4-1 新必殺技の予感
前回までのあらすじ!
オーブリオン大陸の北に上陸してきたスクラロ国
その兵士たちは「魔装」とよばれる特殊な補助+召喚魔法の使い手だった。
そして真似てみると逆切れされた!
つまり最強なのはパラライズだった! ← イマココ!
俺たちは廃都オーブリオンに来ている。撤退戦は行われずに、ヒノモト国と旧オーブリオン騎士団は無傷での帰還だ。住民たちも全員避難できたというのでほっとしている。もともと、あんまり人は住んでいなかったからな。そして、帰るなり作戦会議が続く。問題は魔王ナトリ=スクラロをどうすればいいかという事に尽きる。あいつさえどうにかしてしまえばテツヤ様突っ込ませるだけでなんとかなりそうだからな。それで作戦会議中に俺たちは邪魔しないように外に出ていた。そこでユーナが俺にこう聞いた。
「あの時、テツヤ様の上に出現した盾はシウバが出したの?」
そう、俺が思考加速中にできるかもと思って奴らの真似をしたのだ。結果は意外にも召喚できた。ただ、魔力がほとんど乗ってないからボロボロの盾しか具現化できず、一撃で割れてしまった。しかしその間にテツヤ様が体勢を立て直せたのだから役目としては十分なものが果たせていた。
「じゃあ、それで鎧とか武器とかも作れるんじゃない?」
まあ、単純に考えるとそうなるよね。ちょっとやってみようか。
そして「魔装」をやってみた。
「魔装!」
まずは武器だ。俺のスタイルに合わせるなら剣舞の際に飛んでいく剣撃に実体を持たせたい。つまりは投げナイフかな。ゆっくりと魔力を込めてみると手の中にちょうどいい大きさのナイフが形成された。黒一色であり、若干不気味だ。魔力を固めるとこのようになるのか、他の色にはできないようである。
「なんか、できた・・・。」
ためしに投げてみた。ザクっと近くの廃屋の壁に突き刺さる。
「やった!できたね、シウバ!」
ユーナが喜んでくれるけど、なんか違う気がする。
「いや、これだと威力がね・・・たとえば魔装せずにいつもの飛ぶ剣だとさ。」
そう言って剣に乗せた魔力を飛ばしてみる。ザグゥゥ!!と派手な音がして廃屋の壁に突き刺さるどころか両断してしまった。
「魔力は魔装の方が多いのに威力が小さいんだよ。」
「あー、そうなんだ。それじゃ使えないかもね!」
「でも、実体化した方がいい物もあるかもよ。この前出した盾もそうだし、防具とかにはいいかも。」
なにせ一般兵士が青竜の鱗よりも固い装甲を具現化できるのだ。これは防具に特化した魔法に違いない。
「まあ、そんなに世の中甘くないね!」
「うぅ・・・そうだね。」
結論からいうと、防具もダメでした。何が神の御業だ!
「これはなんでだろうね・・・。」
修行に時間がかかる魔法なのだろうか。今の俺ではスクラロ族のような使い方はできそうもない。
「もしかしたら、召喚魔法を加えるから弱くなるのかもね!魔法を混ぜるのって難しいから・・・。」
確かにその通りである。2種類の魔法を混ぜるのはとても難しいのだ。パワーバランスが重要となってくるだけでなく、魔力も沢山消費してしまう。
「これは使い方が限られてしまうなぁ・・・。」
少なくとも戦闘の主な役割には使えなさそうだ。他の補助的な障害物とかには有効かもしれない。今のところはそれで満足しておこう。新しい必殺技ができたと思ったんだけどなぁ・・・。
「シウバ様!レイクサイド領から伝令が来ております。」
マジェスターが俺たちを呼びに来た。もうちょっとユーナと2人でいたかったけど、まあ、仕方ない。戦争中だしね。
「分かった、すぐ行く。」
「なんだろうね?呼出し命令かな?」
「今のヒノモト国には前線で戦える将官が少ないから俺たちがいなくなるだけでも痛手だと思うけど。そんな事はハルキ様ならしないでしょ?」
「確かに!そしたら増援かもね!」
それだったら嬉しいな。本当は戦争しなけりゃいいのにと思っているが、国にはそれぞれの事情があるという事も北の地で学んだ。そして人間個人の力というのは限界があるという事も。できる事をできる限りやるしかないのだ。
