4-2 ドーピング・エクスプロージョン
前回までのあらすじ!
ヘタレが来た! ← イマココ!
「つまり、ナトリ=スクラロの必殺技の中でも一番厄介なのはその衝撃波ってことかな?」
一通り廃都オーブリオンを更地にする遊びが一段落したところで、スクラロ軍がこちらに進軍中との知らせを受けた俺たちは真面目に作戦会議をやり直すこととなった。今回はハルキ様も俺たちも同席している。
「そんな相性悪すぎる相手に正面からつっこんで言っても負けるだけでしょ?マケルダケ。」
「ぐぬぅ!」
ハルキ様とテツヤ様は非常に仲がいい。アイオライ王やジギルシルフィード宰相など他の人とは違った結びつきがあるのではないかと思わせるほどだ。
「まあ、話聞いた限りではそいつにも弱点がたくさんありそうだけど。たとえば俺がノーム玉作って海にポイってしてきたら抵抗できないんじゃないの?」
さらっとえげつない事を言うハルキ様。そんなもんに抵抗できるのは無限の魔力を持ってた魔王アルキメデス=オクタビアヌスだけだろう。
「だが、次は負けん!」
「いや、話聞いてた?」
おそらく、前回の作戦会議もこんな感じだったんだろうな。
「まあ、テツヤが負けたままでは恰好がつかないってのも分かるから・・・。」
ハルキ様が悪ーい顔していらっしゃる。
「こんな感じの作戦はどうかな?」
「「神の鉄槌を!!」」
3500のスクラロ軍は前回の戦闘で100人程度の死傷者をだしたようだ。少しだけ数が減っている。と言っても戦力的にはほとんど変わらない。対してこちらは撤退したこともあり、無傷で損害がないとはいえ士気の低下が見える。ただ、こんなものはナトリ=スクラロとテツヤ様の一騎打ちの結果でなんとでもひっくり返せるはずだ。
「尻尾巻いて逃げ帰った魔王はどこだ!?」
「逃げてねぇ!!戦略的撤退だ!!」
あぁ、テツヤ様ったら敵の挑発に乗って真っ先に顔出しちゃったよ。まあ、作戦には関係ないからいいけどさ。さて、俺たちは俺たちの役割を果たすとしますか。
「できれば向こうが望んでるように一騎打ちに持ち込みたい。それがヒノモト国にとっても負けたという事実を覆す唯一の方法だからね。」
ハルキ様の作戦はこうだった。
「でも、今のままでは一騎打ちには勝てそうもないんでしょ?だったら、こちらもテツヤを強化してやればいい。もちろん、こっそりとね。」
「強化?次元斬が効かない相手なのに強化できる所があんのか?」
「あるよね?シウバ。」
も、もしや。あれか?
「ちょっと、その苦い薬と補助魔法とをテツヤにかけてやってくれ。」
「え?あ・・・はい。でも魔人族に効くかどうかは・・・あ、ナノには効いたから大丈夫ですね。」
そう、俺のドーピング薬はナノが飲んでも効いていた。つまりは魔人族にも効果があるのだ。まあ、魔力増強とかがメインの薬だし、効いてもおかしくないか。
「じゃ、これと、予備でもう一つ渡しておきますね。」
「なんだよ!?こりゃあ、すげえな!これでズルしてたのか、お前!」
あ、さっそく予備のやつ飲みやがった。戦闘までまだ時間あるってのに。
「それで、レベルの割にはかなり強いんだな!さすが、シウバだぜ!」
実はレベルの割には強くないんだよ。それをこれでなんとかあげてるどころか、レベル以上の力を発揮できている。薬屋の師匠に会いたくなってきたな。
「双方待て!!我が名はシン=ヒノモト!スクラロ国魔王!ナトリ=スクラロよ!我らが魔王テツヤ=ヒノモトとの一騎打ちを受ける勇気はあるか!?」
シン=ヒノモト殿が宣言する。魔獣に騎乗して前に出ているから戦場の全ての人間に注目されている。
「受けよう!前回同様に吹き飛ばしてくれる!周りの者は手を出すなよ!」
「よし!これより他者の介入を禁ずる!負けた方が軍を退く!よいな!」
「よかろう!」
この宣言までにかけられるだけの補助魔法をテツヤ様にかけた。特に最近覚えたてのマジックアップを重点的にかけておいたから、魔力の強化もばっちりだ。もちろん、かける前に自分にもドーピングとマジックアップはしてある。
「にししし、ドーピング完了。体が軽いし、力も湧き上がるぜぇ。うひひ。」
ノリノリのテツヤ様。騎士道精神の欠片もねえ。
「出てこい!テツヤ=ヒノモトォ!!」
正面ではナトリ=スクラロが叫んでいる。そしてテツヤ様が駆けだした。
「行っくぜぇぇ!!ヴェノム・エクスプロージョン!!」
出会い頭に増強された魔力でのヴェノム・エクスプロージョンが戦場を地面ごと吹き飛ばす。
「なあぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」
ドゴォォォォンという耳が痛くなるほどの爆音。そして、広範囲に地面がえぐられていく中、ぶっ放したテツヤ様自身が驚愕の声を上げ、吹き飛んでいくナトリ=スクラロ。あれ、ナトリの「魔装」じゃなかったら跡形もなく粉々だったよね?あれ?これで終わりか?
