4-3 ドーピング・フレイムレイン
前回のあらすじ!
ドゴォォォォン!
ぎゃああああ!
にげろっ! ← イマココ!
ヴァレンタイン王国エレメント領(仮)。先のエレメント魔人国とトバン王国との戦いに加勢したヴァレンタイン王国に対してエレメント魔人国から譲渡された領地である。特産品はほぼなし。小さい港が数か所あるだけの荒れ地だ。北の魔大陸の南に位置し、ヴァレンタイン大陸のフラット領から最短距離にあるここには常時ヴァレンタイン王国軍が常駐する事となる。宰相ジギル=シルフィードはここに軍事要塞を建設する予定でいた。
そして春が来て年が明ける。
「ヒノモト国とスクラロ国の休戦が決まったようだ。これで北に集中する事ができそうだな。」
ジギル=シルフィードの懸念は東の戦いでどちらかが勝つにしてもヴァレンタイン王国にとってありがたくないという事だった。ヒノモト国が勝てばヒノモト国の力が増すため、いままである程度輸出の面で有利な立場をとっていたはずであるが、それが覆る可能性がある。反してスクラロ国が勝てばヴァレンタイン大陸に接するところまで勢力を拡大される恐れもあった。今回の痛み分けはヴァレンタイン王国にとって非常にありがたい事なのである。
「そして急ぎで決めなければならない事もある。エレメント領の領主の事だ。それにエレメント領という呼称も使いにくいので変更の必要があるな。」
「それで、何ゆえに呼び出されたのでしょうか?」
ハルキ=レイクサイドはこの宰相の真意を掴みかねていた。
「誰か領主に適任な人材がレイクサイド領にいるのではないか?」
「は?」
咳払いを一つして、ジギル=シルフィードは続ける。
「単刀直入に言おう。フィリップ=オーケストラとオーケストラ家を差し出せ。オーケストラ領なんていい響きじゃないか。」
「断る。それならファブニール領とかいいんじゃないですか?アイシクルランスもおまけで付けてみたらいいと思うんですが?」
宰相と国内最大領地の領主が笑顔で向かい合う。どちらも目が笑っていない。
「よし、決めた。」
そこへ割り込むアイオライ=ヴァレンタイン。
「どうせお前ら二人とも了承なんかしないと思ってだな。俺が完璧な采配をしてやろう。」
「ほほう、どのような案ですかな?」
「おい、アイオライ。フィリップは絶対やらんからな。」
ふふんと鼻で笑うアイオライ=ヴァレンタイン現王。
「これを機にあの領地のお家騒動も解決してやろうと思ってな。」
「分かりました。我がエジンバラ家の騒動へのご配慮をありがたく思います。」
病床のタイウィーン=エジンバラはベッドでお忍びのアイオライ=ヴァレンタイン現王を迎えるという事は頑なに拒否し、謁見の間で正装に身を包んでいた。エジンバラ領へと来ているのはハルキ=レイクサイドとリオン=オーケストラのウインドドラゴンに乗れる10名のみである。
「オクタビアは本来は次期当主でございますが、廃嫡いたします。本人は左遷させられたと感じるでしょうが。」
「そのあたりは俺からも言う事にしよう。」
「新たに姓を頂けるのでしょうか?」
「もちろんだ。オクタビア=エジンバラは着任と同時にカヴィラの性を名乗る事を許そう。これで真意は伝わるはずだ。カヴィラ領の領主として王都へ来いと伝えろ。」
「おぉ、有難く存じます。カヴィラでしたら、あれも納得するでしょう。」
カヴィラとは太古の時代の人々をまとめたと言われる伝説の人物である。もちろん神楽が鈍ったものであるため、ハルキ=レイクサイドが一瞬嫌な顔をしたのを誰も気付いていない。
「だが、エレメント国への派兵を主な生業とする領地だ。レイクサイド領やシルフィード領からも援軍を出す。うまく連携するように。」
「分かりました。伝えておきましょう。」
これでエジンバラ領の相続問題は一旦落ち着きを見せることとなった。オクタビア派の人間はこぞってカヴィラ領へと移ることとなり、穏健派であったタイウィーン派がエジンバラ領に残ることとなった。
「さあ、ジギルはオクタビアの坊ちゃんを上手く乗りこなせるか?」