「というわけで、レイクサイド召喚騎士団第4部隊所属ジェイガンです。第6特殊部隊に一時的に増援として着任いたします。明日にはテト班の3人も合流を予定していますのでよろしくお願いします。」
伝令は第4部隊所属のジェイガンという男が1人でやってきていた。立派なワイバーンに乗っている。込められている魔力の質と量が違うのだろう。まあ、当たり前だ。
「・・・ハルキ様・・・何やってんすか?」
「なにぃぃ!!?俺の変装を見破っただと!?」
「変装も何もマント取って、パイロットゴーグルつけただけでしょ!!髪短く切ったところでハルキ様はハルキ様でむしろホープ様ですが!!」
「・・・・・・もうだめだ・・・シウバなんぞに見破られるとは・・・死のう・・・。」
ご丁寧に第4部隊所属テト班ジェイガンの着任書まで偽造して、いや、偽造ではないな。正真正銘領主のサインだ。製造して、オーブリオン大陸までやってきたハルキ様、いや、ジェイガンか。やってきて早々に両手を地面につけてうなだれている。これが一部では有名なあれか。
「で、今回は何があったんですか?」
ユーナがいつもの事のように聞く。ほぼすべての部隊がある日突然出現するハルキ様を見ており、その逃避行にはだいたい誰かと喧嘩したとか、セーラ様に無視されたとかくだらないエピソードがあるという。そんな事で領主が仕事放って僻地に来るなよな。
「だって、・・・ロージーがパパいらないって言ったんだもん・・・。」
今度は親子喧嘩らしい。しかし4歳児に負けるなよ。
今回のハルキ様の逃避行は誰も察知できなかったらしい。本人曰く、これで17勝72敗3分けだとか意味不明の事を言っていた。
「つまりはお供がいないんですね?」
ヨーレンは何やってんだ。
「でも、出てくる前にテト達を派遣する事にしておいたから明日には合流できる!」
なんて領主なんだ・・・。これは部下たちが優秀なのも頷ける。こんなイレギュラーに毎回毎回対処してるんだからな。
「了解です。でも、ここはいまバンシからの撤退の後なんでみんな殺気立ってますからね。あまり調子に乗らないように・・・・・・どうしました?」
ハルキ様が変な顔している。
「え?テツヤ負けたの!?」
「えぇ、まあ、魔王ナトリ=スクラロとは相性が悪くて。こっちの被害はでてませんからテツヤ様は勝ちだとか言ってますが。」
「ぎゃははっははははっはははははっははっは!!!ちょっと!テツヤ何処いんの!?おーい!」
「あぁ!言ってるそばから!!」
いや、でも急に元気になったからよしとするか?この人はこっちが似合ってるのかもしれないな。
「死ねぇぇ!!次元斬!!!」
「うわぉいい!あぶねえって!!ぎゃはは!」
「えぇい!笑うな!ヴェノム・エクスプロージョン!!」
「ぎゃああ!!!当たる!当たる!!」
魔王と大召喚士の戯れで廃都がさらに廃墟と化していく。爆発で舞った土埃がウインドドラゴンの爆風で吹き流されていき、少しずつ廃墟が削られていくようだ。
「まあ、更地にする手間も省けるか・・・。」
すでにシン=ヒノモト殿の目が死んだ魚のようだ。
「増援としてはこれほどありがたい人物もいないんだけど。なんだろう、このもやもやした感情は。」
ヒノモト国としても正式にヴァレンタイン王国からの増援を受け入れるよりはお忍びで来ている世界最強の召喚士に手伝ってもらったほうが国の体裁も保てて戦力的にも申し分ないという考えなのだろう。領主がここにいる事で第6特殊部隊の帰国もなくなるわけで、ちょうど良い。
「いや、ほんと。お疲れ様です。」
お互い、精神年齢が低い上司を持つと辛いな・・・。
「おい、シン。連中が進軍を始めたぞ。」
やってきたのはカイト将軍である。シン=ヒノモト率いるライクバルト艦隊のライクバルト号艦長で、今回は北部担当の指揮官もしている。
「ついにきちゃったか。もう少し休んで出くれると助かったんだけど。」
「次は、どう対処する事になったんですか?」
俺が出席していなかった作戦会議の内容を聞く。
「あ、聞いちゃう?」
なんか、嫌な予感が・・・・・・。
「正面突破だってさ。テツ兄、次は負けないんだって。・・・作戦会議してた時間返せよな。」
ひさびさにヘタレハルキを書いた。なんか落ち着く。




