1-5 薬草師シウバ
「のおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
俺の絶叫がエルライト近郊の森の中に響き渡る。叫びの原因は後ろから迫ってきているゴブリンの群れのせいだ。
薬草採取の依頼を中心にこなすようになって約2週間。冒険者ギルドの薬草採取のほとんどは俺がやっているといっても過言ではないこともないはずだと思いたいだけなんだが。今回はエルライト近郊の森に薬草を採取に来ていた。依頼内容はキュアリーフの採取であるが、他の薬草にも詳しくなってきた俺は、大きめの籠をもってくるのが定例となっている。ここはレドン草をはじめとして、ワイズ草にマジックマッシュルームなどもよく生えている。そして、ゴブリンもよく生えていた。
「だっかっら!ちょっと薬草を頂こうとしただけなんだって!」
薬草採取をしていて気づいたらゴブリンの集落のすぐ近くだったという、これっぽっちも面白くない話なのであるが、こっちにとっては死活問題だ。追ってきている数は7匹。普通の冒険者であれば戦えないこともない。だが!それは普通の冒険者であればな!
「俺は採取専門なんでなっ!」
薬草を入れた籠をかついで森の中を逃げ回る。最近、受理しまくっている薬草採取のせいでなぜか体力がついているから多少の鬼ごっこは大丈夫だ。今日採取した薬草も籠の中に入れたままに走る。
「なにせっ!レドン草がっ!あんなにっ!あったんだからなっ!」
MP回復ポーションの原料であるレドン草。以前、調合方法を教えてもらったことのある金の成る草だ。これで少なくとも3本は作れるぞ!うしし。
後ろを振り返ると、追ってきているゴブリンが4匹にまで減っている。あれだけ走ったからな。これなら、イケるのかもしれない。してないけど修行の成果をみるがいい。
「たまにはっ!やっちゃいますかっ!っと。」
籠を外して久々に鉄の剣を抜く。シャリンという音が頼もしい。迫りくるゴブリンは4匹。まずは多勢に無勢な状況を覆す一手だ。
「ファイア!」
左手から炎の破壊魔法を繰り出して、後続の2匹を足止めする。まだ威力の足りない俺の破壊魔法ではゴブリンと言えども一撃でしとめることなんてできない。それどころかダメージなんて全くない。だが、この一手によって俺は囲まれることを回避できる。一瞬のひるみというものに限りなく価値があるのだ。
「でりゃぁぁああ!」
近かった1匹に斬りかかる。ゴブリンは俺より体格が小さいから、上からの攻撃になすすべもないだろう。全体重を込めた剣撃がゴブリンの頭部を襲う。
「ギィィン!」
あれ?なんで受け止められてるんだろうか?渾身の一撃なのに・・・。
「ぐぎゃあ!」
ごふぅ!蹴りを入れられただと!おのれ雑魚め!許さん!
「ふりゃああ!」
鉄の剣を横になぎ払う。これで首チョンパだ!
「ギィィン!」
「ぐぎゃ?」
「・・・・・・。」
こりゃ、やべえ!逃げよう!籠を拾って一目散だ!あいつら足が短すぎるから走るのも遅いな!ざまぁみろい!ばーか!ばーか!雑魚め!ばーか!ばーか!籠は絶対に持って帰るぞ。ばーか!ばーか!
さて、無事にエルライトの町に帰って来れたのはいいが、プライドはズタズタである。もともとそんなもんは存在しないけどな!残念ながら俺は採取専門の冒険者なもので!傷つくほどの努力もしてきてないんだ。ほんと、・・・泣けてきた。
「さっきから、コロコロと表情が変わって面白いんだが、薬草採取に行ったときに出会ったゴブリン相手に死にかけたって事でいいんだよな?」
「ええ、まあ。」
受付おっさんよ、見ろ。この薬草を!依頼は達成だ!文句あるか?なんだその憐みの目は?
「はいよ、依頼料銅貨8枚だ。」
「ありがとうございます。」
ともかく!これで今日の依頼は問題なく達成したし、もともとゴブリンの討伐なんて依頼はなかった。少なくとも俺は受けてねえよ。
しかし、このくそ弱さはなんとかした方がいいのは確実だ。どうしようか。・・・どうしようもねえな。今日は考えるのはやめておこう。銅貨8枚ももらったし、ホワイトボアの焼き串買って帰るべさ。
と、その前に。
「あのー、すいません。」
ここは近くの薬屋。
「はい、いらっしゃい。」
「MP回復ポーションって買い取ってますか?」
「どれ、見せてもらおうか。質によっては買い取ってもいいよ。」
「はい、これです。」
MP回復ポーションを店主に渡す。どうだ?どうだ?テト先生直伝の青汁は?
「うん、なかなかの品質だな。これなら一般の仕入れ価格で引き取ってもいいよ。」
「ありがとうございます。では、今のところ3つありますんで。」
持ってきた残りの青汁をあと2つ渡す。
「はい、じゃあこれが代金だ。またできたら仕入れてあげるよ。MP回復ポーションはどんだけあってもレイクサイド召喚騎士団が買い占めていってしまうからありがたいんだ。」
渡された金額を見て、固まる。・・・銀貨・・・だと・・・・?しかも・・・6枚?
「え、あ、はい。よろしくお願いします。」
・・・・・・なんてこったい!
時代は青汁だ!あんなまっずい物があんな値段で売れるなんて!?冒険者なんて時代遅れだ!もうギルドなんて通わなくてもいいんじゃないか?あんだけキュアリーフ納めても銅貨8枚だったのが青汁3本で銀貨6枚だぜ?はっはっは、本格的に薬草師をめざすのもありかもしれん。今日は御馳走だ!
「で、頑張ったはいいけどレドン草なんてどこにも全く生えてなくて青汁は作れず、豪遊したからお金もなくなり、露頭に迷ってまたここに戻ってきた、と?」
「はい、そのとおりです。」
「はあ、あまりにもバカすぎて何にも言ってやれんが、とりあえず薬草採取するか?」
「はい、お願いします。」
なんでだ!?なぜこうなった!?いままである程度の確率でレドン草を手に入れてたじゃないか!?なんで自ら探しに行くとないんだ?どうしてだ?
「あー、シウバ。レドン草ってのはな、魔力の多い所に生えるもんだ。」
ほほう。つまり?
「魔力が多い場所ってのは魔物も発生しやすくて、本来お前が自分一人で行けるような場所じゃないんだよ。だからレドン草は貴重なんだ。この前レドン草とってきた場所では死にかけたろ?」
・・・・・・分かりやすい説明、痛み入ります。
がっでむ!薬草師の道が断たれたか!
「しかし、他にも薬草を取ってきてるんだな?」
そうなのである。レドン草を収集しに行く傍ら、何かに使えそうな薬草を何種類かとってきていた。もし収集依頼があったら儲けものと思って持ってきていたが、今のところ依頼はないようである。
「それ、もしかしたら買い取ってくれる所があるかもしれんぞ?」
まじで!?
「紹介状くらいなら書いてやろうか?」
「お、お願いします。」
「銅貨2枚。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ちゃりんちゃりん。
「まいどあり。」
足元見やがって、あのじじいめ!将来薬草師として成功した時は覚えてろよ!この薬草を買い取ってもらったところの薬草師に弟子入りでもしていろんな薬を調合できるようになって見返してやる!最終的につくるのはあの受付おっさんのハゲ散らかした頭の毛をさらに薄くする脱毛薬だ!この俺に恨みを買った事を後悔するがいい!
そして渡された住所にたどり着いて、俺はさらに殺気を漲らせることになる。
「ここ、この前の薬屋じゃんか。」