「ちょっと、効かせすぎたかな?えへ。」
「えへ、じゃないよ!シウバ!この空気どうしてくれんの!」
シン殿に突っ込みを入れられるが、勝ったんだからいいじゃねえか。しかし、一騎打ちどころか、軍勢ごと吹き飛ばせる威力だったな。砂埃が煙たい。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁあああああ!!!ぎゃははは!!!」
ぶちかました本人が一番驚いている。そしてもはや両軍ともに戦争をするとかいう雰囲気ではない。
「おい、シウバ。ちょっとドーピングと補助魔法に関しては極秘扱いにするぞ。他の奴らも今回の事と今までの事も口外禁止だ。」
後ろには真顔のハルキ様。なんで怒ってんの?
「お前、実は天才だけど、才能ないだろ?」
意味が分かりません。
「おのれぇぇぇ!!!」
うわ、びっくりした!あれくらったのに魔王ナトリ=スクラロが生きてるよ。さすがは「魔装」だな。
「はっはっはっはっは!!いまなら3500だろうが1万だろうが相手にできる気がするぜぇ!!まとめてかかって来てもいいぞぉ!!」
魔王テツヤ=ヒノモトが魔王らしい事を言っている。
「ナトリ様!ここは退きましょう!」
スクラロ族の将官たちがナトリ=スクラロをかばいながら撤退命令を出していく。一応、これで勝ったのだろう。すごいあっけない気もするけど。
「ユーナ!」
「はっ、はいっ!」
真面目ハルキ様がユーナを呼んだ。
「今すぐにシウバを連れてレイクサイド領へ帰れ。俺も第6特殊部隊も後で追いつく。テツヤにばれないうちに早くしろ。」
へ?なにそれ?
「行くよっ!シウバ!」
ユーナのワイバーンが最大戦速で低空飛行する。ユーナが本気だすとこんなに早かったんだ。ウインドドラゴン並である。
「はっはっはっは!!おい!シウバはどこだ!!?はーっはっはっは!」
後ろでテツヤ様の声が聞こえたような気がした。でもなんで俺はテツヤ様から遠ざけられてるんだ?
外洋に出て一旦落ち着くと、ユーナがユーナなりの考えを教えてくれた。
「シウバのドーピングの威力がね、ハルキ様たちの思っていたのを大幅に上回ってたんだと思うよ!」
それはいい事じゃないの?
「だから、テツヤ様みたいな規格外の人がさらに規格外化してしまうって事!あんな攻撃されたらヴァレンタイン軍も一撃で倒されちゃうでしょ?つまりはシウバがいる軍が最強になれるのよ!」
・・・え?
「でも、俺っていつもドーピング自分にかけてるよ?でもテツヤ様とかには到底及ばない実力だけど。」
「それはシウバがもともとレベルの割には弱かったってことよ!」
デスヨネー。俺、モトモト才能ナカッタデスモンネー。
「なんか、ショック・・・。」
「とにかく、シウバの存在は極秘扱いになっちゃうよ!この事が知られたら、いつ誰が攫いに来てもおかしくないもん!」
それでテツヤ様からも遠ざけられたってわけか。こうして俺はオーブリオン大陸を後にした。
「くおらぁぁ!!ハルキ!シウバはどこだ!?」
「奴は隠した。さすがにあの威力は容認できんわ。」
「何をぉ!!!せっかくヘッドハンティングしようと思ったのに!」
「させん!奴はうちのだ!」
「ケチ!」
「だめだ!」
「ハゲ!」
「うっさい、魔法使い。」
「お、お前っ!!それを言うか!!?」
そして更地化が進む廃都オーブリオンと精神的疲労がたまるシン=ヒノモトであった。
なんかいろいろあって、勢い余って初めて他の作者様の作品にレビューを書いてみた。結構、緊張するね。オレオも、もらった時は本当にうれしかったけど、自分で書いてみてよかったかもしれない。悩んだ結果、1話書くよりも時間使うとは思わんかったぜ。