「その必要はないでしょう。余計な事を考える間もなく忙しくなるはずですからな。」
実際、北の大陸は春を迎えると騒がしくなる。
「というわけで、お家騒動も終わったし、レイクサイド領からも騎士団と召喚騎士団派遣するから第6特殊部隊もあっち行ってね。」
「いや、・・・マジですか?」
北の魔大陸に新しくできたカヴィラ領への赴任という事であるが、その新領主というのがエジンバラ領の次期当主だったオクタビア=エジンバラだそうだ。俺が狙われていた原因の張本人じゃねえか。あ、今はもうオクタビア=カヴィラと名乗っているらしい。
「当分は各領地から騎士団を派遣して援助しないとなんもできないだろうから、助けてやってくれって事で。あ、シウバの事は釘刺しておいたから大丈夫だよ。」
さすがに天下のレイクサイド領から釘をさされると新領主といえども縮み上がるしかないか。
「とりあえず、まずは召喚騎士団をある程度派遣して軍事要塞を作り上げてしまおうと思ってる。物資はエレメント魔人国から買う事にしてるし、その間にオクタビア=カヴィラの護衛を頼みたいんだが。」
暗殺されかかった奴の護衛をすんのか?むちゃくちゃだな。まあ、仕事ならやりますけど。
「ま、これが結構無茶な事言ってるのは分かってるから、なんか要望があったら優先的に聞いてやろう。」
「ユーナを第6特殊部隊にください。」
「即答だな・・・ま、分かった。ヘテロには俺から言っておこう。だが任務中に公私混同するなよ。」
うおしゃぁぁぁぁあああ!!!!これで任務中も一緒だぜぃ!いやっほぉぉ!!
「あ、そうだ。赴任前にちょっと確かめたいことがある。」
そして連れてこられたのは練兵場という名前の荒野。ここはシルキット団長がほぼ破壊し尽くしたと有名なもともと山があった場所である。そしてそのシルキット団長も来ている。何するんだ?
「ちょっと、シルキットでドーピングの威力を確認したい。」
あぁ、そういう事ね。まだ薬は残があるし、良いでしょう。自分にドーピングとマジックアップをしてからシルキット団長に補助魔法を重ね掛けしていく。ドーピング薬も飲んでもらう。
「かなり沢山かけるんだな。それにこれも飲むのかい?」
十分に補助魔法をかけて薬も飲んだところで準備完了だ。
「これは・・・すごいね。魔力が溢れてくるようだ。」
「よし、シルキット。フレイムレインだ。思った以上に威力が出ると思うから俺たちを巻き込まないように遠目で撃ってくれ。」
「はい、分かりました。・・・フレイムレイン!!」
ズガガガガァァァァン!!!と爆音がして吹き飛んでいく大地。テツヤ様のドーピング・エクスプロージョン並の威力が出ている。
「こ、これは・・・。」
「あまり、驚かれないんですね?」
「何を言ってる?これが俺の驚いた顔だ。」
「・・・・・・。」
腕を組んで片方を顎に当てるハルキ様。
「うーん、やっぱり規格外だ。予想以上に攻撃力の上昇が認められるなー。指数関数的に上がるって事は他の要素を加えても反発したりしないって事だろうし、補助魔法と薬に加えて・・・ぶつぶつ。」
あまりにも爆音が響きすぎて領主館から何人もこちらに来ている。
「あ、シルキット。これ極秘ね。」
「はい、かしこまりました。」
「シウバもカヴィラ領について行かせるから。もし、北で苦労する事があれば使っていいけど、普段は隠しておけよ。」
「使っていいんですね?」
「もちろん。味方の誰かが死ぬよりはいい。」
しかし、俺はそんな事より気になっていた事があった。
「あ、あのー。あっちの森がめっちゃ燃えてますけど・・・。」
フレイムレインがかなり広範囲にぶっ放されたために向こう側の森が火の海になっている。
「ぎゃー!氷魔法を撃ちこめぇ!!コキュートス召喚!!」
「えっと、氷は得意じゃないんだけどな・・・。」
「マジェスター!!いるかぁぁ!!急げぇぇぇ!!」
こうして俺たち3人はセーラ様に2時間にもおよぶ説教をくらう羽目となり、北の魔大陸への派遣が1日遅れたのだった。
しれっと誰かの苗字を変えてたりして・・・




