が他にも数人紛れているらしいが、区別がつかない。どいつも魔人族に変装できる魔道具なんて便利なものをもってやがるからな。
「よし、ここからは俺たち2人で行動だ。」
待て、今まで他にも誰かいたのか?全然気づかなかった。もしかしたらこいつらは少しだけ優秀なのかもしれない。弱そうなんだけどな。
「所属と名前を言ってから宿舎に入れ。」
「第6部隊所属ヨールとセデスだ。周りにいた連中の中で生き残りは俺たちだけだと思う。他にもいたらいいんだが・・・。」
「第6部隊か、あそこは激戦だったらしいな。再編成があるから向こうの宿舎へと移動しろ。」
「分かった。」
この第6部隊というのは先ほど俺たちが殲滅させた部隊の事だ。認識票を人数分奪ってきているから知り合いにでも指摘されない限りはばれる事はないだろう。
「よし、まずは潜入成功だな。」
「この程度は当たり前だ。さあ、とりあえずは夜までは目立った行動はするな。周囲の人間と喋ってもいいが、できれば俺に任せろ。」
「ああ、頼む。」
慣れている。どう見ても魔人族だ。こいつらはこういう訓練を受けているというが、訓練というものが本当に効果的だと分かったのはシウバ様達に出会ってからで、それまではそんな事考えずに生きてきた。生きるのに精一杯だったから仕方ないけどな。そしてアレクは何気ない会話から情報を収集していった。
しかし次に日の朝に俺は衝撃の会話を耳にする。
「は?リヒテンブルグ王国・・・?」
「そうだぜ、「邪国」の正式名称は「リヒテンブルグ王国」ってんだ。知らなかったのか?」
「あ、あぁ・・・。」
ちょっと待て、どういう事だ?アレクが会話している奴が「邪国」の本当の名前を知っていた。つい、会話に加わってしまったじゃないか。しかも四騎将とかテンペストウルフとか色々と思い当たる節がある。
「おい、どうした?」
「い、いや・・・。」
何でもないと言おうとしたが、何でもなくない。だいたい「邪国」ってなんだ!?シウバ様の姓でもあるリヒテンブルグの名前を汚す行為じゃないのか!?いや、今はそれどころじゃない。
「アレ・・・ヨール。ちょっと、相談がある。」
実際はちょっとではない。本気の緊急事態だ。
「何で!そんな大事な事を黙ってたんだ!!」
「知るか!?俺も今知ったところだ!それに、シウバ様はハルキ様に報告したって言ってたぞ!」
「報告したっつっても、・・・ええい!何とかして状況の確認と本部への連絡を取らねばならん!」
「まずは、リヒテンブルグ国が本当に俺の故郷の国かどうかを確認させてくれ。」
「確かにその通りだ。違っていたらただでは済まされんからな。しかし、シウバが魔王というのはどういう事だ?つまり、「邪王」はシウバなのか?」
順当にいけばそうだろう。そして「四騎将」はフェルディ様を始めとした族長4人の気がする。テンペストウルフに乗ってるとも言ってたしな。もう確実じゃねえのか?
「ちょっと、会いに行ってくる・・・。」
「いや、待て!軽率な行動をとるな!まずは確認だけでいい!」
どうしてこうなったんだ!!?
俺たちはリヒテンブルグ王国軍の宿舎の近くへと移動した。
「シェイド召喚。」
アレクが闇の召喚獣を出す。
「四騎将がどこにいるか分かればいいんだが・・・。そいつらの顔が確認でき次第、ここを離れるぞ。」
「分かった。」
別に四騎将でなくてもいい。誰か知り合いさえ確認できれば、シウバ様に連絡して戦闘を回避する事も可能かもしれないのだ。身内が争う姿なんて見たくもない。
「むっ、あっちに移動中の部隊があるな。指揮官らしき男もいるようだ。行くぞ。」
アレクの召喚獣が何かを見つけたらしい。俺は間違いであってくれと祈りつつも、おそらくはここにいるのがリヒテンブルグ王国の皆であるのは間違いないだろうと確信していた。
「そこにいるのは誰だ!?」
少し近づいただけで、見つかったらしい。心臓がドキリと鼓動する。
「離脱だ。急げ。」
召喚獣を先行させていたために、相手との距離はかなりある。アレクがワイバーンを召喚し、俺もそれに乗り込もうとするが。相手の速度は俺たちの想像以上だった。
「逃がさぬ!敵の諜報部隊だな!?」
一瞬で間合いを詰めて、その刀を一閃する魔人族。アレクのワイバーンが両断され、俺たちは宙に放り投げだされる。
「くっ!」
2人とも受け身を取って起き上がるが、その隙にアレクへと凶刃が迫っていた。
「情報は1人いれば十分とれるからな。」
振り下ろされる刀を横から剣ではじく。
「アレク、行けっ!」
「すまんっ!」
アレクが再度ワイバーンを召喚して逃走する。空に逃げてしまえばこいつらは追って来れない。
「「斬空」の剣をはじくとは、やるな・・・、だがそこまでだっ!!」
その相手はもう一本の刀を取り出して二刀で構えた。
「いや、ちょっと・・・あの、ライレ・・・。」
「「剣舞」!!」
こ、これは・・・なんと言うか。俺はその剣を避けてからはじき返す。シウバ様のに比べるとなんともお粗末だ。いままでシウバ様に稽古をつけてもらってきた俺にとってはなんてことはない。
「なにぃ!俺の「剣舞」をはじき返しただとぉ!!」
「そりゃ、本物に比べると速さが段違い・・・、ですから、ライ・・・。」
「うおおぉぉぉぉ!!このままでは魔王様に申し開きがたたん!「剣舞」は最強の技であるはずだぁぁ!!!魔王様の技を引き継ぐものとしてぇぇぇぇ!!!!」
さらに「残念・剣舞」を放ってくる相手。
「だから、ちょ・・・このっ・・・ええい!うっとおしい!フレイムレイン!!!」
この前、シウバ様と開発した新必殺技「局所集中型フレイムレイン」。シルキット団長ほどの威力を持たせる事が出来なかったために範囲を犠牲にして威力を向上させたものだ。これをこいつにぶちかます。
爆発音とともに宙を舞う「斬空」。さすがに威力は手加減してある。
「人の話を聞けっつーの!相変わらずだな!ライレル様!!」
「げぼはぁ・・・・・えっ?ナノか!?」
まさかこんな所で時間をとられるとは・・・アレク、帰っちまったぜ。どうやって本陣まで戻ろうか。
ライレルは普通に戦えばナノに後れを取ることはないんですけど、こだわり(厨二病)が彼の強さを縛っていますね。




